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元ライバルを娶る話  作者: 鴨カモミール
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 その後は微妙な空気のなか、サーカスを鑑賞した。

 様々な曲芸が披露され、カイウェルの幼い娘が目をキラキラさせて興奮気味にそのショーに釘付けになっている。

 それはルカや、娘の世話役も同じだった。

 仕事を少しだけ忘れて夢中になっている。

 演目が進み、今度は露出の高い衣装を着た絶世の美女が手で来た。

 観客たちがどよめく中、エルだけがそこで初めて笑みを見せた。

 ジンは、その様子を横目で見て、先程の口論が嘘だったかのように感じてしまう。


『さぁ、お次はお客様にお手伝いをお願いしたいと思います!

 だれか、協力してくれる方は居られますか?』


 どうやら次は客も参加できる演目らしい。

 司会が高らかに宣言する。

 すると、我先にと手を上げるちみっ子たち。

 その中で、モジモジとしているカイウェルの娘。

 目がいいのだろうか、司会が真っ直ぐにその娘を捉えた。


『はい、それじゃそこの、ピンクの可愛らしいドレスを来たレディ、そしてその横の紳士がお父様かな?

 舞台へどうぞ!』


 すぐに指定の場所にサーカスの団員がやってくる。

 カイウェルとその娘を伴って、ステージに案内する。

 二人は戸惑いつつも、指示に従って舞台へ上がる。


『はい、小さなレディ?

 レディは、今日どこから来たのかな?』


 緊張を和らげるように、司会がカイウェルの娘に質問をする。

 モジモジと恥ずかしそうにする娘へ、カイウェルが耳打ちした。

 たどたどしく、王都から来たのだと娘が言うと、司会はニッコリと笑い、


『どうやって来たんですか?』


 とても丁寧に尋ねる。

 娘が、『お馬さんで』と答える。

 そんな当たり障りのない会話が繰り広げられる。


『さて、レディ。

 レディは、ドラゴンさんは好きかな?

 あ、ちょっと怖いか。

 そうだよね。

 でもね、これからここにドラゴンさんが出てくるんだけど、そのドラゴンさんはとても優しい子なんだ。

 そして、人間が大好き。

 とくに人間からごはんを貰うのが大好きなんだ。

 レディには、そのドラゴンさんにごはんをあげてもらいたいんだけど、出来るかな?』


 恥ずかしそうに、それでも、こくんと娘は頷いてみせた。

 ドラゴンと聞いて、カイウェルが大丈夫だろうか、と心配そうな表情をみせた。

 戦場で何度か見た事のある勇ましさは、欠けらも無い。

 あるのは、娘の安全を気にするただの父親だ。

 それがなんだか新鮮で、ジンもだがエルも微笑んだ。

 そのエルの表情が、次の瞬間には引き攣ることになった。

 ドラゴンが舞台に登場した。

 檻に入っていた、あのドラゴンである。

 ドラゴンを従えている者がいた。

 豊満な体を、ピッチリとした衣装に包んだ、絶世の美女である。

 引きつった笑顔をなんとか元に戻して、エルはちらりと横を見た。

 そこには、美女に釘付けになっているジンの姿があった。


(ほら、言わんこっちゃない)


 その頬が、美女の衣装もあってか赤く染まっている。

 エルは内心で、人のこと言えないじゃないかと毒づいた。

 今度は反対を見る、ルカが座っている。

 ルカも、美女に釘付けになっていた。

 美女に視線が釘付けになっているのは、ジンとルカ、二人だけでは無かった。

 カイウェルもそうだったし、その娘もぽぉっと美女に見蕩れている。

 美女は妖艶な、しかし決して()()()()()()()笑みを浮かべると、恭しくカイウェルとその娘に頭をさげる。

 そして、ドラゴンにぽんぽんと触れる。

 すると、ドラゴンも行儀よく頭を下げた。

 その光景に、カイウェルが驚いているのが、遠目にもわかった。

 一般的にドラゴンのイメージといえば、町や村を襲って多大な被害を及ぼすといったところだろうか。

 場合によっては火を吐く種類もいる。

 そして、獰猛。

 だからこそ、こうやって飼育されているという点でかなり珍しいと言える。

 しかも、大人しく美女の言うことをきいているという現実。


(また新しい能力手に入れてるし)


 エルはただただ呆れるしかない。

 能力だけなら、エルもあの美女に負けていない。

 それどころか勝っている。

 そうこうしている間に、ドラゴンに食べさせるごはんが用意される。

 生肉かなと思いきや、特大のカボチャだった。


「凄く大きな野菜ですね」


 ルカが呟く。

 言外に、あんなの誰が食べるんだろうと含まれている。

 エルが説明した。


「巨人族用の品種だよ。

 普通の野菜でもある程度は大きくなるんだけど、そういうのはあんまり美味しくないんだよねぇ。

 あのカボチャは品種改良されてるから、ホクホクで美味しいやつだよ。

 ただ、普通の包丁だと処理出来なくて、冒険者が愛用してる超巨大な両手剣あるでしょ?

 あれで切るの。

 もしくは、巨人族用の包丁でね」


「へぇ」


 ルカが興味深く、エルの説明を聞く。


「実家でも作ってるし、今度種でも送ってもらおうかな」


「えぇ!?

 いやいや、ダメですよ!」


「まだまだ庭は広いから行けるよ。

 もう少ししたら枝豆も植えるし」


「あんなに重たそうなもの、男手がどれだけいると思っているんですか?!」


「え、別に当てにしてないよ」


「え?」


「ん?」


「いや、あの私は無理ですよ?」


「うん、ルカだと腕とか肩とか腰やっちゃいそうだもんね。

 大丈夫、適材適所ってやつだから。

 私がちゃんと責任もって調理するから」


「いえ、そういうことではなくてですね」


 どう説得しようか、とルカが困っているうちに、カボチャが美女によって捌かれてしまう。

 捌いた獲物は、今しがたエルが説明した冒険者が愛用している超巨大な両手剣だ。

 まるで舞でも舞うかのように鮮やかに両手剣を振るって、切り分けてしまう。

 幼女でももてるように、いくつかは小さく切り分けていた。

 その一つを、カイウェルの娘に渡す。

 ドラゴンは穏やかな目で、それを見つめている。

 娘は、怖々、それをドラゴンへと差し出す。

 カイウェルが一気に緊張し、警戒する。

 ドラゴンはといえば、すんすんとカボチャの匂いを嗅いで、頭を舞台につけ、パカッと口を開いた。

 美女に促され、娘がぽんっとドラゴンの口の中へ、カボチャを投げいれる。

 それを美味しそうに飲み込むドラゴン。

 そして、拍手。

 しかし、ショーはこれだけでは終わらない。

 ドラゴンが、ご飯のお礼にと二人を背負ってちょこっと歩くというオマケ付きだった。

 終わる頃には盛大な拍手に会場は包まれた。


 ふと、エルはジンを見た。

 彼はなにやら真剣な表情で考え事をしているようだった。

 ホテルに向かう馬車の中でも、その表情は変わることはなかった。

 時折、何かをエルに言おうとするが直ぐにそれをやめてしまう。


「…………」


 エルは、それを察していたがあえて聞くのを避けた。

 やはりまだ、気まずかった。

 さて、その空気を察して一計を案じる者がいた。

 ルカである。

 せっかくの旅行なのだ。

 どうせなら、主人二人には楽しんでもらいたいというのがこの侍女の願いだった。

 そして、出来るなら、条件は揃っているわけだし、さらに仲良くなってもらいたいという下世話な考えもあった。


「そういえば、サーカスでジュースを奢ってくれた方は、エル様のお知り合いの方だったんですか?」


 話題を変えるために、ルカはそうと知らず爆弾を投げ込んだ。


「んー。まぁ」


 エルは、ジンの手前答えを濁す。

 見るからにジンの機嫌がまた下がっていくのがわかったからだ。

 しかし結局、気まずいまま、宿泊予定のホテルに到着した。

 お忍びということと、いろいろ考えた結果グレードはそんなに高くないホテルだ。

 そう、この宿。

 お忍びで利用する要人がそれなりにいるのだ。

 というのも、戦時下においてもここは中立都市の管理下にあった。

 その関係で敵味方の王族、将軍等の要人が予てから利用していたことで一部では有名なのである。

 そのことがきっかけで、禁断の恋に落ちてしまう敵同士の姫君と騎士がいたとか。

 その話は、戯曲になり王都でも人気である。

 何を隠そう、このホテルはそう言った意味で一部ではとても有名だった。

 そして、このホテルを滞在先にと推したのは他ならないエルである。

 たしかに、グレード的に警備の点で不安要素は残るためカイウェルを初めとした側近たちに最初は反対された。

 だが、エルは押し通した。

 なぜなら、戯曲の舞台になった場所を見たかったからである。

 そのため、死んでもジンのことは守る。

 むしろ、その方が都合のいい人がいるのも事実だろ、と啖呵を切る始末であった。

 ジンに聞かれたらマズイので、側近一同とエルはこのことを秘密にしているが。

 というか、戦場で対峙したことのある側近たちは、彼女の本気度わかった。

 気圧されたとも言う。

 そんな経緯があり、このホテルが選ばれたのだった。

 部屋に案内される。

 カイウェル1家とは別だ。

 大浴場もあるが、部屋には源泉掛け流しの湯が用意されているらしい。

 少しお茶などを飲んでのんびりした後、とりあえず大浴場にそれぞれ赴き、汗を流す。

 その後、夕食である。

 食事は、食堂でビュッフェ形式だ。

 部屋でも食べられるが、せっかくなのだし、そもそも他の客がいるところで襲撃してくる暗殺者もいないだろうという考えで、こちらを選んだ。


「凄い、本当に生の魚だ」


 このホテルを選んだ理由は、他にもあった。

 ホテル自体のグレードは高くないが、食事のグレードが高いのだ。

 それと言うのも、エルの実家のある邪神大陸。

 そちらの農業ギルドと提携しているのである。

 なので、こちらではお目にかかれない、しかし美味な高級食材が料理にふんだんに使われているのである。

 ちなみに、魚は漁業ギルドの管轄だが保存魔法等、技術のノウハウを提供すると言う形で農業ギルドが間に入っている。


「おい、そんなもの食べるのか?

 腹を壊すだろ」


 嬉々として更に生魚の切り身料理、刺身を取り分けていくエルにジンが声をかけた。

 ルカと、カイウェル達もドン引きしている。


「平気ですよ。事前に資料を取り寄せて確認しましたけど、温度管理等処理はばっちりですもん。

 ちゃんと食べられるヤツです。

 安全は保証されてますよ。

 あ、魚卵だー。これライスに乗っけても美味しいですけど、こっちのクラッカーにチーズと一緒に乗せて食べても美味しいですよ。

 オシャレですねー。さすがホテル」


 赤い、宝石を思わせる魚の卵。

 イクラだ。

 それを深めの小皿にこんもりと盛り付ける。

 その様子に、さすがのカイウェルも声をかけた。


「ジンになんつーもん食べさせようとしてるんだ」


「だから大丈夫ですって。

 腹痛を起こす原因の一つ、寄生虫は一定の温度と時間で保存すると死んじゃうんです。

 それ以外の衛生上の面もクリアしていることは確認済みですし。

 あ、アルコールもある!

 うわぁ、清酒だ!

 わかってるなぁ、このホテル」


 答えつつ、目に入ったのはアルコールを提供するコーナーだった。

 スタッフに注文すると、カクテル等も作ってくれるようだ。


「ルカ!これ、テーブルにお願い!

 ジンさん、お酒飲みますよね?!

 ね?!

 私は熱燗で、やるので!!

 これは、是非飲んでください!」


「え、あ、おい!」


 ジンが止める間もなく、


「あ、それとも麦酒が良いですか?

 もしくは葡萄酒??」


「お前、アルコール飲めたのか」


 エルの質問に答えず、ジンはそんなことを呟いた。


「覚えたのは、こっちに来てからですね。

 それまでは、実家で田植えの時にお酌して付き合いで口にする程度でした」


「田植え?」


 意味不明な説明に、ジンは首を傾げた。

 しかし、それ以上エルは語らなかった。

 スタッフに酒の銘柄などを聞き、真剣な表情で選んでいる。


「ジンさん、カクテルとかジュースっぽい味が好きですよねぇ。

 なら、カルーアミルクと。

 私は【神殺し】の熱燗でおねがいします!」


 ちなみにルカは最初から飲まないと聞いているので、カイウェルの娘やその世話係と同じ、ミネラルウォーターかジュースの予定だ。

 スタッフに頼むと、スタッフは横にいるジンを見て、背後で様子を伺っているカイウェルを見て、それからもう一度エルを見て、念の為にと言うふうに聞いてきた。


「お客様、【神殺し】は、その、だいぶ強いのですが大丈夫ですか?」


 少なくとも、エルのような十代の女の子が飲むのは珍しい。

 なので、注意喚起も兼ねての確認だった。


「大丈夫です!

 それを作ってる酒蔵、親戚なので!」


 エルが元気よく答えた。

 個人情報の漏洩もいいところだ。


「親戚なのか」


「親戚の作ってる酒を海を渡ってまで飲むのか」


 ジンとカイウェルは呆れている。


「故郷の味ですよ。逆に口にしたいものの一つです」


 一方、スタッフはと言えば目を丸くしている。

 それから、笑顔になり、提供してくれた。

 そして、それ以上は何も聞かないでくれた。

 ただスタッフは、保護者かなにかだと思ったジンとカイウェルに、


「お嬢様ですが、その、飲酒後は入浴を控えるよう、気をつけてください」


 と注意を促していた。

 疑問符を浮かべる二人に、さらに続ける。


「以前、農業ギルドとの提携の関係でお嬢様の親戚の方々と顔を合わせたことがあるのですが、いえ、ほとんどの方は大丈夫でしたが、その、やはり何人かは気分の良いまま入浴されて、大浴場、あるいは浴室で倒れるということがあったので」


出来上がった酒をテーブルに運ぶエルの後ろ姿を、二人は目で追う。

二人は知らなかったのだ。

彼女が、いわゆる、ウワバミであるということを。

彼女だけでなく、家族、はてはその親戚まで基本的に酒に強い一族であることを。

そして、その中にあって入浴後に倒れたのは、嫁、あるいは婿に来た人物たちだったりしたのである。


そのため、席に着くとカイウェルが釘を刺してきた。


「おい、仕事を忘れるなよ」


「大丈夫ですよ。

この一杯だけです。

私もさすがに、好きなもので身を滅ぼしたくありませんから」


その証拠にほら、とエルはミネラルウォーターの入ったカップを見せてきた。


「チェイサーの用意は基本中の基本です」


エルのドヤ顔に、いつもと違う意味でカイウェルはイラついた。

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