幻影のエデン
序章
「ねぇ、一空。天国ってどんなところだと思う?」
十年前、冬の終わり。
「んー、そうだね。片肌脱いだ天使が竪琴弾きながら泉で微笑んでる感じかな」
誰もいない放課後の教室で3週間ぶりに登校した幼馴染に僕は適当に答える。
「キリスト的だね。じゃあ、極楽って言ったら?」
「誘導質問だね。仏教的だろ。それこそ修学旅行の京都奈良をそのまんま絵に描いた感じじゃないか」
その時の僕には彼女がどんな想いでそれを聞いていたのかわからなかった。振り返ってみれば、わかっていたとしても何がどうなっていたわけでもない。
「やっぱり子どもだね、一空は。じゃあ、最後の質問……楽園って言ったら?」
唐突に彼女の表情が冷めた。合わせるように僕も冷淡に答える。
「……悪いけど、悪いイメージしかない。教えに背いたバカ2人のせいで子孫末代が苦しむことになる」
「……それな」
第一章 夢のまた夢
第二章 夢
第三章 現実
第四章 理想
終章
なぁ、玲良、聞こえるか。
いつの日か地球は空と大地だけが広がる死の星に変わってしまうかもしれない。
そしたらやがて太陽に飲み込まれ全て消え失せてしまうかもしれない。
でもな、玲良。こう考えてみないか。
この広い宇宙で何万年も経った先でまた新しい星が生命を宿すとしたら。
そいつらはもしかしたら俺たち人類よりもっと愚かな生き物でまた俺たち人類よりもっと悪い末路を辿るかもしれない。
お前があの日、描いたエデンは決して届かない幻影なのかもしれない。
でも、そんなことをまた何万回何億回でも繰り返した先できっと……なんて言えばいいかわからない。でも、お前ならわかってくれるよな。いつの日かきっと……全てが、光り輝く楽園がきっと……。
そうしたら俺は、輪廻の輪を何万回、何億周でもくぐり抜けた先で、またお前に巡り会いたい。
そうしたら俺はきっとお前に見せたことのないような、満面の笑顔でこう伝えるよ。
なんて?それは、その時に言うよ。