ラウンド4:未来社会の人間像
(スクリーンに「Round 4:未来社会の人間像」の文字。
スタジオがゆっくりと明るくなり、テーブル中央にあすかが座る。対談者たちの顔に、疲労と高揚が混じったような表情が見える)
あすか(静かなトーンで)
「さて……ここまで、制度、倫理、格差、救済と、あらゆる角度からベーシックインカムを見てきました。
でも最後に、どうしても皆さんに聞きたいことがあります。」
あすか(カメラ目線で)
「ベーシックインカムの先にいる“人間”とは、どんな姿をしているのでしょう?」
あすか(手元の資料を閉じて)
「お金のために働かなくてもいいかもしれない社会。
それでも、人は何かを創り、誰かと関わり、未来へ進んでいけるのでしょうか?」
あすか(優しく)
「どうか、あなたが信じる“人間の可能性”を教えてください。」
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トマス・モアの理想
モア(穏やかに、けれど熱を込めて)
「私は、信じています。
人は本来、共に生き、学び合い、育ち合う存在です。
ベーシックインカムは、“生きるための不安”を取り除き、
人が“学ぶ”“助け合う”“夢を語る”ための土台となるはずです。」
モア
「“労働”は義務ではなく、創造へと変わる。
“教育”は競争の手段ではなく、対話と啓発の場となる。
そんな社会が来るなら、私はその“人間”を誇りに思います。」
スミス(静かに)
「理想の高さは、あなたの美徳ですね、モア殿。」
モア(にこやかに)
「そして現実に引き戻してくれるのが、あなたの役目でしょう?」
(スタジオに柔らかな笑い)
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アダム・スミスの中庸
あすか
「では、アダム・スミスさん。あなたが見る“未来の人間像”とは?」
スミス(慎重に言葉を選ぶように)
「私は、モア殿の理想に一部賛同しつつも、こう申し上げたい。
人間とは、自己利益と共感を同時に持つ存在です。
つまり、未来社会でも、動機と責任は両輪であるべきです。」
スミス
「BIによって時間の余裕が生まれるなら、
人は、より深い“内的動機”に基づいた行動を選ぶようになるかもしれません。
それが“商い”であれ、“芸術”であれ、“奉仕”であれ。」
スミス
「私は、未来の人間に選択の自由と、そこに伴う“徳”を期待しています。」
あすか(うなずき)
「“自由の先にある徳”……それが、スミスさんの希望なんですね。」
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鄧小平の現実と希望
あすか
「では、鄧小平さん。
現実を見続けてきたあなたにとって、未来の人間とはどんな存在でしょうか?」
鄧(短く息を吐き)
「……私は、“人間性”を美化しない。
だが、“可能性”を信じてきた。」
鄧
「人は、食えなければ暴れ、
貧しければ腐る。
だが、環境と制度が整えば、努力する者が生まれる。
それを、私は数え切れぬほど見てきた。」
鄧(続けて)
「ベーシックインカムは、“希望の余白”を作る制度かもしれない。
だが、それだけでは足りない。
教育、文化、仕組み、それら全てがあって初めて、自立した市民が育つ。」
モア
「まるで……“育成の哲学”のようですね。」
鄧(静かに頷く)
「私が作りたかったのは、“指導者のいらない社会”です。」
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ニーチェ、静かな爆発
あすか(少し緊張して)
「では、最後に……フリードリヒ・ニーチェさん。
あなたにとって、未来の人間とは?」
(沈黙。ニーチェはしばらく俯いたまま、やがてゆっくり顔を上げる)
ニーチェ(低く、静かに)
「未来の人間は、“強さ”を失うだろう。」
(全員がニーチェを注視する)
ニーチェ
「ベーシックインカム。
それは“闘わずとも生きられる世界”だ。
だが、“闘わぬ人間”は、“成長しない”。」
モア(抗議のように)
「それは、人間を“苦しみ”の中に閉じ込める思想です。」
ニーチェ(目を細めて)
「違う。“超える苦しみ”がなければ、創造は起きない。
楽と安定だけを求めた先にあるのは、“退屈”と“依存”だ。」
ニーチェ
「私は、“超人”が生まれる社会を望む。
それは、“保障”ではなく、“空白”と“孤独”の中から生まれる。」
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感情の爆発ではなく、思想の深まり
スミス(ゆっくり)
「あなたは、常に孤高だ、ニーチェ殿。
しかし、それは“見捨てる哲学”ではない。」
ニーチェ(わずかに笑う)
「そうだ。“突き放す愛”だ。
すべての人間が“神に頼らず”生きられるように。」
(短い沈黙。誰もが、彼の言葉をかみしめている)
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あすかのまとめ
あすか(静かに口を開く)
「“未来の人間像”は、きっとひとつではない。
でも、皆さんの言葉の中に、共通していたものがあった気がします。」
あすか(ゆっくり言葉を紡ぐ)
「それは、“人間には可能性がある”という信念です。
それぞれの立場、経験、思想を通じて見えた“未来の人間”たちは、
私たち自身が、これから目指す姿でもあるのかもしれません。」
あすか(カメラ目線で、やわらかく)
「次はいよいよ、エンディング。
ここまでの対談を、あすかと一緒に振り返っていただきます。」
(照明がふわりと落ち、スクリーンに「エンディング」の文字)