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ラブコメにラッキースケベは欠かせない

サブタイトルの通り。

 手をブンブンと振りながら、まるで手に飛びついてきた昆虫を振り払うがごとくその紙を捨て去る鳴海。ゆらゆらと性癖が記された紙が床へと落ちる。


「計画はいたって単純だ。鳴海は次のデートでそこに書かれている先輩の理想の彼女になる。そして先輩を再び惚れ直させるんだ」


「はぁっ!?」


「なんだ? 何か問題あるか?」


「大アリだよっ! なにこの服装……。それに明るくて元気な感じって……。私とはまるで正反対の……」


「正反対で大いに結構。むしろこの計画の効果が大きくなると見込めるからな。そこに書かれた気持ちの悪い彼女になれ、鳴海」


「い、いいっ……」


 おいおい……。そんな芋虫を食うタレントみたいな声出すんじゃねえよ……。お前の彼氏さんの性癖だよ? 気持ち悪いとか思ってあげるなよ。いやまあね。だいぶキモいけど。


「陽斗くん、この計画って何か意味があるの?」


 加納がそう聞きながら床に落ちた紙を踏みつけていた。おい踏むな踏むな。それ踏み絵じゃねえんだぞ。


「意味はもちろんある。鳴海が先輩の理想の姿で現れて、先輩を再び惚れ直させることができたなら、少なくとも二人の恋愛の主導権をこっちが握れることになる。そこから先は鳴海の判断に任せるけどな。先輩が浮気してたことを知らない振りして、このまま恋愛を続けていくこともできるし、惚れ直した先輩にノーを叩きつけることもできる」


「なるほどね……」


「先輩を惚れ直させるという意味で、この計画は鳴海にとって復讐になる。ハッピーエンドならそれはそれでよし、バッドエンドならそれは先輩にとって償いになる」


 そうだ。決してこれは単なる復讐じゃない。


 もっと悍ましい、先輩には太刀打ちできないであろう、正攻法による逆襲だ。


「先輩と良い感じになったら、鳴海はその時の気持ちだけを信じて先輩との今後を選ぶんだ。後悔の無いように、自分でケリをつけるんだ」


「で、でも……、こんな格好って……」


「何を言ってるんだ。男の理想なんて気持ち悪いに決まってんだろ。そんなの全然マシだ。むしろ先輩の性癖はマトモまであるな。言っておくが、俺ならもっと気持ち悪い文章と絵を書く自信がある」


「何のフォローにもなってないよ陽斗くん。あとキモい」


 加納が蔑んだ目で俺を見る。うるせえよキモいとか言うな。


「だけど、口ぶりとか仕草はどうするんだ? 服はどうにかなっても、さすがにそこはどうにもできないんじゃないか?」


 おい誰だよと思ったら智也だった。……お前いたのね。全然喋ってなかったから普通に誰かと思ったぞ。


「そこは安心しろ。演技指導なら用意してる」


 俺が「だから心配ないぞ」と付け足すと、今度は加納が口を開く。


「へぇ……。陽斗くん準備がいいわね。いったい誰なの?」


 珍しく俺に感心している様子の加納。珍しくっつーか普通に褒められたの初めてじゃね……? もう少しお前は俺のことをちゃんと評価した方が良いと思うぞ、普段からな。




 ――あと、お前はトンチンカンなことを言っている。




「誰も何も、お前だよ。加納」


「……はい?」


 目を丸くして驚いている加納に、俺はため息交じりに言った。


「演技の指導はお前がやるんだよ、加納」


「な、なんでよっ」


「鳴海。智也。ちょっとこっち見てくれ」


 加納の質問を無視して鳴海と智也に呼び掛ける。


 二人が注目したのを確認してから、俺は体の前で十字を切った。


「……なんで祈りを捧げてるんだ陽斗?」


「なんでって、そりゃあこれから痛い目に会うからだよ」


「は、はぁ……?」


 ……まあ見てろ。見りゃ分かるって。


 俺は覚悟を決めて、口を開いた。




「いいか? 加納琴葉っていうのは、こういう奴だっ――!」



「――っ!?」




 その言葉を放つや否や、俺は隣にいた加納の胸に思いっきり触った。


 いや、触ったなんてもんじゃない。




 ――揉んだ。




 そう、揉んだのだ。というか揉みつくした。


 日頃の鬱憤、怒り、ストレス。すべてを一つ一つの『揉み』に贅沢に込めて、とにかく揉みしだいた。


 柔らかな感触。吸い付くような揉みごたえ、そして手に余る迫力……。なんて素晴らしいおっぱいなんだっっっ! もみもみもみもみモンサンミッシェルぅぅぅ!


「なっ……!」


 そうだ、そうだった! この物語は腐ってもラブコメだった! すっかり忘れていた!


 こんな奴とラブコメするなんて死んでもごめんだが、おっぱいに罪は無い!


 だからこそだ! ラブコメには必須のラッキースケベ! もはや自分から揉みにいってるが、知ったこっちゃねえ! ラブコメにはおっ――!?


「――ぼふぁっ!?」


 鳩尾にめり込む拳。体重がしっかりと乗せられた重厚で華麗な一撃。


 腹に衝撃を覚えるが早いか、俺は後方へと身体を吹っ飛ばされて――


「あああああああぁぁぁぁぁ!」

「何すんのよ変態ぃぃぃぃっ!」


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