恋愛マスター
ラブコメの主人公に黒歴史はつきものです。
しおりの最終頁に載っていたのは得体のしれない謎の部活、恋愛相談部。もはや部活である必要はあるのだろうか。最終頁ということもあってラスボス感が否めない。
文化部は全体的に奇怪な部活が多い。いくら部活に力を入れているとはいえ、ここまで来ると、部活動が盛んというより無法地帯と言われた方が納得できる。
ちなみに運動部は運動部で、ワンダーフォーゲル部とか冒険部とか……そんな感じの部活が選り取り見取りである。色々部活がそろい過ぎだろこのしおり。大学のサークル案内でもこんなに充実してねぇよ。
「んで、陽斗は結局どうすんの?」
「そうだなー」
そんなわけで、こうして一生懸命悩んでいる。智也のように一芸に秀でていれば話も変わってくるが、先述の通り俺にはそういった特技はない。
だが、部活動は強制参加。いい加減決めなければならない。
「どうしたもんかね」
候補となってくるのは文化部の中でも活動に意欲的ではないお遊びみたいな部活だろう。ついでに言えばフェードアウトしても誰にも気づかれない部員の多い部活がベストだ。
「合唱部、なんて俺には合わないよな。だとすれば、どこだ……」
如何せん部活の数が多すぎて的を絞り切れない。加えてどの部活も平日は毎日練習だとか、朝練も実施だとか、やけに熱意が伝わってくる。まあ部活動というのは青春を謳歌するにはピッタリのイベントだから、そりゃ意欲的な奴が多いのも無理はないだろうが。
しおりを適当に眺めながらどうしたものかと考えていると、智也が口を開いた。
「恋愛相談部。へぇ。陽斗にピッタリじゃねえか」
一瞬、思考が止まった。俺にとってそれは予想外の発言だった。
「……え、なに? お前、俺をからかってんの?」
「いやいや。陽斗、こういうの得意そうじゃん」
何を言ってるんだ、こいつは……。もしかして、アレなの? からかい上手の大里くんなの? と智也を睨んでみるが、案外こいつは真面目に発言をしたようで。
「お前向いてるよ、きっと」
「何を根拠に」
「だってお前、そういうゲームしてんじゃねえか。なんだっけ。ギャルゲーだっけ」
ギャルゲーではない。エロゲーである。
「あ、ああ。確かにギャルゲーはやっ『てた』けどな、でも……」
高校生という手前上、エロゲーをやってたなんて公の場で口にすべきではない。なんなら高校生という手前が無くても公でエロゲーをやっているなんて口にすべきではない。
それに、最近はその手のゲームはほとんどやっていないのだ。
「あれって恋愛ゲームだろ? お前そういうの好きじゃねえか」
「いや、まあね。そりゃね。好きだけどね」
だからって何が悲しくて恋愛相談部とかいう珍妙な部活に入らねばならんのだ。なめてんのかこいつ。
「この前貸してくれたゲームだって……。あっ。いや、なんでもない」
「なんだよ、急に」
突然何かを思い出したように話を中断する智也。ちょっと慌てているようにも見える。
何を思い出したんだと不審に思っていると、智也は何を思ったのか、今度は急にぐいぐいと迫ってくる。
「まあそんなことはいいんだよ。良いじゃねえか、恋愛相談部。せっかくの青春だろ? そういう部活も悪くないと思うけどな」
「いやいや、どう考えてもヤバいだろこの部活。だいたい俺が恋愛相談って……。よく考えてみろよ。こんなキモオタの恋愛相談を受けたいと思うか?」
「絶対思わないな」
……絶対思わないのかよ。なんなんだよお前。
「でも陽斗って、中学の頃からああいうゲーム布教するの日課だったじゃん? 恋愛ゲームの攻略法とかみんなに教え回ってさ……。おかげで付いたあだ名は『恋愛マスター』だったよな―」
「やめろっ! それは黒歴史だっ……!」
隣で智也が笑っているのを、俺は睨むことしかできなかった。
忘れたい過去の話だ。忌まわしき中学校時代。
――あの頃、俺は有名人だった。
序盤でヒロインが二話連続不在……。すみません。もうすぐ出てきます。