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八天の聖剣  作者: 蒼風
一章新たな生活
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一章二話模擬戦

 次の休憩時間、クラスメイト達は剣二のアーティファクトを確かめようと群がってきたがそれを止めたのは意外にも先ほど次の時間だと言っていた優木だった。

「まあ、待て待て。よく考えたら今日は午後に実技の授業があるじゃねぇか。それまでのお楽しみって事にしねぇか?」

 彼の提案にクラスメイト達は少しの間考えこむがやがて納得したのか次々と剣二から離れていった。

「助かった」

 素直にそう思った剣二は優木に礼を言う。

 しかし、優木はどこかの悪代官が浮かべそうな凶悪な笑みを浮かべながらこう言ってきた。

「いいって。そのおかげでうまくいけば儲けられるかもしれないし……」

「……何をする気だ?」

 嫌な予感を感じたそう言って優木に尋ねる。

「お前のアーティファクトがどんなものかで賭けをするのさ……」

「……」

 今にも声を出して笑いそうな彼に剣二はもはや呆れた視線しか返すことができなかった。


 そして実技の授業。

 剣二はアタッシュケースを持ってグラウンドに立っていた。

 周囲がちらちらとこちらに視線を送ってくる。多くの男子がやけに熱心にこちらのアタッシュケースを見ているのは恐らく波瀬が原因だろう。

「全員揃ったようだな」

 そう言うのは藤宮先生だった。

「とりあえず準備運動をやってそれから模擬戦を始める。八神!!」

 テキパキと指示する最中、藤宮先生は剣二を呼ぶ。

「はい」

「編入していきなりの模擬戦だがやれるか?」

 編入直後、まだクラスに慣れきっていない状況で模擬戦ができるのか心配してくれたようだ。

「大丈夫です」

 そう答えつつ剣二は過去の感覚を呼び起こしていく。

 かつて千堂剣二と呼ばれていた頃、彼はここと同じようなアーティファクターやクリエイターを育成する学園に通っていた。そこは中高一貫校でアーティファクターを学んだ経験はここにいる大半の学生より長いだろう。

――大丈夫。やれる。

 ブランクがあるせいか多少ブレを感じるがそれでも悪くない感覚だ。自然と体が引き締まる。

「大丈夫そうだな。それじゃあ、準備運動が終わり次第早速始めてもらおうか。相手は……そうだな。泉堂。お前にやってもらう」

「はい!!」

 藤宮先生のオーダーに綾香は元気よく答えた。

 そのやり取りを見て剣二は己の過去をそこに重ねるのだった……


 準備運動が終わると藤宮先生は綾香と剣二の名前を呼んだ。

 二人が返事をすると彼女は場所を指定しそこに立つように指示をする。

 彼女の指示に従い二人は指定された場所に立った。

 剣二は彼女が持つ武器に視線を送る。

 彼女が持っているアーティファクトは杖だった。それもいわゆる物語が魔法使いがもちそうなタイプの杖だ。

――杖そのものは余り戦闘に向いた物とは思えない。となると効果攻撃型か?

 彼はアタッシュケースを降ろしロックを外しながら相手を分析する。

 

 効果攻撃型とはアーティファクトの系統の一つである。基本的にアーティファクトの半数以上を占める系統でもある。

 攻撃効果を持ったアーティファクトがこれに当てはまる。このタイプは効果が攻撃能力を持っているためアーティファクトが武器の形状をしてないものが他の系統と比べて圧倒的に多いのだ。


 綾香は半身の構えで杖の杖先はこちらにしっかりと向けられている。まるで狙いをつけるかのように……

 一方の剣二はアタッシュケースのロック外してアタッシュケースを開いたところだった。しかし、彼は中身には手をつけずそのまま立ち上がってしまう。

 と、彼が立ち上がるのと同時にアタッシュケースから何かが飛び出してきた。

 綾香を含めて生徒達は飛び出してきたものの正体を確かめようとあちこち視線を巡らせる。

 それらは少しの間、準備運動をするかのように周囲を飛び回っていた。やがて、それも終わったのか剣二と綾香の間に向かって集まり剣二を守る盾の様に8本の剣が立ち並んだ。

「意思操作型のアーティファクトか」

 そう言ったのは藤宮先生だった。


 意思操作型は使用者の意思に応じて自由に動き回る効果を持つアーティファクトに与えられる系統である。精密な動作するために高い集中力が必要で動かす数が増えるほどその分意識が分散してしまい動きは大雑把になりやすい傾向があるが使いこなせばかなり複雑な動きもできるため、かなりトリッキーなアーティファクトといえる。


 彼のアーティファクトを見ていた綾香はその事を思い出し、自分の表情を引き締める。

 ちなみにギャラリーの方からは喜びの声や悔しがる声がいくつも聞こえてきた。

 それらの騒ぎを藤宮先生は視線で黙らせる。

「両者、準備はいいようだな……」

 そう言って藤宮先生は右腕を上げる。

 それを見て綾香は腰を落とし、剣二は剣の剣先を綾香の方へと向ける。

 そして……

「始め!!」

 その掛け声と共に模擬戦が始まった……


 先手をとったのは綾香だった。すぐさま杖にマナを送り込む。

 彼女のマナの供給に応じて杖がその力を起動させる。

 杖の先に供給されたマナが集まり直後、マナの砲撃が剣二に向かって放たれた。

 しかし、その攻撃を予想していた剣二は左へのサイドステップで砲撃を避けると剣に意志を飛ばす。

 彼の意志に応じて6本の剣が綾香に目掛けて飛翔していく。

 反射的に綾香は右へサイドステップ。直後、彼女の左の頬を剣が掠めていく。

 攻撃を避けた綾香が再び砲撃を放つ。しかし、その攻撃も読んでいた剣二は再び砲撃を避けてしまうと再び剣に意志を送る。

 直後、綾香を通り抜けた剣達が停止、反転。再び彼女に襲いかかる。

 しかしこの程度の攻撃、彼女も予想済み。剣の方に視線を向けつつ今度は反対側に飛ぶ。

 だが、それに合わせて剣がその軌道を変更、綾香の後を追いかける。

――回避のタイミングと方向を読まれた?

 一瞬、綾香は視線を背後の剣二に向ける。だがすぐさま剣に向き直り剣の対処に集中する。

 彼女が選んだ対処は持っている杖で剣を弾くというものだった。

 できるだけ遠くに飛ばすことで剣が戦場に帰還するまでの時間を稼ぐ。

 1本、2本、3本、4本までは上手くいった。だが4本目を弾いた辺りで5本目の軌道が若干変わった。4本目を弾いたことでできた杖の死角へと剣が回りこんできたのだ。

 さらに6本目の剣は彼女の回避するであろう位置へと既に方向を変えていた。防御はできない。かといって避ければ6本目が彼女を襲う。ゆえに彼女は第三の選択を行った。

 4本目を弾いた影響で杖の先は地面の方を向いている。ゆえに迷わず彼女は砲撃を放った。

 砲撃は地面に着弾、と同時に爆発が巻き起こる。

 爆発の衝撃で5本目と6本目の剣の軌道が変わる。さらには砲撃の衝撃で吹き飛んだ綾香は先ほどとは全く別の場所にいる。

 加えて先程の爆発でグラウンドの砂が舞い視界を妨げている。恐らく剣二はまだこちらを見つけていない。どこにいるのかわからない以上剣が襲いかかってくる可能性は低い。

 ゆえに綾香は迷わず先程剣二がいた方向に砲撃を放った。砲撃の衝撃で砂煙が吹き飛び視界が開く。そして彼女は見た。砲撃を放った先に彼の姿はなかった事を……

 判断は一瞬、直後彼女は飛ぶ。そして彼女の予想通り、先ほど自分が砲撃を放った場所を2本の剣が通過する。

 剣が2本しか来なかったことに疑問を持ち、彼女は急いで周囲を見回す。

 砂煙が晴れかけている視界。そこにこちらに向かって飛翔してくる2本の影を見つける。

 再び飛んで剣を避ける。

――攻撃は6本。後2本はどこに?

 彼女の疑問はその直後、視線を落としたことで氷解した。

 ふと、下を見るとそこには水平になって砂をかぶった2本の剣の姿があった。

 誘導されたことを悟った直後、剣は縦になるとこちらに向かって斬り上げてくる。

 金属音。反射的に杖を水平にして2本の剣の斬り上げを防ぐ。

 そして後ろへと跳躍。他の剣を警戒する頃には砂煙が晴れ視界は最初の状態へと戻っていた。

 剣は8本、剣二の目前に展開しいつでも彼女に向けて放つ事ができる状態だ。

――やっかいね……

 睨み合った状態の中で彼女が思ったのはそれだった。

 状況は彼にペースを握られている状態だ。使用者は離れ、いくつかの剣でこちらを注意を引き、その間に他の剣が死角から襲う。

 意志操作型を操るアーティファクターの常套手段である。

 一方の自分は効果攻撃型。その効果はマナによる砲撃。威力は高いのが特徴でその威力は学園内でも上位に位置する。

 しかし、単発故に避けられやすい。

 おまけに連射もできないので剣二の剣を全て撃ち落とすには全てが纏まっていないといけない。

――一撃を当てることができればそれで終わらせられる自信はあるんだけど……

 それができれば苦労しない。

 剣二との距離はそれなりに離れている。ここで撃っても軽々と避けられてしまうだろう。

 そうなると彼に近づかないといけない訳だが彼の剣達がそれを許さないだろう。とはいえ近づかない事にはどうしようもない。

「やるしかないか」

 思いを言葉にして彼女は駆け出した。


 そうして戦いが再び始まる。

 剣二の四方八方からの剣の攻撃に対処しつつ綾香は彼との距離を詰める。時たま隙を見ては砲撃を放っている。

 一方の剣二は距離を取って彼女の砲撃を避けながら8本の剣を巧みに操り彼女の接近を妨害しつつ攻撃を放つ。

 戦いは派手ながら、されども状況は膠着状態に陥っていた。


 そんな膠着状態の中、剣二はこちらに近づこうとする綾香を見ていた。

 彼女の狙いは想像がつく。回避できない距離まで接近しあの砲撃を放つつもりなのだろう。

――やっかいだな。

 今までのやり取りを得て彼は綾香に対してそう結論する。

 現状、数と位置取りによってこちらが主導権を握っているがそれでも綱渡りの状態、ミスをすればあっという間に負けてしまう。

 それほどの威力をあの砲撃は秘めている。当たればまず終わりだ。

 だからこそ、絶対必中の状況にさせる訳にはいかない。

 砲撃に対処できる距離を維持しつつ攻撃を繰り出す。これが堅実な対処だ。

 そう判断すると剣二は距離をとりつつ6本の剣を綾香の元へ向かわせる。2本は突破された時の迎撃用として残す。意志操作型の基本的な戦い方だ。

 まずは6本のうち1本を先行させる。

 彼女が回避行動に出るのなら次々と剣の軌道を変更させて追い詰めていく。

 逆に防御に出るなら防御の死角から他の剣で襲わせる。

 そういう手を現在想定している。

 そうしているうちに先行した剣が綾香に迫る。

 彼女が選択した選択は……迎撃だった。

――な!?

 予想外の手に剣二は驚く。

 彼女の攻撃は威力はあるが連射のきかない砲撃。

 攻撃の迎撃として使うには不向きだ。

 しかし、彼女はそれを選択した。

 先行していた1本ともう1本は砲撃の線上にある。今から意思を飛ばしたところでその2本は砲撃から逃れることは出来ないだろう。

 ならば、砲撃に構わず残り4本で彼女を狙うのがベストだ。

 現在、綾香は砲撃を放つために止めた足で己の体を砲撃の反動から支えている。つまり、動けない。チャンスだ。

 そう判断すると残り4本の剣を彼女に向けて放つ。

 しかし、その直後剣二は彼女の真の狙いを見ることになった。

 なんと、彼女は砲撃の反動に耐えながら杖先の向きを右に変えていったのだ。

 当然、杖先から放たれる砲撃も右へと向きを変えていく。

 それはまるで巨大な剣を横へ振る動作に見える。実際、綾香の砲撃は彼女の元に向かう4本の剣と剣二を飲み込まんと迫ってきている。

――迎撃と攻撃の両方を選んだということか。

 彼女の判断に感心しつつも剣二は剣達に意思を送る。

 最初に迎撃された2本は離れたところにある。それらはすぐに呼び戻す。

 残りの4本は左へと軌道を変更して砲撃に巻き込まれないようにする。綾香への攻撃は中断することになってしまうが先の2本が戻ってきてない以上、一瞬でも攻撃の手段をなくす訳にはいかない。

 無論、自分の事も忘れてはいない。

――少々危険だが……

 そう思いつつも彼はその手段で打って出ることにした。


 体のあちこちから痛みを感じる。

 無理な砲撃向きの変更は綾香の体に多大な負担を掛けていた。

――でも、それくらいしないと勝てない。

 それがこれまでのやり取りから感じた結論だった。

 ノーリスクで攻めても勝ち目は薄い。ならば、リスクを冒すして勝ちに行く。そのためにこの手段を選んだ。

――彼はどうでるかな?

 その疑問とともに綾香は彼、八神剣二を見る。

 既に4本の剣はこちらへと向けていた剣先を右に向け、迫り来る砲撃から逃れようとしている。恐らく、これで時間を稼いでいる間に先に飛ばされた剣を呼び戻すのだろう。

 しかし、砲撃は剣だけに迫っているのではない。その後方、剣二に本人にも迫っている。

 先の剣の動きから彼は逃れる自信がある事が伺える。

 そしてその自信通り彼は逃れた。驚くべき方法で……


 彼が選んだ方法……それは上へと逃げることだった。

 やり方は簡単だ。迎撃用に残していた2本の剣のうち1本に乗って上へと上昇する。それだけだ。

 慣れない人間がやると移動中にバランスを崩しして剣から落ちたりするが、剣二は手慣れた感じでバランスをとって立っていた。そのまま剣を上昇させて砲撃から逃れる。

 だが、彼が剣に乗ったのは避けるためだけではない。何と彼は剣に乗ったまま綾香に接近していったのだ。

 向こうはリスクを冒して勝ちを狙ってきている。そういう覚悟で来る相手に堅実策では押し切られる可能性がある。

 ならばこちらもリスクを恐れず攻めるべきだ。

 そう判断した彼の狙いは接近戦。次の砲撃より早く懐に入り込む。

 そして剣二の狙い通り、彼は綾香の懐に入り込み剣から飛び降りる。

 すかさず一緒についてきた剣を握り綾香に向けて一閃。

 寸前のところで避けた彼女に先ほど剣二が乗っていた剣が襲いかかる。

 これを杖で弾いた綾香に再び剣二が襲いかかる。

 腕の力と意思操作による力、二つの力ののった剣が彼女の杖のガードを崩す。

 直後、剣二の背後に隠れていた別の剣が姿を現し彼女の目の前で静止した。

 これが決定打となった。

 こうして剣二と綾香の模擬戦は終了した。

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