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八天の聖剣  作者: 蒼風
最終章取り戻すために
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最終章二話取り戻すための戦い

 人々が過ごしていた町並みの姿はそこにはなく、もはや廃墟としか言えないような惨状。

 そこで二つの攻撃がぶつかり合っていた。

 一つは彩花の放つ多種多様な攻撃。

 もう一つは剣二の操る剣群による攻撃。

 互いの攻撃はときにぶつかり、時に防がれながら互いの間を行き交っていた。

 剣群が追うように彩花の後に続いたと思えば、彩花が放つアーティファクトの火球が剣二へと迫る。

 両者は互いに各々武器を用いて弾き、防ぎ新たな攻撃を繰り出す。

 時折、刀弥の剣が破壊されるが、破壊された次の瞬間には別の剣が刀弥の付近に姿を現す。


「ほぉ……」

 それを見て喜久雄は驚きの声を漏らす。

「彼もまたあのアーティファクトを限定的とはいえ使えるのか」

 彼の周囲にある剣。それは全てあのアーティファクトで生み出したものなのだろう。

 限定的とは使えるのなら大したものだ。何せ千堂彩花を除き誰も扱えなかった代物なのだから。

「しかし、となると彼がいつまで持つか……」

 あのアーティファクトの創造は維持にもマナが掛かる。

 つまり、剣を扱うためのマナと剣の創造を維持するためのマナを剣二は消費している状態なのだ。

 彼はそれに慣れてはいない。

 加えて生きていたとはいえ、以前の戦いで傷を負ったのは間違いない。

 たったこれだけの期間で治るはずがないので、まだ引きずっているはずだ。

 故に彼の状況かなり厳しいはず。

 本来であれば自分の作品が負けるはずがないのだが……

「……やはり」

 そう呟いて彼は己の作品を見る。

 そこには苦悩躇いと苦しみの表情があった。無論動きも悪い。

 彼と出会ってすぐにこの反応だ。

 以前より協力な処置をしたつまりだが、やはり危惧した通り駄目だったようだ。

 それでも戦ってくれているだけ以前よりはマシだといえるが……

「最悪の場合は私が直接留めを刺すべきか……」

 そう言って彼は二人の様子を眺めていた。


 喜久雄の考えていた通り、剣二はかなり厳しい状況にいた。

 マナの負担に以前の戦いでの傷の痛み。

 それでも彼は戦い続ける。

 相手の方を見るとその顔にははっきりと苦悩の顔がある。

 どうやら新たな処置とやらでも完全に感情を消し去ることはできなかったらしい。

 だからこそ、自分を狙ったのだろうと刀弥はそう結論する。

 自分に悪い状況はあるものの、相手にとっても良い状況ではないようだ。

――何とかして彩花を取り戻す。

 それが剣二の勝利条件だ。

 そして、そのためには……

 ちらりと剣二は喜久雄の方を見る。

 最初の襲撃者は負けた途端、いきなり絶命した。 

 恐らく何らかの方法で、喜久雄が口封じに殺したのだろう。

 ならばその事態を避けるためにも、どうにかしてその方法を封じる必要がある。

 恐らく、リモコンか何かを持っているはずなのだが……

 そんな剣二に突如炎が迫って来る。

 それに気付いて、急いで剣二は回避する。

 そして回避後、剣を動かして彼女を牽制する。

――喜久雄をどうにかするにしても、どうやって彩花を突破するかだな。

 まず、彼を狙えば彼女が守りに動くだろう。

 かといって彼女を先に倒してしまえば、以前のときと同じことになってしまう可能性がある。

「……よし、やってみるか」

 少し悩んだ後、彼はそう呟くと彩花の方へと向き直る。その顔は何かを決意したような顔だ。

 何かを仕掛けることに感づいたのか彼女は剣二に注視している。

 そして剣二は剣を創造する。いくつもの剣を同時に……

 驚く彩花と喜久雄をしりめに彼はそれを一斉に放った。

 辺り一帯に轟音が響き、砂煙が舞う。放った剣の創造を解除しながら剣二は周囲を探る。

 その砂煙の中から彩花が飛び出してくる。その手には二つの剣が握られている。

 次の瞬間、彼女の周囲に氷と炎の槍がいくつも出現する。恐らく持っているアーティファクトの効果だろう。

 そのまま彼女はそれらを剣二に向けて放つ。

 それらの攻撃に対して剣二は避けながら剣で防いでいく。

 攻撃をしながら彩花は剣二に接近していく。

 それを見て剣二は手近な剣を手元に寄せる。

 かん高い音と共に二人の剣がぶつかり、時折、彩花の方から炎と氷の槍が放たれるが、それらの攻撃は周囲の剣で防いでいく。

 逆に剣二もまた剣を操り、彩花の背後や上などの死角から攻撃を仕掛けるが、その攻撃も彩花があらゆる手段を用いて防御する。

 状況を膠着状態に入っていた。


 そんな様子を喜久雄は遠くから見ていた。

 膠着した状態がいまだ続いている。剣二は妹を死なないように遠慮し、彩花は兄に死んでほしくないという心の抵抗のために殺すことに躊躇いを持っている。

 互いにあと一歩のところで遠慮してしまっているのだ。そのため、決定打が出ない。

 その結果が今の状況だ。

 喜久雄はどうするか、考える。

 あまり時間をかけるわけにはいかない。かの機関からの増援も時期にやってくるだろう。

――そろそろ引くべきか。

 剣二を殺すことは難しい。しかし、逃げろぞ、と言えば彼女はこちらの命令に素直に従うだろう。

 そう考えた彼はそう命じるために彼女の方を見ようとして、気づいた。背後の物音に……

 何だ、と振り返ったその瞬間、二本の剣が喜久雄の両腕を切断した。

 剣はそれで終わらない。新たな剣が彼の足を傷付け、さらに別の剣が服を切り裂いていく。

 彩花が喜久雄の状態に気付いて戻ろうとするが、もう遅い。

 裂けた喜久雄の服のポケットから何かが落ちる。それはリモコンだった。これこそ剣二が探していたものだ。

 それに焦点にあてた剣二は剣に命じる。

 主よりの命を受けた剣は彼の意に従い、それに向かって飛翔する。

 そして彼の願い通り剣はそれを破壊した。

 その様子を喜久雄は驚きと悔しさの入り交じった表情で見ている。

 これで、取り戻すための問題はクリアされた。後はもう取り戻すだけだ。

 そうして彼は妹の方に視線を戻す。

 彼の視線に合わせて剣たちも彼女の方へと飛翔していく。

 彼女はそれを避けていく。

――逃がさない。

 喜久雄があれだけの怪我を負ったのだ。

 間違いなくこの場から逃れようとするだろう。

 だが、彩花を取り返すためにもここで逃がすわけにはいかない。

 そのために彼は踏み込む。

 彼女の目前まで接近し彼は剣を振る。

 気づいた彩花が剣で防御しようするが、それに対して剣二がその剣を手放す。

 彼の手を離れた剣は彼の意思に従い、回りこみ背後から斬撃を見舞おうとする。

 瞬時の判断で避けた彼女に対し、さらに別の剣が彼女を追い立てる。

 それを回避し剣二を見据えようとした彼女は彼を見失ったことに気がついた。

 慌てて周囲を見回すが、姿はない。

 どこにと思ったその時、彼女は己と太陽を遮る陰に気がついた。

 剣から飛び降りた剣二が、そのまま剣を振り下ろす。

 それを手持ちの二つの剣で防ぐ。

 金属音。だが、音が軽い。

 見ると、そこには剣しかなく本人の姿はない。

 視線を下げると、彼は身を低くして構え、そこに彼の背後から別の剣がやってきて彼の手に収まる。

 先の攻撃はフェイントだ。

 そして彼は一気に近づく。

 急いで剣を下げて防御姿勢をとろうとするが、それらの動作を別の剣が妨害する。

 もはや防ぐことは敵わない。

 そのまま剣二は剣の横の部分を使い、相手の腹を叩くように剣を振り抜いた。

 鈍い音が響き、妹はうめき声を上げる。

 うめき声を上げた彼女は剣を落とし、そのまま崩れそうになる。

 慌ててそれを抱きとめる剣二。気を失っているだけなので、心配はない。

 彩花の顔をよく見ると、その顔はどこか安堵しているようにも見える。

「終わったな」

 溜息と共にそんなつぶやきが漏れた。

 全身に疲労が滲み出てくる。

 じきに誰かしらが来るだろう。

 それまでは自分は少し休ませてもらおう。

 そうして剣二は短い眠りにつくことにした。


いよいよ。次でラストです。

こんな物語ですが、読んでくださった方には感謝の気持ちで一杯です。

どうぞ最後までお付き合うください。

それでは……


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