EP6 弱者なき世界
ボイスチェンジャーがついていることや、フードを被り仮面代わりの電子マスクをつけているのは、素性を知られないためであろう。しかし、原作知識を持っているカスミには分かる。彼が、主人公最大のライバルのひとり──ローニンであることを。
「……余計な会話は無しにしよう。私は、闘うと決めてる」
「へェ……、ガキの癖して随分威勢が良いな」
ローニンはリボルバーを取り出し、それをなんら躊躇なく幼女のカスミに発砲した。
しかし、リフレクトがついているカスミにただの銃弾は効かない。あえて銃弾をあさっての方向へ飛ばし、カスミは髪をすくい上げた。
「良いだろう。戦士は好きだ。このままアーク=セラフの喰い物にされるくらいなら、おれに着いてこい」
「……なにを目的に?」
「目的、か。そうだな──」
淀みきった空は、かろうじて満月を見せていた。月明かりなんてほとんど感じられないが、それでもここが地球であり、人間と人間の取引の場所だという証明になる。
「世界、だ」
ローニンはそう言い放ち、カスミに手を差し出してきた。カスミはそれに引っ張られる前に、デバイスの電源を一旦落とす。
そして引っ張られ、カスミとローニンはスラム街を歩き始めた。
狡猾にスラムを生きる者は、ローニンのような強者の隣にいるのが、アーク=セラフが血まなこになって探している少女だと分かっていても、決して密告したりしない。ローニンにそれを悟られれば、彼らは文字通り一刀両断される羽目になるからだ。
「小娘、名前は?」
「カスミ。貴方は?」
「おれはローニンと呼ばれているらしい。どこへも属さないサムライのことを、そう呼ぶらしいな」
「そうなんだ」
「で? なぜオマエは、アーク=セラフを襲った? 連中は応援部隊を呼びまくって、オマエを確実に消すぞ。そのリフレクトの所為でな」
「私は戦士で、喰い物ではないからね。生き残るためには、誰かを喰わなきゃならない。この街には、いやこの世界には──」
「弱者は存在しない。なぜなら、すでに死んでいるからだ。あるいは、オマエのように闘う覚悟を決めているか」
そんな会話をしつつ、カスミとローニンは薬物依存者が奇妙な動きをしている、L-9区域の出口へたどり着く。薬物依存など、このL-9区域では序の口だ。それが街の造りに表れていた。
「ほう……。カスミ、第一関門だ。戦士であることを証明してみろ」
しかし、正面から突破しようと歩んでいたわけだから、当然のように検問が行われていた。ライフルやロケット・ランチャーを持った、身体改造済みの兵士が、こちらに目を光らせている。
「うん」
カスミは淡々と、まるで自分が追われる立場でないかのように検問前へ歩いていく。
すると、「止まれ!!」と大声で静止される。ライフルを向けられ、10際くらいで身長140センチ程度の少女では、到底突破できない難門が待ち受けていた。
「止まれ、ねぇ」
カスミは耳を搔くふりをして、ギアの電源を入れ直す。
そして、
地面を蹴って、近くの装甲車のエンジンに拳をねじり込ませる。
兵士たちは言葉をしばし失うが、やがてカスミに向けて銃火器を向け始めた。
ただ、発砲したらエンジンから流れ出るガソリンに引火してしまう。カスミは端から全員を倒そうとは思っていない。ただ、ここを突破できれば良いだけの話なのだから。
「撃ってみなよ。誘爆で、私以外みんな死ぬけどね」
どこか生気のない虚ろな、更にいえば兵士たちを小虫程度にしか思っていなさそうな目つきで、カスミは忠告しておく。
「クソッ……。このガキャ!!」
こう着状態に陥る中、カスミの元に見上げても顔が見えないほど巨体な男性らしき者が近づいてきた。身体はパワードスーツに覆われていて、腕力のみでカスミを鎮圧しよう、という考えなのだろう。単純だ。
カスミは溜め息をつき、虚ろな目つきのまま、気だるそうな声で言う。
「傷害保険が降りると良いね」




