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二人の行方

 二階まで降りると、ここまでとは違い大型の魚が目立つようになる。どうやら海外に生息する生き物たちのフロアのようだ。


 色々と水槽を見ていると、なんだか黒っぽい魚とグレー寄りのこれまた黒っぽい魚が同じ水槽でわちゃわちゃしているのを見つけた。どう考えてもこいつらは美味しそうではない。


 なんだろう。色も地味で目立った特徴もほとんどなさそうなのが、むしろ親近感をわかせてくれる。もうこいつ俺なんじゃね? 俺の前世じゃね? とか思うレベルだった。


「あそこにいるの、陽斗くんに似てるね」


 隣にいた加納がそう言った。もうこの時点で、次には悪口を言うんだろうなぁと分かってしまう。なんだよこの悲しすぎる未来予知。


「ちなみにどの魚ですか……」


「アレだよー、あそこにいるネズミ!」


「……魚じゃねえのかよ」


 まさかのネズミ。てかなんでネズミがいるんだよ。ここ水族館ですよね?


 加納の視線の先には確かにネズミの展示ブースがある。


 近寄って確認すると、ケースの中で小さなネズミたちがじゃれ合っていた。


「小さくて可愛い……。転んだりひっくり返ったりしてるのが陽斗くんの人生みたいっ」


「はははっ、お前にしては珍しく誉め言葉じゃねえか。こいつら転ぶたびに起き上がってるからな。つまり俺の折れない心と一緒ってことだ!」


「ああはいはい。そうですね」


「…………」


 おい急に興味失くすなよ……。テンション高めに返事した俺がバカ見てえじゃねえか……。お前から振ってきた話題だろうが。


 ちょっと落ち込んでいると、鳴海がこっちにやってきた。


「でも、本当に可愛いね。ハムスターとか、飼ってみたいなぁ」


 そう言うと鳴海はガラスの向こう側にいるネズミたちをじーっと眺めていた。ハムスターとか好きなんですね、鳴海さん。小さくてかわいいよな。なんかちょっと分かるかも。


「すごーくちっこいところが、柳津くんの器の大きさみたいで……」


「おい」


「ふふっ……冗談だよっ」


 いや……、冗談とか言われても。普通に凹むんだよなぁ。


 このネズミと同じって……俺の器の大きさ小さすぎでしょ。こんなに小さかったら今頃加納はこの世にいないよ?


 珍しく冗談を言う鳴海に、俺は引きつった愛想笑いを浮かべる。すると、そんな様子を見ていた加納が一人隅の方でゲラゲラ笑っていた。……こいつ、マジでネズミの餌にしてやりたい。


 ――まぁいい。気を取り直して、次のエリアへと向かうことにする。


 最終フロアである一階まで降りてきた。順路通り適当に歩いていると、魚たちにエサやりができる体験コーナーを見つけた。


 子供たちが魚たちに向かって餌を投げる。すると魚たちはパクパクとエサに向かって口を開き、それを見て子供たちは爆笑。また餌を投げて……という構図。まあ魚の顔ってアホみたいで面白いもんね。顔を見て爆笑するとかあいつらドSかよ。


「陽斗くんがいっぱいいるね」


「いないね」


 つまらんボケはさっさと流す。まあ面白ければいいってわけじゃないんですけど。


 エサやりに興味があるお年頃でもないので適当にフロアを三人で見て回る。カメやらアシカやらカピバラやらを見て「おー」とか言うこと数分。――ふと、気付いた。



「あれ、あいつらは……?」



 近くには加納と鳴海しかいない。犬山と小牧の姿が無かった。


 二階で水槽を見ていた頃までは一緒に行動していたと思うのだが……。



 まさか。



 おっと、これはアレですか。もしかしなくてもアレですか?



「ホントだね。陽菜ちゃんたちどこ行ったんだろう……?」


 鳴海が心配そうな声を上げる。加納も首をかしげて辺りを見渡している。が、俺の方はというとむしろ気分が高まっていた。これはアレですよお二人さん。分かるでしょ。ヒントは団体行動から忽然と姿を消す男女。そして仄暗い水族館の雰囲気である。ちなみに答えは恥ずかしくて言えない。


「どうしたの柳津くん、変な顔して?」


「え、あ、いや、何でもねえよ……」


 いやまぁ、さすがにそんな展開は無いと思うが……。我ながらおっさんみたいな妄想をしてしまった。


「違うわ、莉緒ちゃん。陽斗くんは常にこんな顔だから」


「あー、そっか」


 なんか失礼な会話をしている二人は尻目に、元来た道の方に視線を向ける。


 少なくとも俺たちより先へは行っていないはずだ。きっと遅れて来ているだけだろう。


「俺、ちょっと見てくるわ。お前らはここで待っててくれ」


「そう? 分かったわ」


 二人にそう告げ、元来た道へと戻る。


 休日で客の数は多いが、人探しができないほどじゃない。


 一階のフロアをとりあえずくまなく探していく。俺たちが立ち寄っていない展示コーナーまで、一通りを見て回った。


 が、二人の姿は見つからない。


 一階の展示スペースは決して広くない。探しているのが俺一人とはいえ、もし二人がいるのだとしたら何回かすれ違っていなければおかしいはずだ。


 結局何分か探してみたが、やはりそれらしき姿はない。


「いねぇな……」


 これは本当にアレだろうか。もしかして本当におっさん歓喜の展開が待ち受けているのだろうか。

 恋愛相談部としてその展開を歓迎しないわけでもないが、あそこまでピュアピュアだった二人が突然『禁則事項』的なことをするのはちょっと如何なものだろう……。


 まあ、だとしても二人は付き合っているわけで……。たとえ二人が『禁足事項』的なことをしていたとしても俺には止める資格なんてないわけだから――


「――柳津くん……!」


 そんなことを考えていた時だった。


「え、鳴海? なんでここに……」


 声がする方を振り返ると、息を切らした様子の鳴海がいた。


 なんだか慌てた様子である。


「どうしたんだよ。そんな慌てて」


「あ、ううん……。いやっ、違くて……。ちょっと気になることが」


「気になること?」


「あ、いや、違うよっ。そうじゃなくて……」


 胸に手を当て、軽く深呼吸をする鳴海。やはりどこか焦っている様子だ。


 よく分からんが彼女の言葉を待つ。息を整えてから鳴海が口を開いた。


「あれだよ? 柳津くんの帰りが遅いから、ちょっと様子を見に来ただけだよ……?」


「そ、そんなことでか?」


 いくらなんでも心配し過ぎではなかろうか。


「柳津くん……、知らないおじさんとかに連れていかれてないかな、って」


「俺は子供か……」


 てか心配されてんの犬山たちじゃなくて俺かよ。おかしいだろ……。


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