恋の反旗を翻せ
反撃開始――
日曜日。
駅前の金の像前には今日も今日とて有象無象の若いカップルが集結していた。
この街には駅前くらいしか遊び場がないので、高校生たちは必然的に休日を駅前で過ごすことが多くなるわけだが、それにしたってカップルが多い。
あちらもこちらも、どこもかしこもカップルだらけだ。
ホントに、そこら中でいちゃこらと……。
「…………」
なんだよこれ。見ててマジで気分悪いな。あーあー。早く空から爆弾でも落ちてこねえかなぁー……。
――とか考えていると腹に衝撃が走った。
「ぐぶぉっ――おい何すんだよっ……」
「アホなこと考えてないで集中してよね。もう始まるんだから」
「ねぇなんで俺の考えてることが分かるんだよ……。はっ――! もしかしてお前超能力者かっ!? それとも熟年夫婦なのかっ!?」
「なによそれ。思いっきり声に出してたから。……気持ち悪い」
「お、おう。悪い……」
そうですか……。でも気持ち悪いとか言うなよ。傷つくよ……。
そうやって俺を罵倒した加納琴葉の表情は、いつになく神妙な面持ちである。
まるで緊張でもしているかのようだ。広場が見渡せる物陰から、じっと金の像の方を見つめていて、時折大きなため息を吐き、そしてまた広場の方へと視線をやっている。
俺もまた、そんな彼女を見て、いよいよかと襟を正す。
「ねえ」
「……なんだよ」
「うまくいくかしら」
その固い表情には似合わない、細々とした声だった。
「……さあな。俺たちは相談に乗っただけだ。後はあいつら次第だ」
正直、この計画がうまくいくかどうかは分からない。
すべては彼らの問題だから。すべては彼らに掛かっているから。
その顛末がどうなろうと、俺たちは見届けることしかできない。
だけど。それでも――
「……来たわ。西春先輩よ」
彼女の恋愛を応援するために、最高の恋愛をしてもらうために、俺たちにできることがあるのなら。
「よし。予定通りだな。鳴海に電話だ」
精一杯のことをしてあげようと、そう思っただけのことだ。
金の像前に西春斗真がいるのを確認し、俺は時至れりと宣言する。
「かぐや作戦、決行だ」
***
部室にやって来た鳴海莉緒は、ひどく俺たちのことを訝っている様子だった。
まるで敵視という言葉がぴったり当てはまるかのように、部室に入るや否や、俺たち三人のことを睨み付けた。
「よう、土曜日以来だな」
「…………」
返事は返ってこない。まあアレだ。女子に口をきいてもらえないことなんて中学時代を考えればよくあることだったし、なんなら目を合わせてくれているだけマシとかそんな冗談はどうでもいいんだ。……鳴海と話だ話。
「とりあえず、私を呼んだ理由、聞いてもいいですか?」
鳴海が俺のことをまっすぐな視線で貫いた。聞かれなくても言うつもりだ。
「リベンジだよ」
「……リベンジ?」
鳴海は何のことだか分からないと言った様子で首を傾げた。
「簡単に説明するとだな、鳴海には今度の日曜日、先輩とデートをしてもらいたいんだ」
「…………はい?」
呆れてものも言えないという顔で、鳴海は俺のことを見た。
まるで『何言ってんだこいつ童貞なの?』みたいなバカにしたような声。だがそれは、鳴海だけのものではなかったようで。
「陽斗くん、何言ってるの……? もしかして童貞なの?」
「おい加納。素が出ちゃってるよ素が」
加納もまた、俺のことを白い目で見ていた。
「なんで私がそんなこと……?」
「ダメか?」
「ダメって言うか……いや、よくそんなこと言えるよね。だって私たち土曜日に……」
「土曜日に?」
「……っ!」
鳴海が俺のことを本気で睨み付けている。目にはうっすらと涙を貯めて。
いや、分かっている。別に意地悪をしたいわけではない。ただ俺は鳴海の気持ちを確認したいだけなのだ。
「土曜日に、西春先輩は知らない女子と出会っていた。そうだよな?」
「だからどういう……。柳津くんたちは何がしたいの?」
「別に俺たちは何もしない。俺たち恋愛相談部が、鳴海や西春先輩の恋愛のすべてに首を突っ込むつもりはない。俺たちはあくまでも相談に乗るだけだ」
鳴海は無言で、俺の言葉を聞いていた。
「だから、鳴海の気持ちが重要なんだ」
「気持ちって……。どういう……」
「このままでいいのかっていうことだ」
「なによ、それ……」
静かな怒りを抱えている様子で、鳴海は時折、吐息と語気を荒げていた。
俺は少しの間をおいてから、用意していた言葉を口にした。
「これは過去の相談者が言っていた話なんだが――」