EP15 逃げるが勝ちで夢への第一歩
ローニンは、至って冷静だった。それこそ、なにかクスリを使っているかのように。
「危険ドラッグの複合体で、その効果は多幸感の他に……腕力を数分間あり得ないほど強化する。そうだろ?」
カスミは激痛に悶えながらも、ローニンの言葉をしっかり聞いていた。
〝シア・ハート・アタック〟。略称SHA。この世界における、劇薬である。強烈な多幸感と、恐ろしい腕力を手にすることができるものの、効果は数十分と続かない。もしオーガが待ち伏せしていたのであれば、もう効果時間は残り少ないはずだ。
それらを見透かされたオーガは、さりとて犬歯が見えるほどに笑う。
「あぁ、そうだ……!! おれはSHAを使ってる!! テメェをぶち殺すためだけにな!! 後何分持つかって? そんなことァ関係ねェ!! むしろ、テメェこそ後何分闘えるんだァ!?」
ローニンは憐れむように溜め息をついた。
「バーカ。SHAなんて使った野郎とまともに闘うわけねェだろ。意味、分かるか?」
そう言い残し、ローニンは空を舞う。彼は、いつの間にかカスミの耳につけていたインカムで指示してきた。
『おい、逃げるぞ。リフレクトで地面を叩け。土煙で野郎の視界を遮るんだ』
インカムから響くローニンの鋭い指示に、カスミは激痛を堪えて右手を地面に叩きつけた。
「──ッ!! うぉおおおおお!!」
リフレクトの出力を最大に引き上げる。衝撃が地面を伝わり、アスファルトを粉々に粉砕しながら巨大な土煙を巻き上げた。視界が遮られた刹那、ローニンが影のようにカスミの元へ飛び込み、その小さな身体をひょいと抱え上げる。
「クソッ! 前が見えねェ!? テメェ、逃げる気か!?」
背後でオーガの怒号が響くが、ローニンは一切振り返らず、大破しかけたマッスルカーへと飛び込んだ。
「舌を噛むなよ……!!」
「う、うん……!」
アクセルを床まで踏み込む。タイヤが悲鳴を上げ、白煙を上げながら車体が急発進した。バックミラー越しに見えるオーガの姿が、次第に遠ざかっていく。SHAの効果が切れかかっているのか、彼は追撃してくる様子はなく、代わりにその場に膝をつき、吐血しているようだった。
凄まじい勢いで走り抜けていく車は、あっという間にオーガの姿を捉えられなくなった。カスミは一息つき、助手席でぐったりと横たわる。
「はぁ、はぁ……」
「しっかりしろ。〝スティム〟で治療してやるから」
オーガが見えなくなったのを確認し、ローニンはカスミの胸元に〝スティム〟という軍人用の興奮剤を打つ。バキバキ、と傷んでいた骨が、少し楽になるのを感じた。
「まさか、あの野郎が出待ちしているとは……」
ローニンは車を走らせ、そう呟く。
それに呼応するかのように、カスミはか細い声で言う。
「……あのね、ローニン」
「なんだ」
「さっきのオーガってヒト、あんなところに現れるはずじゃなかったの。……私の知識では」
「知識? スラム街のガキが、まるで神の視点だな」
「どう思われたって構わないけど……、オーガは本来ならローニンを殺すはずだった」
「……!」ローニンは驚愕に染まった。
「でも、そのイベントはもっと後に訪れる。どうも、私が現れてから、この世界の条理は崩れ始めてるみたい」
「……あぁ、そうかよ。オマエの素性なんて興味ねェが、なにか重大な情報を握っているのは、間違いねェわな」
ローニンが言葉を切り、視線を前方に向けた。 巨大なゲートがそびえ立ち、その先には空高く伸びる摩天楼。企業の支配する楽園、ダウン・タウン。
「誤魔化せるかは、運だな」
「運命の歯車なら、とっくのとうに壊してる。さぁ、楽園へ入ろう」
ゲートの走査光が車を包み込んだ。 赤い光が緑へと変わり、巨大な壁が静かに左右へ開いていく。
「さぁ、ここからが本番だな。おれの目的はこの世界そのもの。オマエは……」
「パクス・マギア。ダウン・タウンには、必ず痕跡があるはず」
「へッ、おれみてェな流れ者と、オマエみてェなガキが語るにァ、壮大過ぎる夢だな」
「だから、やりがいがあるのさ」
第一章、おしまいです。
『2.原作なき世界』をお楽しみに!!
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