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美男美女とかクソ食らえ

学校一の美少女とイケメン先輩。お似合いです。

 帰りのホームルーム。担任が連絡事項を言い終えるのと同時にチャイムが鳴り響いた。


 すでに引き出しの中身を空っぽにして準備万端だった野郎共が、チャイムが鳴るや否や教室を飛び出していく。どたばた、どたばたと……。あまりに勢いよく教室を飛び出したものだから、何人かが扉の手前ですっ転んでいた。


 どんだけ部活行きたいんだよ。あいつら……。


 俺なんか見てみろよ、マジで。部活になんてこれっぽっちも行きたくないもんだから、むしろチャイムが鳴るまでは一切の帰り支度を始めないと決めてるくらいだぞ?


 元気な奴らだなぁと年寄りみたいなことを思いつつ、自分も帰り支度を始める。


 鞄に引き出しの中のものを全部突っ込むと、そそくさと教室を出て部室へと足を運ぶ。


 教室を出て階段を上がり、そのまま渡り廊下へと歩みを進めていく。部室は遠く、それだけで行く気を削がれてしまう。俺の足取りは象よりも重い。


 どしんどしんと歩いていると、廊下へと出る踊り場に異彩を放っている男女がいた。


 見覚えのある顔があったので、思わずその名を口にしてしまう。




「……か、加納?」




 恐る恐るそう声に出した。いや、別に畏れ多いとかそんなんじゃなくて単純に関わりたくないというか名前を出すことすら憚られるというか……。こいつはヴォル○モートかよ。


 そこにいたのは加納琴葉だった。


 加納の隣には、俺の知らない爽やかイケメンが一人。


 二人は互いに笑みを浮かべながら、談笑に耽っていた。


 その様子はまさに、美男美女という言葉がぴったりである。何やら楽しそう会話している彼らの周囲には異様なオーラが立ち込め、他者がその空間に入り込むことを拒んでいるかのようである。どうして陽キャって、あんなに近づき難い雰囲気出せるんだろうな。


 ちなみにここに俺が加わると美女と野獣になる。世界的名作になっちゃうとか俺すげえ。


「あっ、陽斗くん」


 と、こちらに気付いた加納がニコニコとした笑顔を見せた。


 相変わらず今日も抜群に可愛い。さすがは学校一の美少女と言われているだけのことはある。こいつが外見だけの女じゃなかったら俺は確実に告っていたに違いない。こいつの中身がスカスカで本当に良かった。


「どうしたの、こんなところで」


「いや、部室へ行く途中だけど」


 俺がそう答えると、加納はパァっと笑顔を輝かせて言った。


「そっか! もうすぐ部活の時間だ、しね」


 出会って間もないのに、なぜか死刑宣告をされた気がした。前にも同じようなことあったけど、それって語尾の区切り方間違えただけですよね、そうですよね?


 まあ毎度のことなのでほとんど俺にダメージはない。むしろ美少女に罵倒されたと思えばプラスですらある。耐性がついている自分になんだか哀れみを感じなくもないが……。


「先に行ってるぞ」


 この空間に俺がいることは極めて不釣り合いである。決して顔とか性格とかカーストとかそういう意味じゃなくて、純粋に俺が二人の邪魔になっていると思ったからだ。


 というわけで、我ながら気の利いた台詞を口にしてその場を去る。別にこいつらに用事があるわけでもないし、そもそも俺は知らないイケメンと一緒に長居するようなキャラではない。むしろこういうイケメンと一緒に長居していると蕁麻疹が出るのだ。いやだからどんな持病だよ。


 さっさと部室へ行こうと階段を上がろうとすると、俺の背中に声がかかった。


「あぁっ、待って! 私も行くよ!」


「? その人と話してたんじゃないのか?」


 振り返り、尋ねた。


 加納の隣に立つ謎のイケメン。見てくれだけで判断すれば十分加納の隣にふさわしい容姿と言えよう。故に加納の彼氏か何かかと最初は思ったが、よくよく考えれば加納は今まで誰とも付き合ったことの無い恋愛未経験のクソザコであった。まあ俺もなんですけど。


「もしかして、琴葉の友達?」


 そのイケメンが、イケメンな顔して、イケボで加納にそう尋ねた。なぜかイラっと来た。


 イケメンの問いに、加納が笑顔で答えを返す。


「はいっ! 部活仲間の陽斗くんですっ」


 え、なにこれ。挨拶しろってか?


「……どうも」


 雰囲気に流されるがまま一礼する。わずかに上ずった声で挨拶を済ませた。知らない人に挨拶するというのは陰キャにとってかなり緊張するものだ。陽キャのみんなは陰キャが冷たい態度で挨拶してきても責めないであげてね。あれ緊張してるだけだから。


 俺が挨拶を終えると、目の前のイケメンが笑みを浮かべた。


「俺は西春斗真、二年生だよ。琴葉とは君と同じで友達っていう感じかな」


 そう言って其奴は俺に笑顔で握手を求めてきた。……なんだよ、その手は。武器なんて持ってねえぞ?


 しかしこいつはアレだな。友達の友達は友達だって本気で思ってるタイプだな。誰とでも仲良くなれちゃう系のイケイケ男子というところか。なるほど。……でもそんなわけねぇから。友達の友達は他人だから。


 まあでも求められた握手は交わしておくか……。てかなんで初対面で握手なんだよ。


「……ん。西春先輩、ですか」


 そこで気付く。どこかで聞いたことのある名前だった。というか聞くたびに思い出している名前のような気がした。――というか西春先輩だった。


「聞いたよ。君たち部活で面白いことやってるんだよね? なんだっけ、恋愛相談部?」


「ええ、まあ……」


「思い切ったことするねー、君」


「ははは……そっすかね」


 立ち去ろうと思っていたのにいつの間にか会話の渦に巻き込まれていた。


「まあ人は見かけによらないって言うもんねー」


 そう言って西春先輩はにかっと笑う。おい見かけによらないってどういう意味だこの野郎。俺が童貞にでも見えたんかコラ? ――ピンポン、大正解。


「琴葉から話は聞いてるよ。部活では大活躍だってね」


「いや、そんなことは……」


 大活躍ってなんだよ大活躍って。何を言ってくれてんだ加納。


「そうなの、陽斗くんは本当に恋愛に詳しくて、とても頼りになるからっ」


「へぇ……。意外だな」


 そう言って先輩は俺のことを矯めつ眇めつして見る。だから一言余計なんだよなこいつ。


 まるで芸術作品を眺めるかのように俺をじーっと見る先輩。目のやり場に困って加納の方を見ると俺を馬鹿にしたような表情でクスクスと笑っていた。こいつはいつか殺す。


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