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11・え? 国宝ですか??


 机に積まれた沢山の書類。

 それを処理するジダン王子。

 処理済みの書類の山が未処理の山を越えた、ちょうどそのタイミングで。


「兄上、追加です」


 一抱え以上の書類を引き連れたザット王子が入ってきた。


「またか・・・」


 うんざりとした様子でザット王子の後ろ――書類を持った侍従を眺めるジダン王子。

 婚儀の準備と通常執務、そしてサンマ公爵とルードイ国の繋がりと、ジダン王子は多忙を極めていた。


「今日はこれで最後です」


 言いながら、開いているスペースに追加書類を積ませて、処理済みの書類へと手をかけるザット王子。


「・・・これは?」


 持ち上げようとして、所々出ている紙に気づいて疑問を口にする。


「各部署事に分けてあります。間違ってはいないと思いますが、ご確認ください」


「エイシャが?」


「はい。出すぎた真似をいたしました」


 少しだけ厳しくなったザット王子の声に、いくら王太子妃でもマズかったかと謝罪を口にしたのだが・・・。


「とんでもない。細かく分かれていますし、完璧です」


 このまま各部署に配れますとの言葉通り、侍従たちにそれぞれ持たせて走らせる。


「エイシャは、執務もこなせるのですね」


 王妃教育は不要ですね、と。

 ザット王子に誉められた。


 ここは、ジダン王子の執務室。

 婚儀の準備一切を取り仕切る御母様の命令で、朝からここに出向いていた。

 なんでも、準備は全て御母様が行うので、エイシャはジダン王子と一緒に居なさい、とか。

 よくわからない言いつけに首を傾げながらも、着せかえ人形よりはマシ、と大人しくここに居るのだ。

 初めのうちは大人しくしていたのだが、段々と手持ち無沙汰になり。黙々と書類を片づけるジダン王子の傍らで、書類整理を始めたのだ。

 整えるだけだった整理も、どうせなら、と部署毎に並び替え。部署毎に並び替えれば、バラバラの順番が気になり詳細毎に並び替えた。

 単なる暇潰しの一環だったのだが。


「あぁ、下手な文官よりもよっぽど優秀だ。エイシャ、毎日手伝いにこないか?」


 本気とも冗談ともつかないジダン王子の言葉にふんわりと微笑んで。


「お茶のご用意をいたしますね」


 ザットさまもご一緒に、と簡易キッチンに向かう。

 あの首飾りの一件から三日。

 揃いつつある調査結果を纏めるのに、丁度良い頃合いだろう。



 お茶とお茶菓子を用意して戻れば、ソファに座る二人の姿。テーブルの上に置かれている数枚の書類。やはり、考えていることは同じらしい。


「ありがとう、エイシャ」


 エイシャの定位置となっているジダン王子の隣に腰掛けて。腰を抱かれて引き寄せられて、お礼とともにこめかみに落とされる口づけも、既に慣れてしまった。

 愛されている、のだろう。きっと。


「エイシャの言ったとおり、あの時の書状は王太子がこちらで書いたものでした」


 そんなジダン王子とのやり取りを、こちらも慣れているザット王子は気にもせず。

 テーブルに置かれている書類の中から、二枚を差しだされる。

 それは、ルードイ国王の王印の入った書状。

 一枚は、先日ギブロアが持ってきたであろう、エイシャの招待の綴られたソレ。もう一枚は、ミジャンの行いに対する謝罪の書かれた物。



―――あぁ・・・。



「筆跡が違いますね。では、ギブロアさまが王印を持って?」


 似せてはいるが、明らかに違う筆跡。しかし、王印は本物、というおかしな物だ。

 王印さえ本物であれば、それは国王からの正式な書状として扱われる。

 つまり、王印さえ押してあれば、わざわざソレが本物かどうかなど調べることはしないのだ。


「いや、国で押してきたのだろう。文面から考えれば、位置がおかしい」


 ジダン王子に言われてよくよく見てみれば、文末から署名王印までの位置が離れすぎている。

 普通であれば、後から文章が足されないように文末すぐに署名王印が入る。

 にも関わらず、ギブロアが持参したという書状には一文以上書き込めるスペースが空いているのだ。



―――なるほど。ギブロアが王印を持っていたと考えるには不自然か。



「では、ルードイは関わりなし、ですか?」


 全てギブロアの独断であれば事は簡単だ。ギブロアの王位継承権が剥奪されるぐらいで丸く収まる。

 もちろん、いくら自国の王太子だからとはいえ、王印を押した空の書状を持たすなど許される事ではないが。まぁ、それは国内の問題であって、こちらがどうこう口出しする事ではない。

 きっちり、交渉の道具として使わせてはいただきますが。


「それが、そうでもなさそうなのですよ」


 などと思っていたのだが、期待虚しくザット王子から渡された報告書。

 そこには・・・。


「バカですか? いえ、バカですね」


 王家には、代々受け継がれている国宝という物がある。

 まぁ、多くの場合は王冠であったり、聖剣と称される物であったり、巨大な宝石だったりするわけだ。

 ソレは王家の象徴として宝物庫に保管され、大きな儀式等にしか出される事はない。

 イーガルの国宝は、国王と王妃の王冠。スタールビーを中央に配された素晴らしいモノだ。


 そして・・・。


「ルードイの国宝は、上質なトパーズを使った首飾り、でしたね」


 まさかソレが本物とは、と嘆息するザット王子の言葉通り。

 ルードイの国宝は、巨大な上質のトパーズを大小五つにカットして使用した首飾りだ。元は一つの塊だったため、色ムラが無く同じ輝きをそれぞれが放つ。実物は見たことがないが、そういうものだ、という知識はある。



―――それが、これ、ねぇ・・・。



 サンマ公爵から贈られた首飾り。

 中央に大きな赤金色のトパーズが配され、その左右に一回り小さいトパーズが並べられている。他の宝石は一切使わず、それでも豪奢に見えるのは施された細かい彫り細工のおかげだろう。

 この報告書に間違いがなければ、これはルードイの国宝、だ。


「御母様用の首飾りは偽装用ですか」


 御母様に贈られた首飾りは、コレと似たデザインだった。中央のトパーズの周りを飾っていたのは、確か色違いの石だった。中央のトパーズも茶金色。色の配置で負けず劣らず豪奢に見えるが、石の質は格段に下がる。

 エイシャにだけ豪奢な首飾りを贈っては悪目立ちするため、御母様用の首飾りも用意した、ということだろう。

 見かけだけなら同じ程度の豪奢なモノであれば、余計な警戒心を抱かれなくてすむ。



―――それよりも。



「国宝まで動かしたのであれば、無関係と言えないだろう」


 ジダン王子の言葉に頷く。

 常識的に考えて、宝物庫は国王陛下しか開けることは出来ないはずなのだ。

 つまりこの件は、ルードイ国王も噛んでいる、ということ。サンマ公爵と繋がっているのは、ルードイ国、ということだ。


「面倒ですね」


「えぇ、本当に面倒です」


 素直な感想に、ザット王子も同意する。

 どうしようもないほどに面倒なのだ。


「国宝、だしな」


 そう、国宝、だ。国の宝だ。王家の象徴だ。

 乱暴な考え方をすれば、国宝をかざして王と名乗りを上げることも可能なのだ。

 逆に言えば、即位の時に国宝がないと恰好が付かないということ。



―――それしかない、か?



 本当なら、こんな事はしたくないが。

 傷を浅く済ませるのであれば、これしか方法はないだろう。

 だいたいの予想はつくが、ルードイ側の思惑など知ったことではない。

 腹を決めれば、後は行動あるのみ。


「ジダンさま、ザットさま。ルードイ国王に『見事なる首飾り』のお礼をイーガル国としてしていただきたいのです」


 手元に届いてから三日。

 しかし、御母様にはエイシャの手に渡ったことは伏せていただいている。なかなか機会が無く渡せていない、とサンマ公爵には伝えられているのだ。

 だから、ルードイ側はまだ知らない。


「・・・いいのですか?」


 今ならまだ、違う手もあるだろう、とザット王子は言う。


「いらない、のだろう?」


 それをしてしまえば、後戻りは出来ないと。

 ジダン王子は、顔をしかめる。


 それでも。


「これ以上は無理ですわ。ならば、全てをこの手に」


 本意ではないけれど。

 これ以上先延ばしにすれば、取り返しがつかなくなるのは明らか。


「十年に満たない治世ならば、まだ混乱は少ないでしょう」


 国土の回復は、イーガルの支援によるモノ。

 国民にとって大切なのは、王ではなくその生活。自分たちの住む土地が小国であろうと、大国の領地であろうと、国民には何ら関わりはないのだ。


 それならば。


「属国から領地に変わったところで、国王から領主に変わったところで、何の問題がありましょう」


 国宝を戴くにふさわしくなってやろうじゃないか。




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