2話 異世界転生(和)
…小さい頃によく遊んでた公園が見える。
そこに、やたら黒い服装の少年がやってきた。当時の俺だ。ジャングルジムに登ったかと思えば、すぐに降りて、ブランコを漕ぎ出したかと思えばすぐに飛び降りる。友達もおらず、一人で何度も何度も。
今考えればただの子供のごっこ遊びだが、当時の俺にとっては真剣に忍者になるための修行だった。この時の忍者への憧れが未だに残っているのだ。この公園が原点と言っても過言ではない。
そして、少年が5回目にジャングルジムに登りかけたそのとき、公園に数人の子供たちがやってきた。
「忍者なんていねーんだぞー、なにやってんだよ、ばーか」
「あいつ、頭おかしくねぇ?」
「俺たちの公園勝手に使いやがって、退治してやろうぜ」
子供たちは口々にそう言うと、少年に石やら木の棒やらを投げ始める。普通にいじめられているだけだが、この頃の俺は、むしろ忍者修行にうってつけだと、投げられた物を避ける練習をしていた。…とはいえ、そんなもの上手くいくはずもなく、毎回ボコボコにされて家に帰っていた。
当時の俺は、なんて馬鹿なんだろう、と思う。思うが、後悔はしていない。もしもう一度生まれ変わっても、俺はまた忍者に憧れて、忍者を目指すんだろう。
気づけば公園は薄暗く、時計を見ると5時半を過ぎている。
「ちぇ、アイツ全然泣かねえし、もう帰ろーぜ」
「もうこの公園、来んじゃねーぞ!」
「とにかく、忍者はいないんだよ、ばーか」
そう言うと、子供たちは去っていく。ボロボロの少年を残して。
「……それでも、忍者はいるんだ。みんな知らないだけなんだ」
そうだ、いつも、いつも、口にしていた。…それでも、、
「あうあう、あうあああうああー!!(それでも、忍者になるんだ!!)」
「あら、どうしたのかしら、この子ったら、急に大きな声を出して」
…………え、どーゆーことですの?さっきまで懐かしの公園を見ていたはずが、小汚いあばら屋みたいなところで、長く、黒い髪の美人な女性に抱かれてる……?
?抱かれているって…この人巨人かなんかか?俺身長175は超えてたけど。
……あ、いや俺がちっちぇんだコレ。手足が短いし、なんかむちむちしてる。ひょっとして今の俺は赤ん坊…?
「あう、あううぅー(いや、どゆことぉ)」
状況把握はできたが、状況に納得できん。把握損じゃん。
「どうしたの、なにかあったの、一之介?お腹すいた?」
んーーーー、状況から考えるに、この和服美人が今の俺の母親?生まれ変わったとかそーゆーことなんかなぁ…。で、イチノスケ?これ今世の俺の名前?
「今日のご飯はもう食べたでしょ?食いしん坊なんだから…んーでも可愛いから許しちゃう!」
「あうあううー(別にお腹すいてないよ)」
「ほら、おかゆ、食べる?」
いや当たり前だけど会話通じねー。こんな美人な親なら普通に嬉しいけどな。あと、さっきから薄々気づいてるけど……めっちゃ貧乏じゃね?今世の俺。
この家?はめっちゃボロくて雨漏りとか余裕でしてそう。あと、父親いなくね?まだ赤ん坊だからか、視界ボヤけてるけど、このボロ家に俺と母親以外の人間がいる感じがしない。
いや、死んだのか、今世の父親?状況から察するに死んでてもおかしくなさそうだし…てか、もし生きてたとして、こんなセキュリティガバッガバなボロ家にこんな美人と赤ん坊1人残して行くとか前世じゃありえんな。とりあえず、死んでる想定で…
「……………」
いや、いらないよ、おかゆ?あーんされても、お腹空いてないもんは空いてないんじゃ!食べない食べない。
「……………」
圧がすごい…。……食べますよ、食べます。一口ぐらいならまあ別に食べるよ。
ぱくっ
「…んふふ、おいしい??」
そうこうしてるうちに、眠くなってきた。寝て起きたら夢だった可能性もあるしなぁー、いやむしと夢でないと困る。ね…む……
「ぅあー、ぅあぁあー(んー、よく寝たー)」
知らない天井だ。あっあそこひび入ってる。…やっぱ赤ん坊だし、ボロ家だわ。
「おはよう、一之介、気持ちよさそうに寝てたわね」
そして、母は相変わらず美人だ。と、なんか男いない?
「父上も帰ってきたのよ、ほら」
そう言って、俺を男の方に抱えさせる。お、おぉー…割とってか、そこそこイケメンだ。これは今世の俺の顔期待できるな…って父生きてたんかい。まだ今世の生活水準わかってないから、ただ責めることはできんけども、ボロ家に妻と息子放置はないだろー。
「あうあああうあうああー、ああーあー(その辺ちゃんとしとけよ、父上さんよ)
「おうおう、どうした、一之助、父上に会えて嬉しいかぁー?」
ダメだ、やっぱ通じねー。話してる言葉日本語っぽいし、ちゃんと話す練習したらすぐ話せるようになりそうだけどな。あと、ここはやっぱり昔の日本ってことでいいのかね?父上、母上どっちも和服だし、ボロめのだけど。あと、このあばら屋もどことなく建築様式が和風な感じする。ボロいし詳しくないから分からんけどな?
ダメだ、やっぱ分からんことが多すぎる。とりあえず寝るしかねえな、赤ん坊の仕事って言うし。
そんなこんなで、寝て、起きて水飲んで、たまにおかゆ食べて、また寝て、を繰り返して半年ほど経った。
俺は少しずつ、喋れるようになってきている。まだ歩けはしないがハイハイになら自信があるぞ。…30過ぎのおっさんが何言ってんだって話だが…
この半年ほどで分かったこととして、まずここは昔の日本どころか、元の世界じゃない。そう考えた理由としては水を飲むとき、どっかから井戸水でも汲んでくるもんだと思っていたが、なんと母上の手に小さめの魔法陣?が出たかと思えば、そこから水が出てきたのだ。
そう、この世界には魔法らしきものがあるのだ。だから、これはいわゆる、ラノベとかによくある、異世界転生という奴だと予想している。
それから、今俺がいる場所について、どうやらヤマト、と言う国にいるらしい。詳細はまだわかっていないが、相当、昔の日本に近い文化のようだ。
父上は刀っぽい武器を持っていたし、この家の屋根にも、申し訳程度に瓦が敷いてあるらしい。3分の1くらいは雨風で吹き飛ばされてるそうだが…ちなみに、家の中には囲炉裏と人数分の布団、1人2着の和服、ちょっとした調理道具、あとは父の刀と薪割り用の斧くらいしかなく、大体全部ボロい。大体、というのは刀に関しては父が結構時間かけて手入れしてるみたいで、いつ見てもすごく切れ味が良さそうなのだ。
あともう1つ、母上はかなり体が弱いようだ。これは最初からそんな感じがしてたが、よく咳をしているし、家から外に出たところはほとんど見たことがないくらいだ。ただ、掃除をはじめとした、家事はすごくちゃんとしていて、この家はボロボロだが、全く汚くはない。そして、母上が作るおかゆはうまい。
「じゃー、行ってくる」
っと、父上が今日もまた出かけるようだ。父上は毎日のように刀を片手に狩りかなんかに行って食料を調達してくる。米を持ってくるときもあれば、兎っぽい小動物を狩ってくることもあり、それが、我が家の食事になる。
「はい、どうか、ご無事に」
毎回母上はこう言って父上を送り出す。正座した状態で頭を下げ、家の扉が閉まるまでそうしている。いわゆる、土下座まんまなのだが、母上のそれはどこか上品で、もはや土下座と言うより、超丁寧なお辞儀だ。
あくまで俺の予想だが、父上はともかく、母上は、どこか、貴族かなんかの上の身分出身なんじゃないだろうか?溢れ出る高貴な感じというかお金持ち感が前世合わせてどの人よりもすごい。まーとにかく上品で、どの所作をとっても儚さと美しさがある。
かと言って父上も粗暴なわけではなく、いつも家族のためを思って生きているのは伝わってくるし、少し不器用だけれどめっちゃ優しい。男気溢れる素晴らしい父だ。あと、母上から聞いたところによると、ものすごく強いらしい。
まだ両親ともに謎は多いけれど、このたった半年で、もう自慢の親だ。
…とかなんとか偉そうなことを言っているが、俺はまだ寝て、起きて、たまに食って、また寝て、しかできない、32歳児なのだ。今日も今日とて、恐らく俺より年下であろう母を尻目に眠りにつく。
そうして、俺は4歳になった。喋る練習、歩く練習をしてたら本当にあっという間だった。もうドロドロのご飯は卒業して、今は父上や母上と同じ、肉とか米とかを食べている。
また、生まれて半年だったあの頃と変わったことととして、母上が妊娠したのだ。俺は大体の時間寝てたから、まー俺が寝てる間に子作りをしていたんだろう。…そんなこと4歳児が考えるべきじゃない気がして、なんかいけないことをしてるみたいだ。なんというか複雑な気持ちだが、前世は一人っ子だったから、弟か、妹ができるのは素直にとても嬉しい。
そして、当たり前と言ったらまあ当たり前のことだが、母上が妊娠してから、あまり体調が良くない様子だ。父上も外へ出て働いてるから仕方ないことだが、家事全般が母上の仕事となってしまっていて、どうしても負担が大きい。
煙玉(1玉/3800円)
古くから多くの忍が愛用してきた、お手軽アイテム。これがあれば、無駄に体力を消費せずとも、簡単に相手から見えないようにできる。…ただ、現代においては、煙によって火災報知器が鳴ってしまったり、変装技術が向上したりしていて、煙玉を使って瞬時に姿を隠さねばならない、という場面は少ない。そのため、今では、まだ、特殊な歩法や、特異な身体能力を有していない、下の下忍が使うような初心者装備である。とは言え、なんらかのアクシデントで、体力が異常に奪われた場合など、緊急時を想定して常に持ち歩く上忍も少なくない。もしもの事態を想定して、1つ2つほど、持っておいてはいかがだろうか。