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八天の聖剣  作者: 蒼風
二章襲撃
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二章五話氷人形

 綾香は飲み物を買いに行っていた。

 今、素振りの練習は一旦中断し休憩に入っている。

 座り込む剣二を見て綾香は飲み物を買いに行くと言って校舎の方に戻ってきた。

 そして自動販売機で自分と剣二、二人分の飲み物を買うと彼女は来た道を戻り始めた。

 彼女は思う。

 最近の剣二は強くなることに焦っている気がすると。

 以前それを尋ねたら平然となんどもないと返された。

 だが、あれは嘘だと綾香の感が告げている。

 とはいえ、あれ以上問いただしたところで本当の所は教えてくれないだろう。

「私だって力になりたいのにな……」

 自然とそういう愚痴が溢れる。

 彼が何故焦っているのかわからない。それは彼の事を余り知らないからだ。

 病院に一年近く入院していた事。アーティファクターとしての実力が高いこと。今は風紀委員に所属していること。なんだかんだで優しいところ等。

 しかし、彼の芯の部分はまだ触れる事ができていない。

 元々、積極的に話す性格ではない上に過去や身内などに関しては口を閉ざす傾向がある。

 何か辛い過去があるのだろうとクラス内では密やかに彼の過去に関して尋ねるのを躊躇う風潮ができている。

 いつかはそういう話ができたらいいな、と綾香が漠然と考えていた時だった。

 突然、グランドの方で巨大な氷が現れるのが遠目でも見えた。

 場所は剣二が休んでいた所の近く。嫌な予感がして急いで走ってきてみると……


 そこには氷の檻に閉じ込められている剣二と少女の戦っている姿があった。

 何故こんな事になっているのか。綾香は考えようとするが結論など出るはずもない。

 そうしているうちに騒ぎに気がついた警備員達が集まってくる。

 氷の檻が現れた事。その中に男子生徒が閉じ込められている事。そしてその生徒が見慣れぬ人間に襲われている事。驚くべきことが多すぎて警備員達は混乱する。

 そんな中、騒ぎに混ざらず氷の檻を眺めていた警備員の一人がこう呟いた。

「くそ、彼を殺されるわけにはいかないのに……」

 その呟きを聞いた綾香がそちらに顔を向けた時にはその警備員はどこかに向かって走りだしていた。

 追いかけようかとも思ったが今は剣二の方が心配だと考え諦める。

 彼の方を見ると相手の方も強そうだが何とか戦えているようだ。

 相手の攻撃を凌ぎ、そして相手に強烈な一撃を与える。

 すぐさま相手は反撃してくるがその反撃を受け流しバランスを崩したところへ再び斬撃をみまう。

 さらに追い打ちをかけようと剣二は踏み込んでいく。

 しかし、その直後、剣二は相手から距離を離した。

 どうしたのか?、と思っていた直後、氷が少女を覆ったかと思うとその範囲を広げ剣二に迫ってくる。

 剣二は氷から逃れるために下がるがすぐに氷の壁にたどり着いてしまうだろう。

――助けなきゃ

 反射的にその思った綾香は杖を手に取り氷の壁に狙いを定める。狙うのは剣二が逃げる方向にある壁。

 狙いを定めるとチャージを始める。どの程度で壊せるかわからない以上できるだけ威力は高めておきたい。

 彼女のアーティファクトは元々威力は高いのだがチャージすることでさらにその威力を高めることができる。

 ただしチャージには高い集中力が必要なことから無防備になりやすく、一対一の戦いではそうそう使えるものではない。

 父なら相手の攻撃に対処しながらチャージをする事もできるが自分にはまだ無理な芸当だ。

 既に剣二は氷の壁に到達して氷はその剣二目がけて迫ってくる。

 これ以上は待てない。

 すぐさま綾香は砲撃を放った。


 氷が迫る傍ら剣二は聞き覚えのある音を聞いた。

 直後、剣二の近くの氷の壁が砕け氷の破片がこちらに向かって降り注ぐ。

 防衛本能に従い剣が氷の欠片から剣二を守る。

 見ると氷の壁が壊れ人が通れるだけの穴が空いている。

 迷わず剣二はそこに向かって走る。

 氷がこちらへと迫ってくる。急いで脱出しなければならない。

――間に合うか?

 一瞬、そう考えたがその考えを打ち消し次のように考える。

――間に合うか?じゃない。間に合わせるんだ。

 全力で走る剣二。氷は真後ろにまで近づいてきている。

 そして剣二は氷の檻から脱出する。

 脱出と同時に剣二は剣に飛び乗り上へと逃れる。

 氷は氷の檻から飛び出しその範囲をしばらく広げたが、やがてそれも止まり静かになった。

 それを確認すると剣二は高度を下げグラウンドに降りる。

「剣二!!」

 降りた直後、綾香がこちらに駆け寄ってくるのが見えた。

 やはり先程の音は綾香の砲撃だったようだ。

 来るな、と彼女に警告を促そうと剣二は口を開きかけたがそれを止めざるえなくなった。

 氷が消えていき少女が姿を現したのだ。

「……」

 少女は何も言わない。だけどこちらを逃がす気がないという事は彼女が発する気配からも伺える。

 正直、剣二は彼女がこんな隠し玉を持っている事に驚いていた。まともに戦っていてはこちらが力負けするだろう。

 そこへ複数の足音が近づいてきた。

 足音は四方に散らばると少女を包囲する。

「八神剣二。君は下がっていたまえ」

 警備員の制服を着た男が剣二にそう話しかけてくる。

 恐らく総一が警備員に紛れ込ませていた一員だろう。彼らは各々のアーティファクトを構え少女を見据える。

 そして一斉に動き出した。

 ある者は遠距離から放ち、ある者は少女へと接近するために走りだす。

 しかしその直後、少女の周囲に氷の壁が張り巡らされ彼らの攻撃を妨げる。

 遠距離の攻撃は遮られ、接近を試みたものは近づくことを断念させられる。

 そして少女の反撃、彼らを氷で捕らえようとする。

 しかし、彼らもさる者。瞬時に反応して氷の束縛から逃れる。

 そして遠距離攻撃のできる者は彼女の方に向けて攻撃を放つがそれらはやはり氷の群々に阻まれてしまう。

「やはりあの氷を突破できないとどうすることもできないな」

 警備員達の言うとおり下がってそれまでの様子を見ていた剣二だったが現状かなりまずいと判断していた。

 警備員達はよくやっているが結局、氷の壁を突破できないために彼女に有効打を与えることはできていない。一方彼女の方は攻撃こそ巧く避けられてしまっているが氷の壁によって自身の安全は確保できている。

 現在は膠着状態だが時期に彼女のほうが有利になってくるだろう。

 だが、剣二の頭の中にはそれを阻止する方法が思い浮かんでいた。


 警備員と少女の戦闘は剣二の予想通り、徐々に少女の方へと流れが傾いてきた。

 警備員達も少女の攻撃を避け続けてはいるが疲労で動きが悪くなってきている。

 このままではいつか少女の氷に捕らわれてしまう。

 そんな悲観が頭の中をよぎり始めた時だった。

 彼らの戦闘に剣二が加わってきた。

「な!?八神剣二!!君は下がれと言ったはずだ!!」

 彼に話しかけていた警備員が彼に向かって怒鳴るが剣二は気にせず疾走する。

 抹殺対象が加わった事で自然と彼女の狙いは彼に集中する。

 以前よりも遥かに大きいを氷を生み出し彼を捕らえようとする。

 平面に逃げては逃れられないと判断した剣二は剣に乗って上空へと退避する。

 そこへ少女は彼の頭上に巨大な氷を生み出し、彼を押し潰そうとする。

 だが、この攻撃は剣二も予想済み。

 既に横へ水平移動を始めており巨大な氷から逃れる。

 そのまま空中から少女への接近を試みる。それに対して少女は巨大な氷の雨を剣二に向けて降り注がせる。

 剣二は剣を操り氷の雨の中を掻い潜る。

 避けきれない氷は他の剣をぶつける事で落下の軌道を変えさせ防ぐ。

 そうして剣二は少女に近づいていく。

 少女は守りに入ったのか周囲を氷の壁で囲みこちらの接近を阻止しようとする。

 だが、剣二は構わず剣二はそこへと飛び込んでいく。

――先ほど思いついた方法。いきなりだがやってみるか……

 その思考と共に剣二は周囲に待機する剣の内一本を氷の壁へと突撃させた。

 甲高い音と共に剣は氷の壁に深く突き刺さる。しかし、深く突き刺さっただけで氷の壁は砕ける様子はない。

 しかし、本番はここからだ。少女に接近しながら剣二は突き刺さった剣に意識集中させる。

 イメージするのは僅かな動き。それを何千、何万、何億とも繰り返す。それはもはや動きではなく振動だ。

 剣は剣二の意思に応えそのイメージを忠実に再現する。剣の振動は氷の壁にも伝わり氷の壁が僅かに震えた。

 氷の壁は剣の振動によって僅かずつではあるが削られ剣はゆっくりとではあるが確実に進んでいく。

 少女はその事に気がつくがどうする事もできない。このままでは確実に剣は氷の壁を突破してしまうだろう。

 仕方なく脱出のために氷の壁を解く。

 その隙を剣二は見逃さない。

 剣の速度を上げて一気に接近する。

 そしてその勢いのまま両手で剣を持ちすれ違いの瞬間、一気に振り抜いた。

 嫌な手応えが剣を通じて伝わってくる。

 振り返ると脇腹から激しい出血をしている少女の姿があった。自分が持つ剣にも大量の血が付着している。

 しかし、それだけの怪我をしているにも関わらず少女は倒れない。

 苦悶の表情も浮かべずにこちらを見ている。

 その事に剣二は戦慄するがここで押される訳にはいかない。すぐに表情を引き締めると再び少女に近づいていく。

 それをさせまいと少女も氷を落としたり氷の壁を作ったりして剣二の接近を妨害する。

 その攻撃を快潜りながら剣二は少女に近づいていく。

 接近を嫌った少女は再び氷の壁を周囲に張り巡らせる。先程、彼が用いた方法は氷の壁を突破するのに時間がかかっている。少なくても時間稼ぎにはなるはずだった。

 しかし、剣二はそれを確認すると急に足を止め逆に彼女から離れ始める。

 彼の行動の変更に少女は怪しむが直後にその疑問は解消された。

 すさまじい音と共に背後から砲撃が放たれたためだ。

 振り返ってみると砲撃の主は自分と同じくらいの年頃の少女だった。砲撃の威力はすさまじく氷の壁で防ぎきれるものではない。

 砲撃から逃れようと氷の壁を解錠しようとして少女は気がついた。

 周囲は既に剣二の剣で囲まれている。解除すれば剣はたちまち少女に襲いかかるだろう。

 少女は回避を諦め防御の方に集中するつもりのようだ。砲撃が来る方に氷の壁がいくつも出現して少女を守る盾となる。

 しかし、砲撃はその氷の壁を安々と突破していく。

 そして砲撃は少女の元に到達した。


 綾香は自分の砲撃が少女に直撃したのを見た。

 剣二が囮になって注意を引いている間にできるだけチャージしてから砲撃を放つ。

 それが戦場に飛び込む前に剣二から言われた事だった。

 砲撃の衝撃で舞った砂煙が晴れて倒れた少女の姿を確認すると綾香はほっと胸を撫で下ろし剣二の元へ向かうのだった。


 倒れ動かない少女の元へ剣二は近づいていく。聞きたい事があったからだ。

 体は動かないまでも意識はあったようで少女の瞳がこちらに向けられる。

「何故、俺を狙うのか。聞かせてもらう」

「……」

 剣二の問いに少女は何も言わない。どうあっても理由を話す気はないようだ。

 こちらに近づいてくる複数の足音。恐らく先程の警備員達だろう。

 恐らく彼女は彼らに連れていかれるはずだ。

「どの道、お前は喋らざるえないぞ?」

「それはありえません」

 剣二の言葉を否定するように少女はそう言ってきた。

 どういう意味だ?、と剣二が問うよりも早くそれは起こった。

 突然、少女の体が震えだす。何だ?、と剣二が考える間もなく少女の目から光が消えていき体の震えも止まっていく。そして体が動かなくなったのと同時に少女の口の端から血が滴り落ち始めた。

 その時になってようやく剣二は毒という言葉が頭に浮かんだ。

 周囲、こちらの様子を見ていた警備員達はその様子に急いで何かを言って動くが何となく間に合わない予感が剣二にはあった。

「剣二……」

 聞き慣れた声に振り返ると綾香がこちらに歩み寄ってくるところだった。

 彼女は少女の方に視線を向けて一瞬怯えたような表情になったがそれでも構わず剣二に近づいてきた。

「剣二。怪我はない?」

 綾香は剣二の身を案じて尋ねてくる。

「まあ、なんとか」

 幸い怪我はないが正直に言えばかなり疲れた。

 彼女を現場から離す意味もあってどこで休みたいというと予想通り彼女もそれに付き添うために付いて来た。

 離れ際に剣二は少女の方に視線を向ける。

 少女は動かない。だが得体のしれない雰囲気がそこから感じ取れた。

 それと同時に剣二は怒っていた。命を何とも思わないそのやり方に彼は怒りを禁じ得ない。

 そうして二人はその場を後にした……

次の章は短編の予定です。

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