EP12 虐殺
ローニンが最初に外へ出た。
セーフハウスの扉を蹴破るように開くと同時に、夜気を裂く銃声が連続して響く。
アーク=セラフの正規兵。黒翼のエンブレム、統一規格の義体、無駄のない陣形。
――完全に、殺しに来ている。
「包囲完了。対象を確認。発砲許可――」
指示が終わる前に、ローニンは踏み込んだ。
地面が割れる。
義体強化の脚力がコンクリートを砕き、ローニンの身体が“消える”。
次の瞬間、前列の兵士の首が、音もなく落ちた。
赤い光の刃が一閃。
防弾装甲も、義体の関節も、存在しなかったかのように断ち切られる。
「な――」
叫びは途中で途切れる。
ローニンは止まらない。斬って、斬って、斬り続ける。
戦闘ではない。
これは、処理だ。
その背後で、カスミが静かに歩み出た。
「……来るよ」
次の瞬間、後方支援部隊が一斉に火を噴いた。
アサルトライフル、榴弾、対人用マイクロミサイル。
だが――
銃弾は、カスミに届かない。
見えない膜が、幼女の身体を包む。
弾丸は軌道を反転し、撃った兵士の胸を貫いた。
「ッ!? 弾が――」
「反射……!? 馬鹿な、そんなギア――」
ミサイルが空中で跳ね返り、後衛部隊の中心で爆ぜる。
悲鳴と爆炎。陣形が一瞬で崩壊した。
カスミは、淡々と前に出る。
「撃つなら、もっと考えたほうがいいよ」
その声は幼い。
だが、言葉の内容は死刑宣告だった。
「クソッ! なら、近接で──!!」
一人の兵士が近接戦闘を選択する。
パワードスーツを駆動させ、巨大な拳を振り下ろす。
――次の瞬間。
拳は、逆方向に折れ曲がった。
骨も装甲も意味をなさず、力のベクトルだけが裏返る。
兵士は悲鳴すら上げられず、地面に叩きつけられた。
「……だから言ったのに」
カスミは一瞥もくれず、ローニンの背中を見る。
ローニンは、楽しそうだった。
「良いなァ、その能力……最高だ」
次の瞬間、ローニンが跳ぶ。
壁を蹴り、天井を踏み、空間を縦横無尽に使う。
狙撃兵の位置を〝感覚〟で捉え、赤い刃を投げるように振る。
光の斬撃が建物を貫通し、屋上の兵士が真二つに裂けた。
「隊長! 指示を――」
隊長格の男が声を上げた瞬間、
背後からローニンの刃が喉を貫いた。
「指示? 必要ねェよ」
耳元で囁き、刃を引き抜く。
血が噴き、男は崩れ落ちた。
残った兵士たちは、完全に混乱していた。
撃てば反射され、近づけば斬られる。
勝ち目が、存在しない。
「撤退――」
誰かが叫ぶ。
だが、その言葉は途中で遮られた。
カスミが、初めて〝走った〟。
幼い脚で、地面を蹴る。
常識外れの速度ではない。だが、十分だった。
「
逃がさないよ」
足元の衝撃波を反射し、跳躍。
逃走車両の前に着地する。
驚愕する運転兵に向かって、カスミは拳を軽く当てた。
――反射。
エンジンの出力が逆流し、車両が自壊する。
金属が悲鳴を上げ、爆発が起きる。
おどおどしい、静寂。
数十秒前まで〝制圧部隊〟だったものは、
もはや瓦礫と死体の山に過ぎなかった。
ローニンは肩に刀を担ぎ、周囲を見渡す。
「……全滅、だな」
「うん。たぶん、次はもっと大きいのが来る」
カスミは耳のリフレクトを指で弾く。
まだ余裕はある。だが、世界が本気になり始めたのを感じていた。
ローニンは笑った。
「上等だ。世界が相手なら、斬り甲斐がある」
「私も」
ふたりは並んで、燃える残骸の向こうを見る。
ネオンの街。企業の都市。天使兵器が飛ぶ空。
この夜、確かに刻まれた。
――アーク=セラフは知ったのだ。
無力な幼女と、野良のサムライに喧嘩を売ったことを。
そして理解する。
これは〝戦争〟ではない。
ただの、一方的な蹂躙だ。




