EP11 死んだほうが良いヤツら
「……だからこそ、絶対に手に入れるんだ。パクス・マギア」
小さな拳をギュッと握りしめた。
パクス・マギアを手にすれば、このふざけた世界を変えられる。それに、元の世界へ帰還できる。たったそれだけの道標が、今のカスミを支えていた。
そんな最中、
セーフハウスの通信機が、短く鳴った。
カスミの背筋がぞぉっと凍った。原作では、通信機が鳴るとろくなことが起きない。誰かを殺してこい、誰かを拉致してこい、なにかを盗んでこい……といった塩梅に、どこへも属さないローニンに依頼主が連絡してくるのだ。
「ローニン……」
「あぁ、分かっている。通信機、貸せ」
「うん……」
ローニンは通信機を弄くる。
『ひゃーほー、ローニン』
そこからは、高い声が聴こえてきた。ザザザ、と通信の質の悪さが、余計に恐怖を増大させる。
「……ミラか。なんだ?」
『結論から言うよん。ローニン、アンタ〝リフレクト〟の適合者、匿ってるでしょ?』
「なんのことだ?」
『あたしの前で嘘が通じると思わないでよ。それに、悪い提案ってわけじゃないんだし』
「災害級のアホが、良い案件でも持ってきたか?」
『その通りだよん。今、ローニンが匿ってるヤツを差し出せば、アンタにダウン・タウンへの居住権を与えるってアーク=セラフが提案してきた』
「ハッ、おれが上級のアホどもを好きなわけねェだろう。ダウン・タウンへの居住権などいらん」
『へー。アーク=セラフは、アンタと適合者をぶち殺す準備ができてるらしいけど?』
「構わん。全員返り討ちにしてやる」
『相変わらずカックイイこと言うねぇ。だけど、あたしはアンタに死なれると困るんだよね~』
「あァ?」
『アンタ以上の便利屋は、この街にはいない。あたしのビジネス的にも、アンタの生存は極めて重大なのですよん。だからさ──』
原作でも出てくる、情報屋兼ハッカーのミラは、一度口を噤んだ。
そして、
『あたしのところへ来て。それで、アーク=セラフの上層部を皆殺しにしようぜぇ!』
「……オマエらしいな。用意周到に、幹部とボスをぶち殺すわけだ」
『そー。〝死んだほうが良いヤツら〟だからね~。アイツらは』
「上等だ、今から適合者連れてオマエの家まで向かってやるよ。良い飯用意しておけよ?」
『了解であります! ミラちゃん、ローニンくんをお待ちしております!』
通信機をベッドに放り投げ、ローニンは電子マスクの目部分を青バツに光らせる。
「あの淫売……一度寝ただけなのに、おれへ執着し過ぎなんだよ。ッたく、どうせアーク=セラフに、密告したのもアイツだってのに」
「ローニン、移動するの?」
「あぁ。もうここは安全じゃねェ。歩きで行くには遠すぎるから、車で行くぞ」
「分かった──」
鉄格子のようになっている窓から、銃弾がパリン、と跳ねた。おそらく、アーク=セラフの追手であろう。
カスミは左耳のイヤリング型デバイス──リフレクトの電源をつける。
「もう来たか。暇なヤツらだ」
「私も闘うよ」
「当然だ」
ローニンは、女性用の小型拳銃をカスミへ投げてきた。
「万が一、能力が使えなくなったら、ソイツで眉間を狙え。能力は〝正気度〟を奪い、それを使い果たした者は〝サイコ・キラー〟になる。もちろん、それくらい知っているだろうが」
「そりゃあ、噂くらいには」
「分かったら行くぞ。滅多切りだ」
ローニンは背後のジェットパックみたいなカバンから、柄だけの日本刀を取り出す。彼はそれに赤い刃物──光る、いわばビーム・サーベルを色付けした。




