表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
八天の聖剣  作者: 蒼風
三章過去のピース
14/22

三章二話禁忌の研究

 目が覚めるとはそこは病院だった。

 白い清潔な部屋が夕日を反射して少し眩しい。思わず目を細める。

 そこへ病室のドアが開いた。

 やってきたのは綾香だった。

「よかった、気がついたんだ」

 病室に入った綾香は剣二が起きたことに気がつくと少し安心した表情を浮かべ剣二が寝るベッドに近づく。

「俺は……」

 何故自分が病院のベッドにいるのか? それがわからず首を傾げる剣二だったが徐々に直前の状況を思い出したのだろう。状況を理解したという表情に変わる。

「そうか。気を失ったのか」

「うん。いきなり様子がおかしくなってびっくりしちゃった」

 確認するように呟く剣二に綾香が肯定の言葉を返す。

「一体どうしたの?」

 心配するように尋ねてくる彼女に何か答えようと口を開きかけたとき再び病室のドアが開く。

「お、気がついたか」

 新たな入室者は総一だった。彼はドアを閉めると二人のもとにやってくる。

「早速で悪いんだけど……君が気を失う前にしていた話の続きいいかな?」

「そんなようやく起きたばかりなのに……」

 剣二の身を案じる綾香は彼を叱責しようとするが以外にもそれを止めたのは剣二本人だった。

「お願いします」

 そう言って剣二は総一に視線を向ける。その真剣な眼差しに総一は笑みを浮かべる。

「かなり真剣だな。それで聞きたいんだけど何か記憶は戻ったかな?」

 総一の確認に、しかし剣二は首を横に振る。

「残念ながら何も……あの写真を見たときには何故か怒りを感じたんですけど何故そう感じたのかさえ……」

 その返答に総一は考え込むと次にこのような事を言い出した。

「なら、もう一度あの写真を見るかい?」

 その言語に綾香は驚きのあまりに声をあげそうになる。あれだけの事があったのにその原因をもう一度見せようというのだ。彼女にはその考えが理解できなかった。

 だが、剣二の考えは違ったようだ。

「お願いします」

 むしろ、自分もそれを望んでいたようで頭をさげて頼み込む。

「剣二!?」

 不安と心配が入り交じった顔で綾香は彼の方を振り返る。

「俺は知りたいんだ。俺とあの写真の男がどういう関係だったのか。失われた過去に何があったのか……」

 そう言われてしまえば自分には何も言う資格がない。綾香は何も言わず黙りこむ。

「それじゃあ……」

 そう言って総一は写真を懐から取り出すとゆっくりと剣二の方へとひっくり返してきた。

 それを真剣な表情で剣二が見つめる。だが、1分経とうが5分経とうがあの時に頭に感じたあの怒りが湧いてくる様子はどこにもなかった。

「どうやら駄目なようだね」

 しばらく待ってみたが結局反応はなく、総一がそい言いながら写真を懐に戻す。

「みたいすね」

 残念そうな声で剣二が答える。

「さすがに二度目も同じようにはいかないか」

「ところでその男の人は何の研究をしてたんですか?」

 剣二の気分を変える意味もあったのだろう話を変えるべく綾香が総一にそう聞いてきた。

「彼はアーティファクトと人の融合によるアーティファクトの性能向上についての研究をしていたのさ」

 何でもないという風に総一はそう言ったが綾香はその言葉の意味を理解するのに少し時間が掛かったようだ。いや、むしろ信じたくないという思いがあったのだろう。しばらくした後恐る恐るそれを確認のために口を開き尋ねる。

「え……それって……」

「そういう事。人の中にアーティファクトを埋め込む等の人体実験を行っていたのさ。酷いもんだよ。人間をモルモットみたいに扱ってるんだから」

「その人間はどうやって手に入れたんですが?」

 今度は剣二は質問する。

「基本的には金で買ってるみたいだな。時たま優秀そうな素体は自分で手に入れているようだが……」

「誘拐ですか……」

「……そういう事だ」

 無表情で総一はそう答えるが本人も内心はいい気分ではないのだろう。声が少し沈んでいるように聞こえる。

 一方、綾香は先の言葉を聞いて絶句している。

「当然、そういう事がばれて逮捕する流れになったんだけど、それに気がついた本人は雲隠れ。今もどこかで隠れ住みながら研究を継続しているみたいだな」

 肩をすくめながら総一は答え、さらに言葉を続ける。

「この間の襲撃者。遺体を調べてみたら体内からアーティファクトの装置が発見された。彼を疑っているのはそういう理由からだ」

「なるほど……」

 それを聞いて頷く剣二。

「もう一つ、彼の隠し研究室の一つが一年前の事件のあった一帯にあった可能性がある。だから、もしかしてと思ってね……」

「俺のところに確認しに来たということですか」

 総一の言葉を引き継ぎ剣二が答える。

「そういう事。先程の反応だとどうやら何かあるみたいだな」

「でしょうね……」

 しかし、記憶が戻ったというわけではないので具体的に何があったのかはわからない。それでも失った記憶に彼が何らかの関わりを持っている可能性は高くなった。ならば、彼を見つける事が出来ればそれを知ることもできるはずだ。

「さて、そろそろ私はおいとましますが綾香さんはどうしますか?」

 そう言ってそう言って総一は綾香に尋ねる。外の夕日は既に半分近くまで沈んでいる。夏なので綾香もそろそろ帰らないと不味いだろう

「もう時間ですし私も帰ろうと思います。それじゃあ、剣二。また明日」

 綾香がそう言って剣二に別れの挨拶をすると二人は病室を後にした。

「ああ、また明日」

 剣二は二人を見送る。やがて、ドアが閉じると窓の方へと視線を向け剣二は外の風景を眺める事にした。



「あれから体に変化あった?」

 剣二を診察する冴子がそう尋ねる。

 翌日の朝、冴子が検診をすると言って病室に入ってきた。

 大丈夫だ、と言ったところで続けるに決まっているので剣二は特に何も言わず検診を受け入れる

「いえ、特には……」

 特に不調になった記憶のない剣二はそれを正直に報告する。

「そう。なら大丈夫だな」

 診察結果を書きこみながら冴子はそう独り言をこぼす。

「それで俺はいつになったら退院できるんですか?」

 昨日、聞きそびれたがそれが今、剣二の気になっていることだ。

「今回ので特に異常がないなら明日には退院できると思う」

 聞かれた冴子は顔を上げて答える。

「そうですか」

 それを聞いて剣二は少し安心する。正直、病院は居心地が悪い。出来る事なら早く家に戻りたいと思っていたのだ。

「でも、本当に大丈夫なの?」

「え?」

 突然、冴子がもう一度尋ねてきて剣二は思わず声を漏らしてしまう。尋ねた冴子は剣二の瞳を睨みつけるように見つめ剣二は視線を外すことが出来ない。

「あんたってそういうの自分の内側に抱え込む質だから嘘ついてるんじゃないのか疑ってるの」

「もしそうなら俺の答えは決まっていると思いますけど?」

 嘘だとしても本当だとしても自分は大丈夫と答えることになる。なら、彼女がこちらに聞く意味はない。

「……まあね」

 溜息と共に冴子は剣二の言葉に同意する。

「まあ、本当に大丈夫そうだし恐らく明日には退院できるでしょ……」

「とりあえずわかりました」

 そう言うと冴子は立ち上がり病室後にし病室は再び剣二一人を残して静かになった。



 そして翌日……

 剣二は病院の入口の前にいた。

 無事退院の許可が降りたのだ。

「とりあえず退院おめでとう」

 見送りに来た冴子がやる気のない声でそう言ってきた。

「ありがとうございます」

 決まり文句を返す剣二。

「まあ、お決まり言葉だけど何かあったらすぐに知らせなさいよ」

 そう言うと彼女は病院の中へと戻っていった。

 それを見送った後剣二は病院に背を向け自分の家に戻るべく歩き始めるのだった……


 路地裏に大量の血が飛び散った。血の主は体に穴を空け倒れておりもはや動く気配をみせない……

 それを確認した人形は本来の目標がいるであろう場所へと視線を向ける。

 既に他の護衛達も血の池に伏しており邪魔するものはいない。これでようやく本来の任務に始める事ができる……

「千堂剣二……今度こそは始末させてもらいます」

 呟くようにそう独り言をこぼした人形は己の任務を全うすべく動き出した……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ