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第2話 僕と彼女と彼女の物理的距離

 朝のホームルームの終わりを告げるチャイムがなり教室は瞬く間に喧騒に包まれる。


 速やかに教室を移動する者。

 友人と会話に花を咲かせる者。

 僅か数分の中で他クラスまで遊びに出かける者。


 そして、僕は窓を眺めていた。

 あ、小さくて真っ白な二羽の鳥が楽しそうに空を飛んでいる。あっちは鳩が。こっちにはカラスが!


 僕も鳥になって空を自由に羽ばたきたいなぁ。


 羽、羽が欲しい。

 そうすれば僕はこの居心地の悪い空間から飛び立つことが出来るのにっ……!


 どうして。僕は忘れていたのだろう。

 彼女を好きになるきっかけはここから始まっていたというのに。


 隣の席の暁さんは人一人通れる机と机の間隔を更にもう一人分開けて、僕の事を親の仇を見るような目で睨みつけていた。暁さんに席を寄せられたクラスメイトの男子はどうにも落ち着かない様子だ。


 気まずい以外の何物でもない。

 こうなることが分かっていれば僕は手紙に自分の名前なんて書かなかった。


 ただ、今日が移動教室の授業が多い日だったことはせめてもの救いだった。


 けれど一限目は自教室での古典。

 生憎と席の移動はない。


 そもそもどうして彼女は僕を睨みつけてくるのだろうか。

 気まずくて目を逸らされるくらいは想定していたが、これは予想の斜め上を突っ切っている。


 すると、堅苦しい空気を壊すように始業開始のチャイムが鳴り古典の先生が教室に入ってきた。それに合わせて横からは『起立』と声が掛かり、廊下から慌てたように数人の男子たちが自席に戻る。横目でチラリと暁さんの顔を見ると彼女は普段と変わらない落ち着いた様子だった。


『礼』と声が欠けられ古典の授業は始まった。

 二限目以降は全て別教室ないし体育の授業のためここさえ乗り切れれば後は大丈夫......なはず!




 ☆彡




 皆さんこんにちは。

 私の名前は暁 春(あかつき はる)と言います。

 身長の低いことがコンプレックスなごくごく普通な高校生です。

 仲のいい友人はわたしの事を『委員長』だったり、苗字と名前の二文字を取って『あかはる』だなんて呼び方をする人もいます。


 そして、この度。私はとある男子からラブレターらしきものを貰いました。

 高校に入学してから早二か月。

 不安や期待が入り混じった二か月でしたが私の人生にも遂に春がやってくるかもしれない。そう思えたのは下駄箱で手紙を見つけたその一瞬だけでした。


 それは今朝の事です。

 小学校からの幼馴染、志道 舞花。通称ゲb......舞花ちゃんと二人仲良く登校していた時に起こりました。


 私が通う立仙高校は校内を指定されたサンダルで過ごすことを義務づけられています。

 私はいつもと同じように下駄箱のロッカーを開け、自分のサンダルを取り出そうとしました。すると同時に足元にひらひらと落ちる何か。紙かと思って持ち上げたそれは小綺麗な便箋でした。裏面には暁さんへと書かれており、それがラブレターということは一目瞭然でした。


 幼馴染が隣にいることを忘れ、中の手紙を取り出すと『放課後屋上に来てほしい』という文面と差出人と思われる名前が書かれていました。

 梨彗 逢斗(りすい あいと)君。

 隣の席の男子で『梨彗』という珍しい苗字が特徴的な男の子です。

 高校生になって初の席替えで隣の席になり、物腰が柔らかく草食系だと思っていましたが意外ですっ......!


「なになにー。春ちゃんラブレター貰っちゃったの?」

「ひゃっ!」


 ひょっこり顔をだしてきた舞花に驚いて、思わず手紙が落ちてしまった。


 周りの視線が恥ずかしい。

 床に落ちた便箋と手紙を急いで拾い視線から逃げるように舞花の背に隠れる。


「ちょっといきなりやめてよっ」

「今の可愛い声最高だったよ」

「ちょっとは反省してよ!」


 悪びれる様子のない幼馴染の肩を少し強めに叩く。

 軽い謝罪とともに「もうやらないから」と嘘丸出しの謝罪が飛んできた。

 今日という今日は許さない! 

 教室に戻って説教だ! と息巻いているときだった。


「ん? 春ちゃん何か落ちたよ」

「え、あ。ほんとだ。なんだろう」


 落ちたのは一枚の紙? いや写真だろうか?

 手紙のほかにもう一枚同封されていたみたいだ。


 手に取ってみると背筋がゾッと寒くなった。


「あ、これ懐かしいね。たしか五年前くら......ッ!?」

「だめ。それ以上言ったら私も怒るよ」


 口を塞がれた舞花がこくこくと頭を上下に振る。


 どうしてこの写真がここに......。


「でもこれだとラブレターの可能性は薄くなったよね」


 口が自由になった舞花の口からそんな言葉が漏れ出た。


「どう言うこと?」

「だってさ『屋上に来てほしい』って言葉と、春ちゃんのアレな写真でしょ? 秘密をばらされたくなければ屋上に来い。さもないとこの写真を皆にばら撒くぞーーって解釈できない?」

「ーーー!」


 え、え? つまり......えぇぇっ! 

 頭の中で舞花にも言えないようなピンク色の妄想が膨らんでしまった。

 顔が熱い。絶対顔真っ赤になってる!


「むふふ」

「ちょっ舞花。今は顔見ちゃダメ! やめて。だめだから!」

「昔の春ちゃんも可愛いくて好きだけど、今の春ちゃんはもっともっと可愛くて好き~」

「舞花ここ学校! 恥ずかしいから抱き着かないで!」

「いい匂い~」

「~~~!」


 恥ずかしさで頭が真っ白になった私は胸も身長も一回り大きい舞花に、何もできないので気が済むまで匂いを嗅がれ続けるのだった。


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