表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
八天の聖剣  作者: 蒼風
一章新たな生活
5/22

一章五話襲撃

 剣二がアーティファクトの調整を受けていた頃。

 綾香は風紀委員の会議を終えて帰途についていた。

「はぁ……」

 思わず溜息を漏らす。

 溜息の原因は八神剣二の事だった。

 彼が来てから数週間が経過した。

 模擬戦の事もあって上級生下級生問わず彼は注目されるようになってしまったがそれでも上手く学園に馴染んできている。

 しかし、何故か自分が話しかけると彼はぎこちない動きで反応してくる。

 編入初日はそれほど問題なかったしそうなった原因に綾香は心当たりがない。

「どうしてなんだろうな……」

 一人そんな事を呟いてしまう。

 正直彼とは仲良くなりたい。

 それは男女という意味ではなく同じ立場ににいる者という意味でということだ。

 綾香は入学前から父親の件もあって有名だった。学園に入りその実力を見せてからさらにそれに拍車がかかっている。

 周囲はそんな彼女を尊敬している。それは下級生からだけでなく同級生や上級生からもだ。

 皆、自分のことを天才と言っているが本人からすればそんな事はない。ただ、他の人達より多くの努力をしてきただけのつもりだ。

 だから、綾香は剣二の実力を見た時。彼もまた自分と同じよう側の人間だと思った。

 病気というハンデを背負っているがそれを足かせと思わず努力で乗り越えようとしている。

 だからこそ、同じ立場同士いろいろと話をしたいと思っていたのだが……

 彼の態度のせいでそれができないのだ。

――……一体どうしたらいいんだろう?……

 そんな事を考えてたせいだろうか。

 彼女が彼に気がついたのは彼が真後ろまで近づいた時だった。

 訓練の賜物だろう。反射的に飛んでいた。でなければ彼の短剣で斬られていただろう。

「いい反射神経だ」

 襲いかかってき男も彼女の動きには感心しているようだ。

 綾香は相手を観察する。

 黒いコートに耳にピアス。灰色に染められた髪に不気味に大きく見開かれ目をした男。記憶を探ってみるが残念ながら思い出される記憶はなかった。

「いきなり襲いかかるなんて……どういうつもり?今の下手したら死んでるわ」

「何を驚いてるんだ?そのつもりで襲ったんだが……」

 綾香の抗議に男は平然と答える。

「え?……」

 その答えに綾香は驚く。

「悪く思うなよ。恨むんなら俺達を追い詰めたお前の親父さんを恨むんだな」

 その言葉に綾香は合点する。

 父である泉堂刀弥は軍で働くアーティファクターで以前どこかの紛争を解決したことで国内では英雄扱いとなっている。

 現在はどんな事をしているかは彼女は知らないが恐らく、この男の襲撃は父の仕事に関係するのだろう。

 無言のまま彼女は杖を構える。

「いいね~。やっぱり殺すなら抵抗してくれた方が楽しいからな」

 抵抗の姿勢を見せたことに相手は喜んだようで喜悦した表情を浮かべてこちらを見つめる。

「それじゃあ、いくぜ!!」

 そう言うと同時に男は綾香の目前まで接近していた。

「え?」

 余りの速度に綾香は驚く。慌てて砲撃を放つが男は悠々とその砲撃を避けてしまう。

「おいおい、どこ狙ってんだ?」

 呆れたという声を出しながら男は再び綾香に近づくと短剣を振り下ろす。

 あまりの速度に綾香は相手の腕が見えなかった。右肩を斬られたと気がついたのは右肩に痛みを感じたためだった。

「おっと、手元が狂っちまった」

 男は狙いが外れたのにうれしそうな声でそう言う。それは楽しみがまだ続くことを喜んでいるかのようだ。

「もっと楽しませてくれよ」

「こ……の……」

 再び砲撃を放つ。しかし男は圧倒的な速度でそれを避けると再び彼女に接近する。

 一方の綾香は相手のアーティファクトの効果の正体を見極められず、どうすればいいかわからない。

 と、いうのもアーティファクトの効果に術者の身体能力を直接的に上昇させる効果は存在しない。

 そのため、今目の前で起こっている現象は単純に自身の速度を上げるという効果ではないという事だ。何らかの方法でそのように見えているだけなのだ。

 それがわかれば何かしら対抗策が見つかるかもしれない。しかし、正体がわからなければ対抗策のしようがない。

 再び男の一閃。今度は左腕。思わず右手で斬られた所を抑えつける。

 そこへ今度は男の蹴りが繰り出される。

 見えない速度で繰り出された蹴りを受けて彼女は吹き飛び壁に全身を打ち付ける。

 その直後に右の脇腹に痛みが走る。見るとそこに短剣が刺さっており目の前にはあの男が立っていた。

「もう終わりか?」

「まだよ」

 見下ろすように尋ねる男に綾香は苦しそうな表情を見せつつもそう答えると自身の左手で相手の腕を掴む。

「あん?」

 何をするのかという表情を男は浮かべる。

 それを無視して綾香は右手の杖を目の前の相手に向ける。

「!?この!!」

 それで相手はこちらの意図がわかったらしい。短剣を脇腹から抜いて離れようとするがそれを掴む左手がそれを離さず離れる事ができない。

 どれだけ早く動くことができようが動きを封じてしまえば避けることはできない。

 さすがにこれだけ近いと自分もかなり厳しいがそんな事をいっていられる余裕はない。

「これで!!」

 そうして砲撃が放たれた。彼女が狙っていた方向とは違う方向に……・

「え?何で……」

 腕を動かしたつもりはない。しかし、右腕に抵抗出来ないほど大きな力が加わったかと思うと杖と腕が彼女の意志に反して別の方向に向いてしまったのだ。

 その隙を見逃さず男は彼女の左手に掴まれていた腕を引き離すとそのまま距離を取った。

「いや~。さすがに今のは焦ったぜ……」

「まさか……アーティファクトの力は……」

 今にも倒れそうな己の体を辛うじて支えながら綾香は呟くように相手に問いかける。

「どうやら気づいたようだな。俺のアーティファクトの能力は特定の場所に指定方向への運動エネルギーを付加する場を展開する能力だ」

「効果……補助型……」

 切れ切れの言葉で相手の系統を呟く。


 効果補助型は直接攻撃能力を持たない効果を持つアーティファクトの系統。攻撃能力は高くないが効果補助は自身を助けたり相手を妨害する能力等非常に嫌らしい効果が多く、使いようによっては非常に強力な力をもつアーティファクトでもある。


 恐らく男は自身のアーティファクトの効果を使って自身の移動の際に自分自身がいる場所ににナイフを振る時は自分の腕のある場所に場を展開したのだろう。

 そうすることで運動エネルギーが付与されて速度が上昇するという仕組みだ。

「まあ、場の展開できる範囲はそこまで広くはないがこれはこれで中々いい能力だぜ?」

 笑みを浮かべ男はそう言うと足元に落ちていた小石を拾うとこちらへ全力で投げてきた。

 と、小石が男の手から離れたと同時に見えなくなる。恐らくアーティファクトの効果を使ったのだろう。

「ぐっ」

 そう思った直後、腹の辺りから鈍い音が聞こえた。その瞬間、息ができなくなり何かを吐き出そうとする嘔吐感が込み上げてくる。

 思わず膝をついてしまう。呼吸ができるようになって足元を見るとやはりというべきか、男が投げた小石がそこにはあった。

「全く、お前の親父さんのせいでこっちは散々だぜ。折角、こっちが苦労して集めたアーティファクトを全部台無しにされたんだからな」

 そう言いながら男はコートをまくる。そこにはおびただしい数のナイフがあった。

 男はアーティファクトを持っていない方の手でそのうちの一本を手にとった。

「まあ、運良く逃げることはできたんだが、そうすると折角の苦労を不意にしたお前の親父さんに腹が立ってきてな。それで調べてみたら娘さんがいるそうじゃねぇか。これはそいつに変わりに痛い目にあってもらうしかないよな~?」

 そしてナイフを投擲する。

 アーティファクトの効果で速度を上げたナイフは綾香の右手の甲に刺さる。

「ああっ!!」

 その痛みに綾香は思わず悲鳴をあげる。

「ん~。いい悲鳴だね~」

 そう言いつつ男は新たなナイフを手に取ると再び彼女にめがけて投げる。

 今度は頬をかすめて後ろの壁に当たった。

「ん~外れか。やっぱり狙いをつけるのには向いてないな」

 自分のアーティファクトを見ながら男はそう漏らす。

 男はその後もサーカスのナイフ投げの要領で次々とナイフを投げていく。

 肩や腕、背中。ナイフは次々と彼女に刺さっていく。しかし、彼は頭を狙うことはなかった。恐らく楽しみを引き伸ばすためだろう。

 しかし、それもやがては飽きる。

「あ~。飽きちまったぜ。それじゃあこれで最後にしますか」

 そう言って男は最後の投擲を始めようとする。

「じゃあな。最初に言ったように恨むならお前の親父さんを恨むんだな」

 その言葉を手向けに男はナイフを投擲した。

 狙いは頭。アーティファクトの効果で速度をあげたナイフはそのまま真っ直ぐ彼女の頭に飛んでいき……

 響いたのは金属音だった。

 聞こえるはずのない音。しかし、その音は確かに聞こえてきた。

 彼女が見たのは見たことのある剣が男の投げたナイフを弾く光景だった。

「なんだ~?」

 予想外の展開に男は疑問を口にする。

 その直後、男の背後から2本の剣が襲いかかる。

 男は自身のアーティファクトの効果でそれを避ける。しかし、避ける先を予想していたのか、避けた先には別の剣が男を待ち受けていた。

 短剣を使い男は待ち構えていた剣を弾く。と、その剣の影に隠れていた別の剣が男の足元に迫る。男はまだ動ける状態ではない。

 咄嗟にアーティファクトの効果を使う。場に触れた剣は場に付加された運動エネルギーに従い指定された方向に弾かれる。

 そうして男は周囲に警戒しつつ、そのアーティファクトの使用者を見据える。綾香も同じようにそちらを見ていた。

 予想通りそこには見知った姿があった。

「八神君……」

「泉堂。大丈夫か?」 

 剣二はズタボロの彼女の様子に心配そうな声で尋ねてくる。

「……ん……ちょっと、大丈夫じゃないかも」

 苦しそうな状態にも関わらず彼女はそう言って彼に笑みを見せる。

「そうか。悪いがもう少し待っててくれ。これが終わったら病院に連れて行くから……」

「わかった……」

 剣二の言葉に綾香は安心したという表情を浮かべる。

「おいおい、勝手に決めるんじゃねぇよ」

 新たな登場人物に最初、男は驚いたが時間が経ってとむしろ邪魔されたことに腹が立ってきたようだ。自身が怒っていることを隠そうともせず怒りの声を剣二にぶつけてくる。

「そこの女は俺が殺す。ついでに邪魔したてめぇも殺す。これは決定事項だ」

 そう言って男はアーティファクトの効果を使って剣二に接近しようとしてくる。

「剣二!!」

 急いで相手のアーティファクトを伝えようと口を開こうとする綾香。しかし……

「わかっている」

 それよりも早く剣二が答える。その時には相手の姿が消え、しかし同時に剣も動いていた。

 短剣と剣がぶつかり合う。

「ちっ」

 男は結び合うことはせず後ろへと飛んで距離を取る。

「あんたは自分の邪魔をされて怒っているようだが……あんた以上に俺も怒っている」

 その声から激情に駆られているという様子はない。だが、確かに彼は怒っていた。

「泉堂をこんな目に合わせて……」

 何故ここまで怒っているのか彼自身にもわからない。だが、記憶の奥深くからそれは聞こえてくる。

――……をこんな目に合わせたこいつだけは許すわけにはいかない……

「……覚悟はできてるな?」

 静かな、だが迫力ある声で剣二は相手にそう告げる。

 そして戦いが始まった……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ