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12・容赦なんて知りません


 正面に控えるサンマ公爵とその令嬢。

 公爵自慢の一人娘はその表情を輝かせ、王子たちを見つめている。

 俗に言う王座の間。そこに居並ぶ臣下たち。

 玉座に座る御父様と、その隣に座る御母様。御母様とは反対隣にエイシャが立ち、ジダン王子、ザット王子と続く。

 一段低い所には宰相他重鎮が並び、後は身分順にチラホラと。

 昼食後に緊急召集をかけたここには、何とも言えない雰囲気が漂っていた。



―――なのに何故あんな顔ができるんだ?



 慌ただしく動き出した午前中。

 要望通りの書状を携えた早馬が出発した後、御父様と

御母様を交えた昼食の席。そこで今後の打ち合わせをし、国王陛下の名で緊急召集をかけていただいた。

 もちろん、監禁を言い渡した公爵令嬢も忘れずに呼び出して。

 普通であれば、己の処罰を言い渡される場だと気づきそうなものだが。公爵令嬢は微塵もそんなことは考えていない様子で、堂々と王子たちに熱い視線を送っているのだ。

 やっぱり、あの女はバカに違いない。



―――あの親にしてこの子あり、か?



 そんな令嬢の隣には、どこか誇らしげな表情の父親であるサンマ公爵。その視線は御母様とエイシャの胸元に注がれ、一人悦に入っている。

 御母様とエイシャの首を飾るのは、トパーズの首飾り。わざわざソレを目立たせる装いに着替え、この場に出ているのだ。


「さて、サンマ公爵。まずは王妃と王太子妃への心尽くし、礼を言おう」


 重々しく響く御父様の声に、公爵は深々と礼をとる。

 いくら公爵とはいえ、発言の許可を出されていない今は声を出すこともできない。


「まことに見事なる品。先ほど、ルードイの国王陛下にもお礼状を出しておいたゆえ、ソナタからの礼は不要」


 国王陛下からのその言葉に、公爵の顔は凍り付いた。

 続くのは、褒美の言葉だと信じていたはず。

 うまくいけば、娘の後宮入りの足がかりになったはず。

 きっと、ルードイはそうやって公爵を唆したのだろう。



―――甘いっつーの。



 令嬢は何を言われているのか理解出来ない様子で、不思議そうに公爵を見ている。

 一応、声を発することは出来ないと理解はしているらしい。

 まぁ、していなきゃ問題だが。


「公爵からいただいたこの首飾り。わたくしの記憶違いでなければ、ルードイ王家のモノだったはずなのですが?」


 まさか、これほどのモノがレプリカではないだろう、と。いつものふんわりとした微笑みを称えて口を開く。

 あえて国宝とは言わず、王家のモノと言葉を濁したのはサンマ公爵の反応を見るためだ。

 まさか、国宝と知っていたわけじゃないと思うが・・・。


「我が国に、ルードイよりこのような首飾りが輸入された記録はなかった」


「もちろん、コレが我が国の技術でないことは明らかです」


 エイシャに続いて、ジダン王子が、ザット王子が、公爵の首を絞めていく。

 まるで、真綿で締められるような、何とも言えない感覚に公爵はカタカタと小刻みに震え出す。



―――なんて無様なんだろう。



 さぁ、説明を、と陛下から言われて。

 公爵はへたりと腰を抜かした。


「お、おとうさまっ」


 そんな父親の姿に、令嬢は縋るように腰を折り。

 王子に、助けを求めるような視線を送る。

 が、ジダン王子もザット王子も、そんな視線に答えるはずもなく。

 とんだ茶番劇だなぁ、と思いつつ。

 それでも顔にはいつもの微笑みを張り付ける。


「そ、それ、それはっ」


 ガクガクと震える公爵を横目に、御父様と御母様を見てみれば。

 冷ややかな視線の御父様と、満面の笑みの御母様。

 あぁ、御母様も王族だ、と変な関心をしつつ、茶番の終了を望んだのだった。






 サンマ公爵から得られた情報は、こちらで掴んだ以上の物ではなかった。

 まぁ、予想はしていたが、サンマ公爵は所詮使い捨ての駒だったのだろう。

 分かっていた事とはいえ、それでも淡い期待はしていたわけで。

 少々の落胆とともに、公爵の扱いが予定以上にぞんざいになってしまったのは仕方がないことだろう。決して、私情ではないと思いたい。


「さて、困りましたね」


 公爵の処分を済まし、令嬢の処遇を決め、戻ってきたジダン王子の執務室。

 さしたる混乱もなく片付いた国内とは反対に、ルードイの方は決定打に欠ける状態だ。


「もとより強行のつもりでしたもの。問題はありませんわ」


 いい加減鬱陶しくなってきたところに舞い込んだ国宝。

 これ幸いに、というわけではないが、全てを手にすることに決めたのだ。

 多少強引に事を進めるつもりだったし、する事には変わらない。

 それでも、ジダン王子もザット王子も少しでも有利に事が運ぶように情報を求めていたのだろう。

 甘いなぁ、と思うが、政治的には間違っちゃいない。情報は多い方が良いに決まっている。


「エイシャ、ルードイの女王になるのですか?」


 この辺で、きちんと確認しましょう、とザット王子が言う。

 この首飾りを国宝としてエイシャに渡したのが証明できれば、絡め手でイーガル国属国ルードイから、イーガル国領地ルードイへとシフトチェンジさせるつもりだった。

 しかし、その確証は取れていない。こうなると、打てる手は決まってくるのだが・・・。


「その首飾り、ルードイ国王妃の証、だろう? どうするつもりだ?」



―――あれ、バレてた?



 そう、これは、ルードイ国王妃の証である国宝。国主の証である国宝ではない。

 国王はその生まれでもって王と認められるが、王妃はそうではない。ルードイは側室制度が認められていて、その側室も公に妻としての地位を得る。もちろん政務も与えられ、後宮で陛下のお渡りを待つだけの女ではない。

 政務の分担によって政治が滞ることなく回り、権力集中が減るのは利点だが、女たちの能力如何によっては政治的権力の偏りが起きる。

 簡単に言えば、身分は低いが政治能力に優れた側室Aと、身分は高いが政治能力皆無の側室Bが、方向性は真逆だが同レベルの権力を有する可能性か出てくるのだ。

 国を思い良き統治を求める理知者はAを支持し、その身分で甘い汁を吸い続ける腐った貴族はBを支持する。一見Aの方が優位のようだが、現実はそうではない。後見__後ろ盾__を考えればBの方が優位なのだ。己は無能でも後見者に相応の発言権と権力があれば、Bを使って甘い汁を吸いたい貴族たちに守られて、Bの地位も権力も安泰なのである。どちらも国を維持していくためには必要なモノであり、今更その制度を無くすわけにもいかないのだ。

 このパワーバランスを崩さないように、うまく維持していくために王妃という地位があると考えれば良い。


 そして、目に見える王妃の証がこの国宝というわけである。


「わたくしはジダンさまの妻になるのです。でしたらコレは、ルードイ国王妃の証ではなく、ジダンさまの妻の証にすればよいのですわ」


 ふんわりと、ジダン王子の好きな顔で微笑んで。


「ルードイ国はイーガル国王妃の受領地として王妃統治区としてしまえば良いのですわ」


 元はルードイ国の国宝だ。それを掲げて統治者となるにしても、国としての存続は難しい。


「なるほど。発想の転換ですか」


 ならば、国ではなく統治区と名を変えてしまえばいい。

 必ずしも国である必要は無いのだ。統治者が王であろうと王妃であろうと、統治する者さえ居るのであれば、荒れることはない。


「王妃は国母。国母は、国の母。国は土地と民。母は守り導く者。ならば」


「王妃は、その土地と民を守り導く者、か?」


 かなり強引な論だな、と笑うジダン王子。

 自分でもそう思うが、横暴だろうが強引だろうが、論として成り立てばいいのだ。


「ルードイ国王が、その統治権をわたくしに譲渡してくださったのですわ」


 本来は、ギブロアの妻が王妃の座に就くときに掲げる国宝。あまたの妻の中で特別であるという証明。

 あれだけエイシャを望んでいたギブロアだ。この首飾りでエイシャをその地位に就けるつもりだったのだろう。



―――でも、それに乗ってやるほど優しくない。



「わたくしに流れるのもまた、ルードイ王家の血。何の問題もありませんわ」


 身分は低かったが、ルードイの貴族だった母と、実弟に討たれる無能だったが、前ルードイ国王であった父を持つエイシャ。そんなエイシャがルードイの統治権を持ったとしてもおかしくはない。そのうえ、後ろ盾は大国イーガルだ。いくら悪政を強いた前国王の血でも、反論できる要素は限りなく少ないだろう。


「ならば、そのように進めましょう。現王家の証明は必須ですからね」


 断ってはいたが、必要ならばエイシャの身分回復も視野に入れて。

 愛し愛され、幸せな生活を送るであろうエイシャの一生。ならば、憂い無くこの仮初めの人生を楽しむために。


 やると決めたからには、徹底的に。



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