EP9 ダーク・クラスター
「どうした? 眠たいか」
「……うん」
「なら、もう寝てしまえ。こんな時間にガキが起きてることはねェ」
ローニンはそう言い、床にへたり込むカスミをベッドまで連れて行く。ローニンは原作でも、なにを考えているのか今ひとつ分からない。結局、自由人で野望人のまま、そこから抜け出せず主人公に敗れて死んでいくのだが、果たしてすでにバグが起きているこの世界ではどうなるか。
「ありがとう」
「あぁ」
ボイスチェンジャー付きの声は、感情をあまり前面に押し出さない。だが、カスミは確かに彼の声に優しさや温かさを覚えていた。
*
アーク=セラフ社の大誤算は、泣き面に蜂を刺される形で一応の解決を見た。この街──アンゲルス自由都市の覇権争いから、一歩置いていかれたのは否めない。
〝リフレクト〟の喪失と〝ダーク・クラスター〟の強盗事件は、ただちにアーク=セラフの上層部に伝わり、汚名返上のために兵士の増強を決定。
そのうち、ダーク・クラスターは企業の適合コード──正規の手段で奪われたので、追跡はさほど難しくない。アーク=セラフと強盗犯たちの対決が火蓋を切られた。
「ビクター、やっぱり追跡されてるよ。車でダウン・タウンまで逃げるのは、無理じゃない?」
MTで赤色のマッスルカーは、乱暴な運転でトンネルを抜けていた。アーク=セラフの実働部隊による激しい銃撃及び、偵察ドローンによる追撃を跳ね返せるか、という場面である。
「なら、反撃だ! 8歳児でも使えるロケット・ランチャーでな!」
すでに車の上部は銃撃で剥がれ落ちている。
まるでオープンカーのようになった車は、その耳をかすめる不愉快な風切り音とともに、それでもペダルを壊す勢いで速度を出しまくる。
「分かった」
ビクターの相棒、セラフィムはロケット・ランチャーを構え、装甲車へロケット弾をお見舞いする。
爆音、
命中、
誘爆、
2台の装甲車がお釈迦になった。
その空圧で一瞬ハンドルがあらぬ方向へ曲がるが、ビクターは自身の腕力でそれを正しい方向へと曲げ直した。
「まだまだ来るよ。10台以上来てる」
「ッたく、暇なヤツらだな!! セラフィム、路肩に停めるぞ!」
「どうやって? 停めた瞬間、蜂の巣だよ?」
「おれがやると言ったらやるんだよ!! ……いや、良い荒道があるな。そこに突っ込むぞ。頭、伏せとけ」
「うん」
セラフィムはアサルトライフルを構え、一応装甲車を撃ってみる。だが、やはり防弾ガラスに効くような弾丸ではない。
そして、セラフィムはガコンッ! と揺れたところで身を伏せ、分厚く巨大な装甲車では通れないであろう荒道を進む。
しばし走った後、ビクターとセラフィムは車から降り、拳銃を持ちながら暗い道なき道へ進んでいく。
「ダウン・タウン郊外か……。中立点ほど開発もされてない。隠れ家が手に入りゃ良いが」
「こんなところに隠れ家はないでしょ。原始人的な生活するならともかく──」
ビクターとセラフィムは、ほぼ同時にスナイパー・ライフルのスコープの光を目視した。
セラフィムは、「危ないっ!」とビクターの盾になるように彼の前へ立つが、それはむしろビクターから反撃の手段を奪い取ってしまった。
「セラヒィー!? ……クソッ」
まだ息はある。しかし言い換えると、息しかない。腹部を撃ち抜かれ、ぜぇぜぇと呼吸を荒くしている。
一方、セラフィムが倒れたことで、ビクターに反撃のチャンスが与えられた。彼は強奪したばかりのギア〝ダーク・クラスター〟を使う。
すると、闇夜の中にふたりの影が消え失せた。狙撃手たちは怪訝な面持ちになるも、このまま手柄なく帰れないため、一旦狙撃銃を置いて崖をパラシュートで降りていく。
「──バーカ☆」
狙撃はスナイパーとスポッターによって行われる。その狙撃手たちは、ものの見事にビクターの罠に引っかかってしまった。
足が泥水の中で腐っていくような感覚に苛まれた頃、ビクターはふたりを射殺するのだった。




