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ファッションセンス

ドキドキダブルデート編に突入。

 翌日。土曜日の朝。


 先日から雨や雪を願っていた天気の方だが、窓を開けて空を見ると気持ちいいくらい青々とした空が広がっていた。


「マジかよ……」


 空を見上げて呟く。


 陽の光が差す夏の朝。程よく暖かい風が吹き抜ける。絶好のデート日和と言っても過言ではない空模様。


 対して、俺の心の天気は土砂降りだ。たぶん雷とかも落ちまくっている。


 こんなに、天気と自分の気持ちがマッチしない日は生まれて初めてかもしれない。


「…………行くしかねえのか」


 正直、微塵たりとも行きたくないデートだが、部活動としての側面がある以上サボるわけにもいかない。


 時計を見ると、少々急がねばならない時間。


 クローゼットから適当にシャツとズボンを取り出して着替える。洗面台で顔を洗って適当に寝癖を直したところでリビングへと降りた。


 部屋に入ると、コーヒーの香りが鼻腔を刺激する。


 誰かいるのか。


「……ん、遥香?」


 見れば我が妹である遥香がソファに座ってコーヒーを啜っていた。


 普段俺がこんな時間に起きているはずもないので、早起きである遥香のモーニングルーティーンを見るのは久しぶりだ。


「おはよう」


「…………」


 俺の挨拶はどうやら誰にも届かなかったらしい。すぐ近くに妹がいるのに……。


 遥香は俺の方を見ることも無く淡々とコーヒーを啜っている。


 まあアレだ。昨日のこともあったし、「もうお兄ちゃんなんて大っ嫌い!」というやつかもしれない。それならそれで言ってくれればいいのだが、どうやら我が妹はシャイのようで、そう言った感情を表に出すのは苦手のようだ。……まあんなわけねえか。


 たぶん純粋に俺に無関心なだけだ。それはそれでなんだか悲しい。兄として複雑な心境だ。


「朝飯はこれでいいか……」


 キッチンの隅に無造作に置かれたいくつかの菓子パン。その中から適当に一つを選んで頬張る。冷蔵庫から取り出した牛乳でパンを一気に流し込み、俺の朝食はものの二、三分で終了した。急がねばまた遅刻してしまう。


「俺、今日出かけるから。母さんたちに伝えといてくれ」


 最低限の事務連絡だけ、遥香に伝える。


 すると「えっ」という声と共に遥香がこちらを向くのに気付いた。


 彼女と視線が合う。なんだかひどく驚いた様子だった。


「出かけるの? 嘘でしょ?」


「嘘じゃねえよ……。なんだよその反応」


 嘘つく必要なんかねえだろ。おかしいだろ。


「今日はちょっと用事があるんだよ」


「へぇ……。なに、ゲーム? ゲームでも買いに行くの?」


 遥香が珍しく興味を示したようで、俺に向かって問を投げる。


 確かに俺は早起きして新発売のゲームを買いに行ったりすることがある。


「いいや……。そういう用事ではないな」


「え……。それじゃ、えっと……。他に外に出る理由なんてある?」


「いやあるよ他にも。お前俺のこと何だと思ってるの?」


 たぶんキモオタとか陰キャとか童貞とか思ってるに違いない。全部正解ですけど。


「今日はその、なんだ……。デ、デー……」


「デート!?」


 全て言い終わる前に遥香がさらに驚いた様子で立ち上がった。その拍子に机の上のマグカップが音を立てて倒れる。


「デート? デートなの? 嘘だよね? 嘘だって言って!」


「いや意味分かんねえから……。それよりコーヒーこぼれてるぞ、拭けって」


 ていうかそんなに驚かんでもいいだろ……。まあデートといっても擬似デートなわけだが。すべてを説明するのも面倒なのでここはデートということにしておこう。……ついでに俺に対する妹の意識改革にもなるし。


 布巾を遥香に渡す。遥香は机の上を拭き終えると、俺のことを矯めつ眇めつ見た。


「なんだよ……」


「兄ちゃんがデートなんて……信じられない……」


「そりゃ俺だってデートくらいするかもしれないだろ。そんなにショック受けることか?」


 そうは言ったものの、普段の俺を間近で見ていれば驚くのも無理はないのだろう。特に中学生の頃の俺と言えば三度の飯より美少女ゲームだった。あの頃の俺を知っている遥香にとって、突然「デートへ行ってくる」とか言い出す兄は、もはや別人として映るに違いない。


 いや、まあ。


 それを差し引いても、妹の俺に対する評価が底抜けで低いことだけは分かった。うん。


「ていうか、もっと信じられないのが……」


「あ?」


 まだ失礼なことを言うかこいつ、と思って睨み付けると遥香の顔が若干青ざめているのに気付く。遥香は再度俺の全身をつま先から頭までたっぷりの時間をかけて見てから、ようやく口を開いた。



「……兄ちゃん、そのカッコで行くの?」



 遥香がほとんど震えたような声で俺に問う。さっきからめちゃくちゃ見てくるなとは思っていたが、どうやら彼女が気にしていたのは俺の服装だったらしい。


 問われて俺は自身の服装を確認する。なんてことはない。ただの無地Tに半ズボンだ。いつぞやの反省を生かして靴下はショートソックスを履いている。


「なんかおかしいか?」


「……いや、えっと。何と言うか。うまく言えないんだけど……ダサい」


 言葉に詰まりながらも遥香はそう評価する。表現に困った割にはしっかりダサいと断言していた。


 つーか、え? ダサいん? この恰好ダサいんですか?


「どの辺が? どの辺がダサいよ?」


「いや全部だけど……。もはや一周回ったダサさだよ、それ」


「どういうことだよ」


 ほとんど反射的に言い返していた。全部ってなんだよ、全部って。知らぬ間にどこを一周回ったんだ俺は。


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