EP16 中心都市《ダウン・タウン》
中央都市、通称ダウン・タウン。クレイジーな平和を謳歌する者たちの街だ。
街を歩けばASPD──警察が顔とサイレンを真っ赤にしながら、パトカーを走らせている。薬物の過剰摂取で、ゾンビのようにうめき声を上げる者がいる。酒の飲み過ぎで地面に嘔吐する者がいる。
それでも、スラム街のあるL-9区域よりは自分たちのほうが高等な生活をしていると思いこんでいるのだから、スラム出身のカスミからすれば噴飯ものだ。
「あの売女はL-3区域に住んでいる。とりあえず、モノレールで向かうぞ」
異常な街だが、皆服装はしっかりしている。汚れた白いシャツとデニムのカスミが、浮いて見えてしまう。ただ、その隣にいるローニンはそんなことを全く気にしていないようだった。
「ねぇ、ローニン」
「この街でおれをその名前で呼ぶな」
「なら、お父さん」
「なんだ」
(お父さんで良いのかよ? まぁ良いや)
「まず、服を買わなきゃ、じゃない?」
「服? 別に今のままでよかろう」
「いや、職質対策に。私、三級市民じゃん?」
「それもそうか。しゃーねェ。服屋寄ってから行くぞ」
中央都市でしか機能していない警察と、いちいち闘っていても切りがない。こんなみすぼらしい格好で堂々と歩いていたら、職務質問からの戦闘は避けられない。
「ガキ用の副屋なんて、近くにあるかね」ローニンはスマホを見て、右側を指差す。「いおや、あるな。おれもあまりカネ持っていねェから、安いものしか買えないが、我慢してくれ」
「良いよ。きれいな白シャツとジーパン買えれば、それで良い」
正味、中央都市のみならずこの街は暑いため、今着ている服をアップデートすれば良いだけの話だったりする。日本と違って、カラッとした暑さなので、いささか過ごしやすい。
ふたりは服屋へと向かい、早速セールワゴンに入っていたTシャツとデニムを持って会計へと進む。
「20ドルです」
「あぁ」
ローニンは小汚い財布から10ドル紙幣を2枚取り出し、
「なぁ、この場で娘を着替えさせて良いか?」
と言う。
「良いですよ」
あっさり了承をもらえたので、カスミは着衣室に入って今ある服を脱ぎ捨てた。
(そういえばおれ、TSしてるんだったな……)
たった数日しか経っていないが、すっかり少年から少女になったことを失念していた。ブラジャーもつけられていない胸を見たところで、興奮する余地もないが、怪訝な気持ちになるのは間違いなかった。
着替え終わり、カスミとローニンはモノレールの駅へと向かう。
近くには、酒の過剰摂取かなにかで地べたを這いつくばる者が何人もいた。まだ夕暮れなのに、飲んだくれがたくさんいるようだった。
そんな酔っ払いのひとりが、ローニンに絡んできた。
「よう兄ちゃん。見慣れねェ顔だな?」
「テメェに見慣れられたら、終わりだ」
「あァ!?」
なぜ酔っ払いという生き物は面倒臭いのだろう。彼はナイフを取り出し、ローニンを突き刺そうとした。
しかし、ローニンがこれしきで動じるわけもない。彼はナイフを取り上げ、酔っ払いの喉元にそれを突きつける。
「ひ、ひぃ!!」
その酔っ払いは、どこかへと去っていった。
「だから中心都市は嫌いなんだ」
ローニンはそう呟き、駅で切符を買ってカスミへと渡す。
「ゴミの掃き溜めだが、おれとオマエの目的のためなら、多少は目を瞑らないといけねェ」
「分かってるよ。さて、乗ろうか」
「あぁ」
カスミは、ローニンに着いていきモノレールでL-3区域へと向かっていく。
モノレールから見える景色は、サイバーパンク化した街らしい風景だった。摩天楼が建ち並び、そこらで喧嘩する者がいて、一番大きなビルは、まるでこの街を支配しているかのようにカスミたちを見下ろす。




