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八天の聖剣  作者: 蒼風
四章その日……
18/22

四章二話その日の非日常

「相変わらず、すごい戦いだな」

 放課後、帰る準備をしつつ剣二は彩花に先程の戦いの感想を述べる。

「眺めている分には面白いかもしれないけど戦っている本人は結構大変なんだよ?」

 苦笑した顔で彩花がそう返す。

「今日は風紀委員の会議だっけ?」

 彩花は入学と同時に風紀委員にスカウトされ、風紀委員に所属している。

 中等部の一年が風紀委員に勧誘されるという事態はこの学園始まって以来の快挙で、この件で彩花の名前を知った生徒も多い。

 以来、今日まで彼女は風紀委員に所属し続けている。

 最近では高等部になるのと同時に風紀委員長になるのではという噂までたっている。

「うん。だから一緒に帰れないんだけど……」

 すまないという表情で彼女は告げる。

「気にしてない。そっちこそがんばれよ」

「じゃあ、後で……」

 そうして彼女は教室から出ていく。

 剣二はそんな彼女の背中を見送ると、家に帰るべく自分も帰途につく。



 剣二が帰途についている途中だった。

「あなたが千堂剣二ですか?」

 名前を呼ばれふと、声の聞こえてきた方へ顔を向ける。

 そこには少女がいた。肌は白く、細い手足と生気のない瞳。

 一瞬、人形と見間違えてしまう。

「そうだけど、なんだ?」

 記憶を探ってみるが彼女に見覚えはない。

「了解しました。これより目標を確保します」

「は?」

 呆けた声を漏らしたその直後、背後から打撃音が響き、それとほぼ同時に剣二は気を失ってしまった。



「ん……」

 剣二は目を覚ます。

 辺りを見回すと彼は檻の中にいるようだ。

 ただし、決して古びた檻などではなく、むしろ逆に清潔な感じだ。

 何故こんなところにいるのか? そのことを思い出そうとしたときだ。

 複数の足音がこちらに近づいてくるのが聞こえてきた。

 反射的に身構える。

 やがて、檻の向こうに男と少女二人が姿を現した。さらにもう一人いるようだが檻の奥へ下がった剣二からは死角となって影しか見えない。

「ようやく起きたようだな。丁度良かった」

 男は剣二の姿を見て嬉しそうに笑みを浮かべる。

「誰だ?」

 警戒しつつも見知らぬ男に純粋に疑問を持った剣二は彼に尋ねる。

「私は片山喜久雄。そうだな。分かりやすく言えばアーティファクトを研究している研究者だ」

 少し考え込んだ後、彼はそう答えた。

「何故? 俺を捕まえた」

 考えてみるが捕まえられる動機がさっぱり思いつかない。

 自分がそんな人間に襲われる理由などないはずなのだ。

「そうだな。ある目的のためにその手段として君を捕まえた」

「……その目的とはなんだ?」

 問うてみたが既に彼にはその目的とは何か見当が付いていた。

「無論、君の妹を捕まえることだよ」

 途端に怒りが体の中から湧き上がった。

「あいつに何かしてみろ絶対に許さないぞ!!」

 怒りの形相で彼は喜久雄に対して叫ぶ。

 だが、喜久雄は平然とした表情で彼にとって衝撃的な一言を述べる。

「なら、手遅れだ。既に君の妹は私の手の中だ」

「なん……だ……と……」

 驚きのあまりに彼は言葉が出ない。

「素直にやってきたところを眠らせてね。君は大体丸一日寝ていたんだよ」

「そ、そんな……」

 あまりのことに彼はその場に膝をついてしまう。

「そして遂に私の最高傑作が完成した!!」

「……どういう意味だ?」

 怒りの形相で喜久雄を睨む。

「私の研究は対象にアーティファクトの装置を埋め込み、融合させることでその性能を引き出すというものだ。君が見ているこの二人にもその処置がされている。この間、面白い装置ができたもので、彼女なら使えるだろうと思ってね」

「あいつに……その装置を…………埋め込んだのか?」

「無論だ」

 当然といった表情で喜久雄は答える。

「貴様!!」

 怒りのあまりに彼は檻まで走りよる。体ごと檻にぶつかり檻が軋むがそんなこと剣二には関係ない。

 だが、剣二は駆け寄ったことで気づいてしまった。四人目の正体に……

「あ、彩花?」

 そう影だけが見えていた四人目は誰であろう、妹の彩花だったのだ。

「おい、彩花? 大丈夫なのか?」

 虚ろな目の妹に剣二は話しかけるが彼女が答える気配はない。

「無駄だ。既に彼女の感情は排除した今や私の言うことを聞く忠実な人形だ」

「な!? き、貴様……」

 もはや彼の胸の内に渦巻くのは怒りのみだった。

 こいつは、こいつだけは許せない。

 喜久雄を睨む彼の瞳には怒りの炎が灯っていた。

「怒りたければ怒ればいい。どうせそのうち君も彼女たちと同じ末路を迎える。それまでは大切に持っておきたまえ。それでは戻ろうか」

 そう言って喜久雄が踵を返したときだった。

 彼は気づく。彩花がこちらの命令を無視したことを……

 彼女は動かず、ただじっと自分の元兄を眺めている。

「どうした? 戻るぞ」

 再び命じるが彩花は動こうとしない。

 その時、小さな声が聞こえた。

「だ……め……」

 それは小さく、か弱い、だがそれは間違いなく拒絶の声。

「な!? 馬鹿な!!」

 この事態に喜久雄は驚きの表情で彩花を見る。

「彩花?」

 その言葉と同時。彼を閉じ込めていた檻にひびが入り檻が崩れる。

 閉じ込めていたものがなくなり、すぐさま剣二は彩花の元に走り寄る。

「に……げて……」

 苦しげな表情で彼女は剣二を逃がそうとする。

 だが、それは喜久雄の一言で不可能になった。

「……なるほど。そういうことか。殺せ」

 その言葉が言い得るのと剣二の心臓に風の槍が突き刺さったのはほぼ同時だった。

 彩花の前で剣二はパタリと倒れる。

「……え……」

 苦しげな小さな声はただそれだけしか言えなかった。

 見下ろすと自分の兄が背中から貫かれ倒れている。

「ははは……兄の姿を見て感情を取り戻すとは予想外だった。しかし、これでバグの要因は排除された」

 笑い声と共に喜久雄が何かを言っているようだが彩花には聞こえていない。

 彼女はただ兄を見つめている。

「嫌……嫌……」

 元々苦しさで震えていた声がさらに震える。

「さあ、お前はもう一度処置だ。今度こそ私の人形になってもらうぞ」

 喜久雄は彼女の様子などお構いなしに彼女の元に近づくとその腕をとろうとする。

 しかし、それはできない。突然、彼女の周囲を炎が取り囲んだからだ。

「く、なんだ?」

 手を引っ込め、距離をとる喜久雄。

 炎の彼女と彼女の傍に倒れる兄を守るように彼らを阻む。

「どうにかしろ!!」

 彼の命令に忠実な人形たちが動き出す。

 だが、氷を使って炎を凍らせど新たな炎が氷を溶かし、風の槍を使っても突然生まれる鉄の壁に阻まれ届かない。

「おお!? 素晴らしい」

 しかし、それを見た途端、喜久雄の表情は喜びに変わる。

「私の処置は大成功という訳か」

 彼が彼女に埋め込んだアーティファクトの力。それは彼女が従来使っていたアーティファクトをさらに強力にしたものだった。無機物だけでなく、有機物やさらには炎や雷など、運動、熱、電気、光などのエネルギーすら永続的に生み出す効果だ。

 それはもはや、神の領域に触れたといっても過言ではない力だ。

 喜久雄が喜んでいる間も炎の勢いはどんどん強くなっていく。

 炎の中心にいる彼女はいつの間にか涙を流している。

「嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌……嫌ーーー!!!!」

 その感情の暴走が莫大な炎を生み出す。

 莫大な炎は当然一瞬ですぐ傍にいる喜久雄たちをも飲み込み、さらに広がる。

 莫大な炎の圧力に彼の研究室はもたず、研究室は崩れ燃える。

 だが、炎の勢いは留まることをしらず広がり続け、遂には周囲の建物、人すらも飲み込んでいく。

 業火の中、人々は焼け死に、その爆風と熱に建物は溶け崩れる。

 莫大な炎は止むことを知らず、それが止んだのはそれから2時間経ってからのことだった……


 灼熱の中、彩花は兄を眺める。彼女が創りだした炎は彼女が創りだした力によって阻まれ近づくことはできない。

 既に彼女に意識はない。あるのは兄に死んでほしくないという思いだけ……

 故にその思いが彼女の力を無意識に呼び覚ます。

 彼女の力が剣二の心臓や血を作り出し、穴の開いた体や服すらも塞いでいく。

 後に残ったのは赤で汚れた服を着た、少年だけだった。

 少女は彼が無事なことを認めると、そのまま気を失っていく。

 だが、その後も炎が彼らに近づくことはなかった。

 


「ようやく収まったか……」

 その言葉と共に彼らを取り囲んでいた氷の壁が消え、中から喜久雄と二人の少女が姿を現す。

「正直、彼女がいなかったら私たちは存在のかけらすら残らなかったろうな」

 そう言って氷を生み出した少女を見る。

 少女はかなり疲れている様子で深い呼吸を繰り返している。

「さてと……」

 そうして彼は周囲を見まわし、目的のものを発見する。

「力を使い果たし、倒れたか」

 そこには気を失い倒れている彩花の姿があった。

 彼はそれを抱き上げる。

「よし、引き上げるぞ」

「「了解しました」」

 そうして彼らはその場を後にする。誰にも気付かれないように……


 彼らは見落としていた。

 彼らの死角に倒れていた一人の少年を……

 今の少年はただ気を失っているだけで、その証拠に彼の胸の部分が僅かにだが上下に揺れている。

 この後、少年は調査に来た隊員に発見され無事保護される。

 彼らが少年の存在を知るのはかなりの時間が経過してからだった。

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