最終章エピローグ
剣二は病院の廊下を歩いていた。
廊下には患者や看護師の姿が行ったり来たりしている。
「あら、今日も来たんだ」
その中の一人、顔見知りの看護師の女性が剣二に気がつき声をかけてくる。
「はい」
「毎日顔を出すなんて殊勝ね。彼女も喜ぶわ」
「そりゃあ、家族ですから」
褒める看護師に剣二はそう返す。
「退院いつだっけ?」
「先生の話だと夏休みが終わる頃にはと言ってましたけど……」
「そっか。あ、それじゃあ、仕事があるから」
「はい」
そう言って看護師はその場から去っていく。
それを見送った剣二は再び彩花の病室を目指して歩き始めた。
あの事件の後、彩花は病院に運ばれた。そうして体力を取り戻してから彼女の体内にあるアーティファクトの装置を取り出す手術を行い、それも無事に成功した。
後は体調が完全に回復すれば退院できるそうだ。
喜久雄がどうなったのかは知らない。あの後、彼は総一の機関が確保したそうだ。
それからのことは向こうが特に言ってこないので問題ないのだろう。
そうこうしているうちに剣二は目的の病室に辿り着く。
まずはドアをノックをする。
「どうぞ」
中からの返事と共にドアを開け剣二は病室へと入る。
「兄さん」
病室のベッドには彩花が横になっていた。
病院の服を来て、こちらに顔だけを向けている。
ノックの主が兄だとわかると、彼女は嬉しそうな表情を浮かべた。
「調子はどうだ?」
彼女のベッドに近づきながら剣二はそう尋ねる。
「悪くはないかな。兄さんに打たれたところはまだ少し痛むけど……」
尋ねられた彩花はそう答えお腹の部分をさする。
「仕方ないだろ。他にやりようがなかったんだから……」
「わかってる」
むっとした表情で反論する剣二に彩花は笑みを返す。
「全く……変わらないな……」
「兄さんもね……」
そうして二人とも苦笑する。
「一年ぐらい離れていたはずなんだがな……」
「そんなこと全然感じないね」
同じような感想を抱いていることに二人はやっぱり、兄妹だなという考えが浮かぶ。
「それで、兄さんはこの一年を何をしてたんですか?」
そう妹に尋ねられた剣二は、これまでのことを思い出しながら話す。
「それなら心配なさそうですね」
「一体何を心配してたんだ?」
安堵の顔を浮かべる妹に剣二は疑問の表情を浮かべる。
「いいじゃないですか。それよりその泉堂綾香さんのこともっと教えてください。何だか似ているところが多くて友達になれそうな気がします」
「まあ、その辺は俺も同じ感想だな」
彩花の言葉に微笑を浮かべて剣二は答える。
そうして二人は時間が来るまで話を続けたのだった……
そして始業式……
夏休みが終わり、学生たちが次々と学校に登校していく。
当然その中に剣二の姿があった。
彼の隣には彩花の姿もある。
「ここが兄さんが通っている学園ですか」
学園の校門を見上げて彩花がそう呟く。
「ああ、そうだ」
その言葉を剣二が肯定する。
二人の周囲を他の生徒たちが通り過ぎていく。
無論その中には剣二の顔見知りもおり、彼らは剣二の隣にいる見知らぬ少女の姿に驚きながらも、そのまま校門の中へと入っていく。ただ一人を除いて……
「あれ? 剣二どうしたの?」
そう言って近づいてくるのは綾香だ。
「ああ、綾香か」
彼女に気が付いた剣二はそう言って声をかける。それを聞いて妹も彼女の方に視線を向ける。
「もしかして彼女が兄さんの言っていた人ですか?」
「……兄さん?」
見知らぬ少女の口から出た言葉を聞いて綾香は彼女を注視する。
「もしかしてメールで言っていた剣二の妹?」
事件のことは既に彼女には知らせている。無論、妹が助けられたことも。
ただ、互いに会うのは今日が始めてというわけだ。
「始めまして。ここでは八神彩花と名乗った方がいいのでしょうか?」
そんな疑問とともに彩花はそう挨拶した。
「始めまして泉堂綾香です。よろしくね、彩花さん」
「っと、そろそろ時間もやばいな」
剣二の言葉に他の二人も時間を確認すると、確かにもうじき予冷のチャイムのなる時間だ。
「急ごう、剣二」
「ああ、彩花。職員室は……」
「大丈夫。一人で行けるから行って」
「ああ、じゃあ後でな」
そうして剣二と綾香は走りだす。
新たなスタートを始めるために……
これでこの物語は終了致しました。
今まで読んでくださった方。
こんな物語でしたが最後まで読んでくださってありがとうございました。