表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイバーパンクANGELS-死にゲー転生幼女、物理反射チートで運命を跳ね返す-  作者: 東山スバル
1 原作ありきの世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/17

EP1 サイバーパンク・アンゲルス──CPA

 夕暮れの歩道は、奇妙なほどやさしかった。


 校門を出ると、冬の空気が頬に薄く刺さる。吐く息は白いのに、胸の奥だけが熱い。高橋(たかはし)霞海(カスミ)は、隣を歩く少女の横顔を盗み見て、すぐに視線を逸らした。笑われるのが怖いわけではない。現実が壊れそうで、目を合わせるのが怖かった。


 今日、カスミには初めて彼女ができた。


 なにかを始める、と決めただけで、世界は音まで変わる。部活帰りの自転車のチェーン音が軽い。遠くの踏切が鳴る。信号待ちの人波が、いつもより穏やかに見える。カスミは、ずっと画面の向こうでしか知らなかった「充実」を、ようやく手に入れた気がしていた。


「……ねえ、カスミくん。これから、どこか――」


 少女が言いかけた言葉を、エンジンの咆哮が噛み砕いた。


 交差点の向こうから、白い車が滑ってくる。ブレーキは遅すぎた。横断歩道の手前で一瞬だけタイヤが鳴り、次の瞬間には金属の塊が歩道へ突っ込んできていた。


 カスミの体は考えるより先に動いた。腕が彼女の肩を掴み、引き寄せる。足がもつれ、視界がぐるりと回る。世界が持ち上がり、落ちる。


 衝撃。


 音が、遠ざかった。


 まるで水底に沈んだように、色も、温度も、言葉も薄れていく。カスミは最後に、彼女の目だけを見た。驚きと恐怖と、何か言いたいことが混じった目だった。


 次にカスミが「見る」ことを許されたのは、闇の中だった。


 ——暗い。だが、目を閉じているのではない。目を開けたまま、闇に沈んでいる。


 その闇の中心に、赤が灯った。


 ひとつ、ふたつ、3つ。数えられない赤い目。目はまるで、夜の街で点滅するネオンのように規則正しく瞬いている。やがてそれらは翼の形を取り、翼の根元には女がいた。

 女は美しい、とカスミは思った。だがその美しさは、人体を解体して並べ替えた標本のような冷たさを含んでいた。


「提案をしましょう、高橋カスミ」


 名を呼ばれた瞬間、カスミは自分が〝認識されている〟ことに気づいた。事故の痛みも、喉の渇きも消えている。それでも恐怖だけが残っていた。


「ここに留まるなら、貴方は死ぬ。拒否権はありません」


 女の背の翼──いや、無数の赤い目の集合体がゆるく波打つ。目の一つ一つが、カスミの思考を覗き込んでいるようだった。


「戻りたいなら条件があります。貴方が愛読している《サイバーパンク・アンゲルス》の世界に一旦転生し、10年間生き残りなさい。あるいは、その世界の根底をひっくり返す《パクス・マギア》を手に入れなさい」

「……サイバーパンク・アンゲルス?」


 カスミの口から、間抜けな確認が漏れた。好きな作品の名が、自分の死後に飛び出すとは思わない。

 女は頷く。


「《PAX-MAGIA》——アンゲルスと世界運用機構が交わした停戦条約。世界を動かす〝上位規則〟の原本です。手に入れれば、制度も治安も、天使兵器の運用も、貴方の手で書き換えられる」


 条約。プロトコル。世界運用の上位規則。


 カスミの脳裏に、原作の断片が連鎖する。メガコーポが支配し、スラムが踏み潰され、天使兵器が空を飛び、誰もが「規則」に殺されるあの世界。そこにある〝根っこ〟が、条約と呼ばれる一枚の原本で縛られているのだとしたら──。


「成功すれば、もうひとつの世界(CPA)で得た力を、この世界へ持ち帰らせましょう」


 女の声音は甘い。だが甘さは餌であり、罠の香りでもあった。


「……断ったら?」

「今、ここで死が確定します」


 カスミは目を閉じた。閉じても、闇は変わらない。

 彼女の手の温度が思い出せない。言いかけた言葉の続きを聞けない。それが“確定”するのなら、カスミにとって断る理由はなかった。


「……分かった」


 女の赤い目が、一斉に細くなる。笑っているのだ、とカスミは直感した。


「良い返事。では転生を開始します」


 闇が落ちた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ