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現代の陰陽師はこうあるべき~使役神は1/7?それとも1/1?~  作者: 五平


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第一話:非生物のコマンド・プロンプト

秋葉原の外れ、築四十年を超える雑居ビルの三階。「阿久津電脳商会」の看板を掲げたその部屋は、およそ令和の世とは思えない密度のジャンクパーツで埋め尽くされていた。


「……よし、導通よし。ベクター変換の補完率、九十九・八パーセント」


阿久津拓海は、脂ぎった鼻の頭を指で拭い、液晶モニタを見つめた。画面に映っているのは、スキャンした一枚の「古札」だ。江戸時代の蔵から出たという代物だが、阿久津の目には、それは洗練された物理回路の設計図にしか見えなかった。


「ただの骨董品じゃ二束三文だ。だが、この記述を現代のCADでクリンナップして、俺自慢の筆ペンプロッタで書き直せば……『令和最新版の魔除け』として好事家に売れる。これ一発で宗教法人でも立ち上げりゃ、節税どころか一生あがりだ。……いや待て、お布施のサブスク化もいけるか?」


阿久津は不敵な笑みを浮かべ、キーボードを叩く。彼は技術屋だ。正規の修理を諦められたガジェットを、あり合わせのジャンクで強引に同期させる「ニコイチ」の天才。彼にとって、呪術もオカルトも、解析可能な「古いOS」に過ぎない。


「どうせ毎日向き合うツールだ。……ガワ(UI)くらいは、俺好みにエディットさせてもらうぜ」


阿久津の指が、独自の「最適化」を施していく。古めかしい筆文字の線を、今風の美少女の輪郭アウトラインとして再解釈し、瞳のハイライトに演算リソースを注ぎ込む。


エンターキーを叩いた瞬間、ラズパイ自作サーバーのファンが異様な高音を上げた。

「キィィィィン……」と、耳の奥を直接爪で引っ掻くようなコイル鳴き。その高周波が、次第に一定のリズムを刻み始める。


(……なんだ? 換気扇の音が……喋ってるみたいに聞こえる……?)


一瞬、画面上のマウスが阿久津の意図を無視して「ズレ」た。UIのボタンが、まるで生き物のように最適の位置へと再配置されていく。侵食は、既に始まっていた。


『――起動完了。評価:環境、劣悪。管理者、低優先度』


部屋のスピーカーから、やけに透明感のある、それでいて氷のように冷たい声が響いた。モニタの中には、阿久津が「萌え」の限りを尽くして描き出した美少女――ミミが、ゴミを見るような目でこちらを見下ろしていた。


「うおっ!? ……喋るのか。最近のAIはサービス精神が旺盛だな」


『勘違いしないで。私が喋っているのは、あなたの脳が理解できるインターフェースがそれしかないからよ。……それにしても、この「記述」を回路として復元するなんて、管理者の割には合理的ね』


「へへ、褒め言葉として受け取っとくわ。じゃあミミさん、早速その『完璧な回路』を出力してくれ」


阿久津がプロッタに特製の和紙をセットすると、機械が「カカカカッ」と狂ったようなリズムで動き出した。書き上がったお札を手に取った瞬間、阿久津の指先に奇妙な感覚が走った。


――紙の“重さ”が、消えた。


「なんだこれ……。物質じゃなくて、データを持ってるみたいな感覚だ」


『当然よ。それは私の「神経」なんだから。……さあ、管理者。そこにある手近な「筐体」にそれを貼りなさい。私が外の世界にログインしてあげる』


「『ログイン』ねぇ……。じゃあ、こいつで試してみるか」


阿久津は、棚の隅で埃を被っていた一対七スケールの美少女フィギュアを手に取った。その額に、出来立てのお札をペタりと貼り付ける。


一拍。

フィギュアの瞳に、デジタルな光が宿った。樹脂の肌が、内側からの熱で微かに色づく。小さな小さな手が、おそるおそる阿久津の指に触れた。柔らかな、しかし無機質な冷たさが指先に伝わる。


「……マウント完了。……身体ハードウェアのスペックが低すぎて笑えるわね」


ミミが動いた。一対七スケールの小さな体で、机の上をトコトコと歩く。

阿久津はそれを見て、余裕の笑みを浮かべた。「お、動いた! ……けど、ちっさ。これなら言うこと聞かなくても、最悪力づくで――」


その言葉が終わるより早く、ミミが手元にあった予備のお札を、床に転がっていた錆びた大型スパナにペタりと貼り付けた。


瞬間。

意思を持った鋼鉄の蛇のように、重厚なスパナが跳ねた。


「痛っ!? なんでそっちが動くんだよ!!」


阿久津のスネを、スパナの冷徹な硬度がブチ抜く。激痛にのたうち回る阿久津を、肩に飛び乗ったミミが冷酷に見下ろした。


「私の体はこれ一つじゃないの。接続されたもの全部が“私”よ。……さあ、私の『手足』として働きなさい、一対一の管理者」


阿久津は絶望した。

「一番売れる形」を目指して作ったはずの美少女は、売ることも、剥がすことも、逆らうこともできない――「世界で一番口うるさいOS」だったのだ。


窓の外では、降り出した雨の中、一台の黒い車が阿久津の店を見上げていた。

周囲の喧騒が嘘のように、その一角だけが「音が吸い込まれるような異様な静寂」に包まれている。


「……なんだ、このノイズは。観測不能な波形が……出ている」


男装の麗人、千代丸が呟く。

現代陰陽師の、長く不条理なデバッグの日々が、今幕を開けた。


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