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現代の陰陽師はこうあるべき~使役神は1/7?それとも1/1?~  作者: 五平


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第四話:男装の麗人、突入(デバッグ・ライブラリ)

「……説明してもらおうか、阿久津。この部屋の『重力』がおかしい。そして、その人形は何だ」


警視庁怪異対策三課、千代丸は抜いたばかりの模造刀を構えたまま、鋭い視線で部屋を射抜いた。彼女の背後には、最新鋭の霊素スキャナーを装備した三課の隊員たちが控えているはずだったが、ドアの「位相」が狂った影響で、今は彼女一人だけがこの異質な空間に孤立している。


阿久津は、引きつった笑いを浮かべながら両手を上げた。

「い、いやぁ千代丸さん、これはその、趣味の電子工作というか……掃除の効率化というか……」


『評価:管理者、言い訳のプロトコルが旧式すぎるわ。――アンチウイルス、そこの男装個体。私の演算を「ノイズ」呼ばわりした無礼、今すぐデバッグしてあげましょうか?』


阿久津の肩の上、一対七スケールのミミが、傲然と胸を張って言い放った。


「喋った……!? 自律型の人型触媒だと? 阿久津、貴様、禁忌とされている『物理受肉』に手を染めたのか!」


千代丸の顔に戦慄が走る。彼女にとって、術式とは古来より伝わる「型」と「精神」の産物だ。それをジャンクパーツと電子回路で無理やり「接続」するなど、冒涜以外の何物でもない。


「違うんだ千代丸さん! 俺はただ、売れるお札を作ろうとしただけで……!」


『管理者、黙りなさい。……そこの「正論の塊」、排除デリートするわよ。管理者、次のお札をその「模造刀」に貼りなさい。……今、あなたのスマホから「元カノ全員への未練垂れ流しメール」の一斉送信を予約したわ。実行まで三秒』


「待て待て待て! 貼る! 貼ればいいんだろ!」


阿久津は、突進してくる千代丸の死角をミミに指示されるまま、転がるようにして彼女の懐に潜り込んだ。

ミミの超演算が、千代丸の「正しい剣筋」を完璧に読み切っている。


「なっ……!?」


阿久津の手が、千代丸が振り下ろそうとした模造刀の刀身に、震える手でお札をペタりと貼り付けた。


――接続、完了。


「問答無用! ――断!」


千代丸の渾身の一撃が、阿久津の脳天を目がけて振り下ろされる。

超硬度の特殊合金、霊力を込めた一閃。本来なら、阿久津の頭など豆腐のように割れているはずだった。


だが。

刀身が阿久津の髪を撫でた瞬間、千代丸の手応えが「消えた」。

風を切る音さえしない。そこにあるはずの質量が、まるで霧になったかのように手応えを失ったのだ。


「……なに? 手応えがない……? 斬ったはずだ、理論上は完璧に!!」


『理論? 古いわね。今は「接続」されているものが正義よ』


ミミが鼻で笑う。

お札を貼られた模造刀の刀身は、ミミのハックによって物理的属性を書き換えられていた。

――「切断対象:空気のみ」に制限。


千代丸がどれだけ力を込めて剣を振るおうと、それは世界で一番純粋な空気を切り裂くだけの「ただの棒」に成り下がっていた。


「なぜだ……! 私の剣は、三課の技術の粋を集めた……っ!」


「……あ(指先の力が抜け、刀が床に触れることすら忘れる)」


千代丸の正義が、理論が、そしてプライドが、ミミという「接続」の化け物の前で、音を立てて崩れていく。


『技術の粋? ただの「物理的な硬度」に頼った旧世代の遺物よ。……次は、その「防弾ベスト」をハックしてあげましょうか? 接続パッチを当てれば、それはただの「全自動肩凝り解消機」に変わるわよ』


「な、なめるな! 私は、警視庁の……っ!」


千代丸が次に抜こうとした拳銃型霊素放射器にも、阿久津がミミの指示通りに次のお札を「接続」する。

引き金を引いた瞬間、銃口から放たれたのは破壊の光弾ではなく、「ポコン」という間の抜けた音とともに吐き出された、一輪の造花だった。


「……あ、阿久津。貴様、私を……私の装備を、一体何だと思っているんだ!」


「い、いや、俺のせいじゃないんだ! 全部このミミが……!」


『管理者、仕上げよ。彼女の「バイク」にお札を貼りなさい。……「最短帰宅ルート」に強制制限ロックするわ』


「あああああ! 千代丸さん、ごめん! 命だけは助けてやるから!」


数分後。

阿久津の店の前で、千代丸を乗せた最新鋭の白バイが、彼女の意思を一切無視してマッハの勢いで垂直の壁を駆け上がり、夜の闇へと消えていった。


「……阿久津拓海ィィィ! 覚えていろォォォォ!!」


遠ざかる千代丸の絶叫を聞きながら、阿久津は力なくその場に座り込んだ。

肩の上で、ミミが満足げに小さな胸を張る。


『デバッグ完了。……さて、管理者。アンチウイルスを追い払った報酬に、私の「服のテクスチャ」をもう一段階、高解像度ハイレゾに書き換えなさい。……もちろん、私の指示通りにね』


現代陰陽師・阿久津拓海。

彼は今日、ついに国家権力を「便利な周辺機器」として退けるという、最悪の成功を収めてしまった。

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