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八天の聖剣  作者: 蒼風
二章襲撃
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二章二話風紀委員へ

 総一が言ったとおりあれから二日後には警備員の数が増えたようだ。

 学園内を歩きまわっても所々で警備員の姿が目につくようになった。

 総一の話では新たに来た警備員は全員彼の機関の人間という話だが、そもそも以前からいる警備員の顔も知らない剣二にはどれがその人間なのかわからない。

 と、一人の警備員と視線が合ってしまった。

 とりあえずお辞儀をすると相手の方もお辞儀を返してきた。

 そうして剣二は自分の教室に戻って行った。

「なあ、警備員の数が増えたみたいだけど気がついてた?」

「そうなの?」

「ああ、やたら目に付くと思ったら増えてたのか」

 教室に戻ってもそんな話が聞こえてくる。

 やはり、こういうのはさり気無くという訳にはいかないものらしい。

 やはり皆、変化には敏感ということなのだろう。

「警備員が増えてるみたいだけど何かあったのかな?」

 席に着くと早速綾香が話しかけてきた。

「さあな」

 理由を知っている剣二としては素っ気なくそう答えるしかない。

「それにしても剣二もうっかりなところあるんだね。アーティファクトを無くすなんて……」

「まあな」

 なんともいえない表情を彼は浮かべる。

 アーティファクトに関しては家に帰る途中で無くしたという事になっている。

 通常、アーティファクトの紛失は悪用されるケースもあるため警察に届け出る必要があるがその辺は総一の協力もあるので大丈夫だ。とりあえずは警察には既に届けたという話になっている。

 楠先輩には昨日のうちに頼んでいる。正直に理由を話したとはいえ非難されるような視線を向けられたのは無くした自分が悪いのだから仕方ないがそれでも了承してくれたことはありがたかった。

 話によると一週間。予想以上に早いことに驚いたが型と細かなデータがあるからだそうだ。

 ちなみにその間、剣二の実技の授業はマラソン等の基礎能力を上げる訓練だけになる。

 本人としても物足りない気分だが仕方ない。

「楠先輩にはもう頼んでるんだっけ?」

「ああ、一週間ぐらいだそうだ」

 何気なく返した答だったがそれを聞いた途端、綾香は目を丸くして驚く。

「え?そんなに早いの?」

 やっぱり予想以上に早いんだな、と考えつつ改めて楠奏の凄さを実感する剣二だった……

 そしてその一週間後……

 アーティファクトが完成したという連絡が剣二の携帯に届くのだった。



「どう?」

 そう言われて剣二は剣を動かしてみる。

 時間は放課後、連絡を受けたその日に剣二は受け取りを希望しこの時間となった。

 剣は剣二の思ったとおりの軌道で移動し見事な調整をその身で実感することができた。

「問題ありません。こんなに早くありがとうございました」

 お礼を言ってお辞儀をする。

 それを聞いて話は終わったとばかりに奏はディスプレイに視線を向け何か作業を始めた。

「それとこんなに早くせっかく作ってくれたアーティファクトを失ってしまったすみません」

 しかし剣二の話はそこで終わらず今度は謝罪の言葉を口にする。

 その言葉に奏は手を止め、剣二の方に視線を戻す。

「一つ確認させて」

「はい、何でしょうか?」

「あれはあなたの役に立った?」

 少し首を傾げて尋ねてくる彼女の問いに剣二は少し答えを考えるがやがて次のように答えた。

「はい。あのアーティファクトのおかげで今ここに生きています」

「それなら問題ない」

 剣二の答えを聞いて奏は少し満足そうな表情を浮かべると再び視線をディスプレイに戻し何かの作業に没頭していった。


 そして剣二はグラウンドに立っていた。

 前回の襲撃者の戦い。

 逃げきることができなければ自分は死んでいただろう。

 次に襲撃する時はまず間違い無く相手はこちらを逃がさないように対策をたててくる。

 そうなってしまえば今のままでは前回と同じ結果を迎えてしまう。

――今よりももっと強く……

 その思いが体中を駆け巡る。

 気がつけば剣二はアーティファクトを操作していた。

 最初剣はそれぞれ思い思いに飛んでいたが突然集まってショットガンの弾のように飛ばしたり、剣に剣を弾かせて軌道を急速に変更させたりといろいろな動作を試していく。

 そうして剣を足場にした移動の後、剣に乗って空を飛ぶと次の瞬間には剣から飛び降り左右の腕で2本の剣を掴み着地と同時に前へと踏み込み2本の剣を振り回す。

 斬り上げ、突き、振り下ろし、水平斬り。様々な剣戟を繰り出す。

 動き自体は悪くない。いつも通りだ。

 だからこそ、剣二は満足していなかった。

 あれから一週間近く経過したにも関わらず向こうからの動きがない。

 相手が諦めたのならそれがいいがさすがにそこまで楽観はできない。

 正直、翌日すぐ襲ってくるのではないかと考えていたのだがこれはこれで逆に不気味だ。

 すぐに襲ってこない理由は何か?

 怪我を治している?

 あり得る話だ。腿と足に剣が刺さったのだ。完治するにはそれなりに時間がかかるだろう。

 しかしそれ以外の理由もあるのかもしれない。だがそれが何なのかは検討がつかない。

 だからこそ得体のしれない不気味さを感じてしまう。

 今のままでは自分は不利だ。

 相手は強い。それだけでも不利なのにアーティファクトの相性が悪いことが不利な状況に拍車を掛ける。

 相手の氷に剣が捕まれば剣に自力で逃れるすべはない。

 氷を粉々に破壊出来れば再び動かすこともできるのだが残念ながら氷を斬る事はできても破壊する術を剣二は持っていない。

――何か方法はないのか?

 その方法を考えながら剣二は体を動かす。

「綺麗な剣舞だね」

 聞きなれない声が聞こえたはそんな時だった。

 反射的に声のした方へと構えてしまうが相手の姿を見てその構えを解く。声の主が同じ学校の生徒だったからだ。

 剣二の視線の先、そこには男子生徒が立っていた。

 外見的に恐らく3年生だろう。

 男子生徒はこちらにゆっくりと近づいてくる。

 剣二はちらりと彼の左手を見た。

 彼の左手には彼のアーティファクトであろう鞘に収まった日本刀が握られていた。

「初めまして八神剣二君。僕は東堂達也(とうどう たつや)。よろしく」

 そう言って相手は丁寧に挨拶をしてきた。

「どうして俺の事を?」

「君の事は君が思っている以上に有名だって事だよ。それに泉堂さんからも君の話は聞いてるからね」

「綾香から?」

 見知った人間の名前が飛び出して剣二は疑問を覚えるがその疑問は次の彼の言葉で解決する事になった。

「どうやら気がついてないようだね。僕はこの学園の風紀委員長だよ」

 それで疑問が氷解した。綾香は風紀委員に所属している

 それで彼女から自分の事を聞いたのだろう。

「それで風紀委員長が俺に何かようですか?」

「いや、君の剣舞がきれいだったからね。思わず話しかけたという訳さ」

 綺麗な顔立ちの彼はそう言って笑みを見せる。

 それは女子だったら喜びそうな綺麗な笑みだ。

「それにしてもおしいね」

 と、そんな事を考えていると、呟くように漏らした達也の感想が剣二の耳に届いた。

「おしい?どういう事ですか?」

 それを聞きとがめ剣二は達也に聞き返す。

「うん。八神君って剣を振るときアーティファクトの力と腕力にしか頼ってないでしょ?」

 彼の指摘に剣二は自分の動作を思い出す。

 確かに彼の言うとおり剣二の近接戦時の剣の振りはアーティファクトの力と腕の力を使っている。

 しかし、だから何なのか剣二には理解出来ない。

「ご指摘の通りだとは思いますがそれがどうかしたんですか?」

「うん。剣を振る際にはね。腕だけじゃなく手首や肩、腰とか体全体を同時に使って振るのがベストだよ。その方が速く振れるし威力も出るから」

 そう言われ剣二はイメージしてみる。

 ……なるほど確かに腕だけで振るのと体全体を使って振るのとでは同時に複数の部分を使っている分、後者のほうが早いだろうし体全体の力を使う分威力も出るだろう。

「詳しいんですね」

「実家が剣術の道場だからね」

 なるほど、と剣二は納得する。それなら詳しいはずだ。

 そう考えた剣二はある事を思いつき駄目もとで達也に尋ねてみることにした。

「あの東堂先輩。よろしければ剣術を教えてくれないでしょうか」

「え?」

 彼にしてみれば突然のお願いだ。

 これまで剣二は自己流で剣を使っていたが彼の指摘していた事を全く思いつきもしなかった。

 そういう所から考えてみてもこのまま一人で剣を磨いてたところで上達は遅い事が予測される。ならば誰かから教えを受けたほうが一人でやるよりも遥かに早く上達できると予想する事ができる。

 見れば達也は何かを考えているのか腕を組んで目を瞑っていたがやがて目を開けてこちらに視線を向ける。

「いいけど、条件があるよ」

「何ですか?」

 こちらとしても頼む以上はある程度聞き入れる必要はあるだろう。とりあえず聞いてみることにする。

「うん。それじゃあ剣術を教える代わりに風紀委員に入ってもらおうかな」

「……風紀委員って今からなれるものでしたか?」

 風紀委員の人員は春に集めると綾香の口から聞いた覚えがある。

「基本的に春先に集めるけどそういった決まりはないよ」

 彼の疑問に達也は答えを返す。

「それで、どうする?」

 問われ剣二は考える。

 風紀委員になる事にデメリットはあるのか?一番のデメリットは風紀委員の活動によって時間を縛られる事だが今の状況なら問題ないだろう。襲撃を逃れるなら多くの人の中にいた方が相手も手を出しづらい。おまけに現在学園内には総一の組織の人間もいる。下手な場所より安全だ。

「わかりました。ですけど大丈夫なんですか?」

 彼の心配はいきなり自分が入ったことで問題が生じないかという心配だ。

「それは大丈夫だと思うよ。君の実力は有名だから入ったとしても皆納得してくれると思うけど」

 それを聞いて剣二はその有名になった原因を思い返してみる。あの時は目立つことになってやっかいだと思ったものだがこうも意外な形で役に立つとは……

「それじゃあ、ちょっと生徒会に報告に行ってくるよ。剣術は明日からでいい?」

「はい」

「うん。それじゃあ明日。それが終わったら風紀委員について詳しい話をするね」

 そう言うと彼は校舎の方へと戻っていった。


「ねえ、剣二」

 翌日の昼休み……

 弁当を取り出していると隣の綾香から声を掛けられた。

「なんだ?」

 弁当を机に置いて剣二は尋ねる。

「剣二が風紀委員に入るって話があるんだけど本当?」

「早いな……」

 その話をしたのは昨日の放課後だったはず。幾ら何でも早過ぎる。

「って事は本当なんだ?」

「まあ、な。東堂先輩に剣術を教えてくれと頼んだら交換条件としてな」

 驚いた顔をする彼女に剣二は事情を説明する。

「へぇ、そうなんだ」

 その声がどこからうれしそうなのは気のせいだろうか。

「いつ入るの?」

「放課後、指導が終わったら詳しい説明をするって言ってたからもう少し掛かると思うけど……」

 昨日の話を思い出しながら剣二は答える。

「ふ~ん……あ、そうだ」

 そう相槌を打ちながら綾香は弁当を食べていたが不意に何か思いついたのか顔を上げる。

「その放課後の練習。見学に行ってもいい?」

「別にいいけど……」

 自分の練習の姿を見られるというのは何となく気恥ずかしさを感じるものだったが特に断る理由もない。

「うん。それじゃあ放課後ね」

 そうしてこの話はそこで終わった……

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