EP13 一難去ってまた一難
「く、クソッ……」
アーク=セラフの兵士が、腹部から血を垂らし地べたを這いつくばる頃、カスミはローニンの車に乗る。外国らしい青色のマッスルカー。MT車でもあるようで、ふたり乗りだ。
「行くぞ。ANGEL-3が襲ってくるとも限らねェ」
「うん」
車に乗っている間、カスミとローニンは全くの無防備になる。それでも車での移動を選んだのは、おそらく……、
「あのアバズレはダウン・タウンに住んでいる。一級市民というわけだな。おれは何度か訪れたことがあって、特に攻撃もされなかったが、オマエさんはどうだか」
「二級、あるいは三級市民登録されてる可能性は否めないね」
サイバーパンク・アンゲルスの世界は、市民をランク分けしている。それを分けるのは、暮らしている地域だ。なので、スラム街出身のカスミは、〝三級市民〟である可能性が高い。
では、三級市民だとなんの問題が生じるか。簡単だ。中心都市ダウン・タウン──〝一級市民〟及び〝二級市民〟が暮らす街への検閲で引っかかり、下手すれば銃撃の雨嵐を受けてしまう。これを乗り切るのは、偽装か強行突破か。
しかし、強行突破は一時的に街へとどまるのならともかく、常態的に暮らすのであれば安心して夜も眠れない。そのため、偽装が適当だと思われる。
それを見越したか、ローニンは車の通信機で、ミラに連絡し始めた。
「おい、リフレクトの適合者への市民証を偽装しろ。コイツ、スラム出身だから中心都市に入れねェ可能性が高いからな」
『良いよ~。その子のお名前は?』
「カスミだ」
『カスミね。顔写真送れる?』
「あぁ」
ローニンはスマホでカスミの写真を撮り、それを通信機経由で送った。
『可愛いね。まぁ、このあたしほどじゃないけどさ』
「テメェに可愛げはねェよ」
『でも一度寝てくれたじゃん~。このツンデレさんめ』
「ありゃあ、壁でも見ているほうが有意義だったな」
『照れないでよ~』
「……、作ったか?」
『はいはいさー!』
通信機についていたCDプレーヤーのような道具から、カスミの市民証が送られてきた。ICチップはついていないが、そこはうまくローニンが誤魔化すだろう。
「さて、今から向かうぞ。温かい飯を用意しておけよ? さっきも言ったが」
『了解であります! ローニンとカスミちゃんのために、あたくし買い出しに行くのであります!!』
通信機を切り、カスミはローニンに言う。
「変なヒトだね」
「変で済めば、そんな楽なことはねェよ。だが、コイツは有用だ。絞れるだけ絞るぞ」
「情とかないの? 一度寝たとか言ってたけど」
「睡眠薬と媚薬を盛ってヤッたのを、寝たとは言わねェ。で? あとなにか質問あるか?」
「ないね」
「なら、行くぞ」
ドッドッドッ……と心拍数のようにエンジンが唸り、カスミとローニンは中心都市ダウン・タウンへと向かっていくのだった。
*
時刻はすっかり夕焼けになっていた。カスミはまたもや眠たくなってきて、ウトウトしながらマッスルカーの乗り心地の悪さで目を覚ますのを繰り返していた。
「もうそろそろ着くぞ。一番検問が緩い場所に向かっているので、万が一もないとは思うが──」
ローニンは突如、車を路肩に停めた。
「どうしたの?」
「いや、銃痕があった。救護部隊〝アンチ・ストレス〟が片付けたつもりでいたようだが……、これは道を変えなきゃいけないかもな」
ローニンは電子マスク越しに、銃撃戦の痕を見つけた。視力を動物並みに上げているため、彼はこの戦闘が最近あったことに気が付いたのであろう。
「なるほど。検閲がキツくなっている可能性があると」
「ッたく、面倒事を起こしやがって。まぁ良い。Uターンするぞ──」
そのとき、バリリィン! というけたたましい音とともに、なにかがカスミとローニンの車に突っ込んできた。カスミは咄嗟にリフレクトを起動し、その物体を反射する。




