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EX 恋愛相談千本ノック 4




「そうかしら? 問題文を聞く限りBは取り付く島もないって感じに聞こえたけれど。本当にAさんのことを想っているなら、せめてもう少し積極的に話し合いに参加するはずよ。……ねぇ弥富さん?」


「えっ? そ、そうですね……? うーん。あぁ、じゃあ、私やっぱり『離婚する』に変更します!」




「弥富、お前流されすぎだ」


「……そ、そんなことはありませんよ!」


「ていうかそもそも問題の意味よく分かってないだろ」


「そんなことないです! 結婚超大事です! Bさんは結婚すべきだと思います!」


「本当にわかってんのかお前……」




 いいや絶対分かっていない顔だ。たぶん今のは先生がちょっと怖くて意見を揃えただけだこいつ。


 実際、アホの子にはちょっと難しすぎる題材だろう。ましてや高校生である俺たちには状況の想像さえ厳しい。だから弥富の狼狽は自然なことだろうな。……本当に、加納の題材が悪いだけで。


 そんな加納の真意は正直分からなかった。故にここで答えるべき回答を、俺は未だつかめていないのかもしれない。




「はい、最後は陽斗くんね」




 しかし恋愛相談において最も大切なことを、俺は忘れていないつもりだ。






 それは決して「正解」を出すことではない。






 その相談者が最も「納得」できる方策を出すこと。これが大切なのだ。






 つまりこのテーマにおいて求められているのは、相談者たるAさんが納得することである。そしてAさんは疑問こそ投げかけているが、自分の中で一つの答えに達していると考えられた。であれば、俺たち回答者はその答えを後押しするような声を、かけてやるだけで良いはずで。






 ——あぁなるほど。ではこの場で答えるべき回答はこれしかない。




 キュっとペンを走らせて、俺はボードをオープンした。




「——俺の答えは、これだ」




 横に並ぶ女子たち、並びに加納が俺の答えを覗き込む。そして弥富が徐ろにボードに書かれた字を読み上げた。




「……既成事実?」


「そうだ、既成事実。これで万事解決だ」




 なんと完璧な回答だろう。




 答えは簡単、既成事実があれば良いのだ。




 是を以て相談は無事解決し、どこぞのAさんBさんも仲良く夫婦生活突入というわけだ。


 あまりの回答の素晴らしさに一人ほくそ笑む。しかし周りの反応はポカンとしていた。




「えっと……。何を言っているのか分からないから……、解説してくれるかしら?」




 加納が若干引いたような顔をしていた。おっと。なんでそんな顔をするんだ。


 まさか説明がいるとは思わなかったが、まぁ、解説して欲しいと言うんならしてやろう。




「……いいか? 前提としてAさんは結婚をしたいんだろ。だったらこの相談で議論されるべきは『別れるか、別れないか』じゃない。『どうしたらBさんに結婚を決意させられるか』だ」


「はぁ」




 すごい興味なさそうに加納が返事したが、構わず続ける。




「そもそも男が結婚を決意するのはどういうときか——それは責任を取るときだ。言い換えれば使命感を得たとき。つまり彼女とその両親を泣かせてはいけないと気付いたときだ!」


「……なんか、カッコいいこと言っているようで普通に情けないですね」


「うるさいぞ弥富」




 男の決意が情けないはずはない。……たぶん。




「要するに。AさんはBさんに動機づけを行えばいい。そうすればAさんの悩みも無くなるだろ。……あぁ、ちなみに。分からない人がいるかもしれないから言うけど、既成事実っていうのはせいこう——」


「それ以上喋ったら殺すわよ」




 ——たいけんのことだ。うん。そう。成功体験。大事だよね。ははっ。




「まぁこのバカは置いておいて……」




 その辺に俺の与太話は捨て置かれてしまった。そして加納は一問目の総括に入った。




「莉緒ちゃん、梓ちゃん、可児先生……。全員筋が通っている意見だったわ」




 加納が満足そうに頷いている。その表情はなぜか清々しいものだ。……ええっと、そうでしたか? 特に弥富とか。絶対そんなことないと思うんですけど。筋どころか自分の意見すら曲がりまくっていた気がしますけど。




「なので、三人には1モテモテポイント!」


「やったぁ! やりましたね、リオリオ!」


「う、うん……?」


「……」


「なんだその頭悪そうなポイントは……」




 よく分からんが彼女たちに謎のポイントが付与された。いらねぇ。名前からしてバカそうでいらない。喜んでるの弥富だけだし。




 俺は抑えていたため息を漏らし、席を立った。




「くだらねぇ……。そんなアホみたいなポイントもらうために、こんな漫才をしなきゃならんのか」




 今ので完全に理解した。これ以上この企画に付き合う必要はないということを。いくら暇だからって時間をドブに捨てるわけにもいくまい。何が楽しくてこんな練習をしなければならないのか。




 というかそもそも練習になってないし。一問目からこれでは、以降の問題も期待はできない。




 何よりモチベーションが決定的に欠落していた。そりゃ部活動の一環なのだから参加賞代わりの見返りを求める気はない。だがそれにしたってやる気が出ないのだ。強制参加でないなら、俺はここで帰るという選択肢ができるはず。




「——待ちなさい」


「あ? なんだよ」




 加納が俺を呼び止める。……はっ、バカめ。今さら何を言うつもりだ。


 俺はもう帰ると決めたのだ。これ以上貴重な時間を浪費するわけにはいかない。






「大事なことを言い忘れてたわ」






 加納の神妙な面持ち。それは真剣な眼差しだった。確かに彼女の表情を見る限り、今から続くであろう言葉には聞く価値があるのではないかと思えてしまう。






「モテモテポイントを一番多く集めた人は……」






 しかし、しかしだ。








 俺がそんな誘導に惑わされるわけが——













「1ポイントにつき、アマ◯ンポイント100円分へ変換できるわ」




「よし加納! 二問目だ! 早く二問目を出せ!」






 ——身体を椅子にシューッ! 超エキサイティン! さぁなに皆ボサッとしてんだ? 早くやるぞ恋愛千本ノック! マジで千本やっちゃうぞ!




 行儀良く椅子に座り直していると、鳴海から心配の声が飛んできた。




「柳津くん、欲望に忠実すぎだよ……?」


「何言ってんだ鳴海。俺はただ恋愛力を向上したいだけだ」


「本当かな……? 柳津くんはモテモテポイント欲しいだけじゃ……」


「それは違うぞ鳴海。俺が欲しいのはモテモテポイントなんかじゃない。——アマ◯ンポイントだ」


「何も弁解できてませんよ、ハルたそ」


「お金は人を狂わせる……。早いうちに気付けてすごいわね、柳津君」




 なんかよく分からんが先生に褒められていた。いやぁ嬉しいなぁ。褒められた理由、本当によく分からんけど。




 何はともあれ、ポイントが換金できるっていうのなら話は別です。かますぜ柳津陽斗。






 ——二問目は、絶対に獲る。


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