ラウンド2:財源と労働意欲のジレンマ
(あすかが深めの呼吸をして、スタジオの照明がやや赤みを帯びる)
あすか(少し緊張感を帯びた声で)
「さあ、ラウンド2です。
テーマは——『財源と労働意欲のジレンマ』。
ベーシックインカムに対する最大の懸念とも言えるこの問題、
“誰が払うのか”“誰が働くのか”——現代人なら誰もが突き当たる問いです。」
あすか(静かに)
「どうか、正直に。そして……遠慮なく、お願いします。」
(間。空気が重たくなる)
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スミスの分析
スミス(冷静に語り始める)
「労働は、単なる金銭的報酬のためだけに行われるものではありません。
しかし、インセンティブの消失が社会に及ぼす影響は、想像以上に大きい。」
スミス
「人は、自らの労働で得た報酬に、正当性を感じます。
それが社会契約の基盤でもある。BIによってそれが崩れるなら——」
(指でテーブルを軽く叩き)
「人は、“自分だけ損をしている”という感覚に陥りやすくなります。」
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鄧の警告
鄧(即座に)
「それが、国家の破綻に直結する。」
スミス(やや意外そうに)
「ほう。あなたもそう考えますか。」
鄧(頷き)
「私は財政における“持続可能性”を最も重視する。
BIは“永久機関”ではない。
一時的な余剰財源があるうちは可能かもしれない。
しかし、誰かが働き、税を払い、分配される。
その循環を止めた瞬間——制度は崩壊する。」
モア(感情を込めて)
「では、“貧しさを放置しろ”と?!」
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モアの怒り
モア(普段より声を強めて)
「私が見たのは、働きたくても働けない人々だ!
病を持つ者、子を抱える者、教育の機会を与えられなかった者……
彼らに“努力が足りない”と言うのは、傲慢ではないか?」
鄧(じっと見つめて)
「誰も“全て切り捨てろ”とは言っていない。」
モア(鋭く)
「あなたの言葉には、“淘汰”の匂いがある。」
(スタジオに緊張が走る)
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ニーチェ、爆発
ニーチェ(机に両手を置いて、ゆっくり立ち上がる)
「やっと火がついたな。」
あすか(少し構えた姿勢で)
「……ニーチェさん、どうぞ。」
ニーチェ(静かに、しかし鋭く)
「お前たちは“社会”のことばかり考えている。
だが私は、“人間”そのものを問題にしている。」
ニーチェ
「“労働の喜び”など、幻想だ。
多くの者は“奴隷のように働き”“権利を乞う乞食になる”。
ベーシックインカムは、その“乞食精神”を制度化する行為だ!」
モア(立ち上がる)
「言葉を選びなさい、フリードリヒ!」
ニーチェ(声を張る)
「いや、選ばぬ!この社会は弱者を守るふりをして、弱者に変えている!
BIは、“おまえは無力だ”と告げる制度だ!」
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あすか、割って入る
あすか(手を上げて)
「はいっ!一度、お水を飲みましょう!」
(数秒の沈黙。モアとニーチェが睨み合いながらも席に着き直す)
あすか(少し力を抜いて)
「……お二人とも、あれですね。“敬語”って概念を超えましたね。」
(会場から苦笑)
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スミスの中庸
スミス(静かに)
「私は、“分かち合い”を否定するわけではありません。
だが、それを“当然の権利”とした瞬間、
人はその有り難みも、自らの役割も見失う。」
スミス
「BIのような制度は、“土台”ではなく、
“橋”であるべきだ。人を助け、次の自立へ導く橋。
永久にそこに留まるものではない。」
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鄧の結論
鄧(静かに頷き)
「制度は、“使い方”がすべて。
万能薬ではない。」
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あすかのまとめ
あすか(ゆっくり)
「“支える”という言葉の重み、
それが“癒し”になるのか、“毒”になるのか。
それぞれの立場がはっきりと現れたラウンドでした。」
(全員の表情をカメラが順に追う。ニーチェは不敵に笑い、モアは険しいが沈黙。スミスはペンを回し、鄧は目を閉じる)
あすか(目線を上げて)
「次のラウンドでは、こう問いかけてみたいと思います。
“格差”という言葉に、あなたはどう向き合いますか?”
——Round 3、どうぞお楽しみに。」
(暗転。画面にRound 3の文字が浮かび上がる)