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EX 恋愛相談千本ノック 5

にもんめ。







「——ずばり、恋愛に重要なのは外見と中身、どちらでしょう?」




 加納から示された二問目。それはとてもシンプルな問題だった。




 さきほどの一問目はまるで国語の長文読解だったが、今回は違う。永遠の問題と言っても良い、いわば恋愛における黒バーサス白だ。








 ——外見か、中身か。








 まず前提として、恋愛において各々が重視するポイントは違って当たり前だ。外見中身はもちろん、趣味が合う人がいいとか料理できる人がいいとか、そういう細かな話を挙げればキリがない。




 しかし皆が皆、相手に求める条件は違うにも関わらず、このテーマだけはまるで不死鳥のように恋愛界隈で生き続けている。誰しも一度くらいは聞いたことのあるテーマではないだろうか。




 それだけこの問題は多くの興味を惹く、大変興味深い問題ということだろう。たぶん。




「……これって、恋愛相談なの?」




 さて、鳴海がそんなことを言った。その横で弥富がうんうんと頷いている。


 何も分かっていないらしい鳴海に俺は声をかけた。




「……甘いな鳴海。この問題はあくまでも本質を取り出した命題に過ぎない」


「えぇっと……どういう意味?」


「つまりこの問題は、恋愛相談になり得る心情を示してるってことだよ。こういう潜在的なヤツは特にな。——例えば少女漫画とかであるだろ。めっちゃカッコいい部活の先輩と、気が合って心から通じ合ってる幼馴染。どっちを選ぶか的な展開が。あれは実質、外見か中身どっちを選ぶかってことなんだよ」


「へぇ……。そうなの、かな……?」




 鳴海が納得したようなしてないような、そんな声を漏らしていた。……まぁ知らんけど。俺あんま少女漫画読んだことないから知らんけど。適当に言ったけど。


 一方で弥富はうーんと唸っている。こちらもまだ疑心を抱いているらしい。




 すると今度は先生が会話に入ってきた。




「それは違うわね柳津君。ああいう漫画では、部活の先輩も主人公の幼馴染も両方イケメンで性格も良いものだわ」


「……マジすか」




 えっ、そうなんだ。




「柳津君が普段読んでいる気持ちの悪い小説だって似たようなものでしょう。登場する女の子はみんな可愛くて優しくて、寄り添ってくれる。でもそれは創作の世界だからこそ実現できるもの。現実でそんな人はなかなか見つからない」




 気持ち悪いは余計だが、確かにその通りかもしれない。




 俺の読んでいるラブコメ、その世界では登場人物みんなが可愛いのだ。それでいて性格もみんな良い。一癖あるキャラもいるが、それはそれで可愛げがあるというか。まぁつまり外見も中身も優れているキャラがほとんどだと気付かされる。




 一方で現実はどうだろうか。




 恋愛相談部……。加納琴葉……。うっ、頭がっ。




「だからこそ、この問題があるんじゃないかしら? 何かを手に入れるためには何かを捨てなければならないから……。それが外見か中身かってことよ」


「おう……」




 なんかすげえ納得のいく説明だった。進撃的な名言だった。思わず声が漏れちゃった。




「そういうことですね」


「なるほど先生! 理解できました!」




 鳴海も弥富も今の説明で合点が入った様子。……ちぃ、やはりこの企画において最大の強敵は先生らしい。人生経験の差が露わとなっている。やはり年の功には敵わないなぁ……。——って、いや、あの、先生が歳って意味じゃないですよ。だから先生また睨まないでください。こっちを見ないでください。っつーか俺のモノローグ勝手に読まないでください。










 何はともあれ。








 パネラーが問題の趣旨を理解したのでシンキングタイムスタートだ。






 ——二者択一。顔か性格か。






 うーん、難しい。どちらを選ぶべきか……。






 モテモテポイントを手に入れるためには、加納が気に入る答えを示さなければならない。つまりここは俺の考えを排除し、どちらの答えを加納が望んでいるか考える必要があるが……。






「くっ、どっちだ。顔面か? 中身か? マジでどっちなんだ……?」


「ハルたそ、すごい集中力ですね……」




 当たり前だ。カネが懸かっているのだ。本気で当てに行く。


 もちろん俺の動機も目的も企画の趣旨に反したものだが、そんなことは小さな問題だろう。アマ◯ンポイントに比べればマジ些細。




「じゃあこの答えは、みんな一斉に出してもらうね」




 加納の提案。顔を上げるとすでにみんな書き終わっている模様。もちろん俺も答えを決めている。




「ではみんな、どうぞ!」




 加納の合図を号砲に、四人全員がボードをオープンした。




 他の人がどちらを選んだのか、すぐに銘々は互いのボードを見合うようにして視線を移動させる。






 結果はすぐに解釈できた。








 ——鳴海、弥富、先生は「中身」を選択。




 ——俺は「外見」を選択。










 ……あれ?






 ……え?







 ……俺だけ?







 ……俺だけ? 「外見」選んだの。







「——はい、3対1で陽斗くんの負けね。莉緒ちゃんたちに1ポイント」


「ちょっと待て加納! いつからこれは多数決になったんだ!?」




 俺が抗議の声を上げると、加納は面倒くさそうに頭を掻いた。




「多数決ではないけど、この二択で真っ先に『外見』選ぶかしら? どう考えても答えは『中身』でしょ。だからアンタは不正解。民主主義的にも今証明されたわ」


「異議ありだ! 異議あり! お前ら何も分かってねぇなぁ!?」




 ただの一度も恋愛経験の無い俺だが、こればかりは引き下がれなかった。




 恋愛において重要なのは外見である。異論は認めない。




 だいたいなんでみんな揃って中身選んだの? マジで言ってんの、ねぇ?




「お前らそんなんだから、全然モテないんだぞ!」


「ハルたそがそれを言いますか……?」




 弥富が冷ややかな視線を送るが知ったことではない。ではモテない俺だからこそ敢えて言わせてもらおう。大事なのは外見。間違いない。……逆に言えば俺は容姿がこんなんだからモテないと言っても過言ではないのだ。決して性格のせいではない。いやマジで。それほどまでに外見というのは超重要。




 しかしこいつらは、それを分かっていないらしい。こんなにも身近に、それを証明たらしめる存在がいるというのにだ。まったく君たちは今まで何を見ていたのか。




 俺はわざとクソデカため息を漏らして、それから言ってやることにした。


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