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反省会、あるいは——




「いやぁ……。こんなにも失敗した経験は初めてだ……」




 時刻は午後四時過ぎ。場所は生徒会室。




 閉会式も無事に終わり、生徒たちはそれぞれの企画ブースへ戻り後片付けの時間に入っている。さすがに祭りの酔いも覚め、各々が淡々と粛々と片付けを進める中、俺はなぜか生徒会室にいた。




 無論、サボっているわけではない。俺たち恋愛相談部も体育館の舞台袖に大道具ゴミが残っているので、それを処理する作業は残っていた。しかし終業式が終わるや否や、知立会長は俺たち恋愛相談部に生徒会室へ来るよう声をかけてきたのだ。


 忙しないとはいえ、会長の頼みを無碍にできるはずもない。俺は後片付けを皆に任せることにし、一人だけで生徒会室へ赴くことにした、というのが経緯なのだが……。




 ——どういうわけか。




 生徒会室には会長だけ。そして俺はなぜか会長の反省会に同席させられていた。……いや、どういう状況これ?




「何を話したのか全然覚えていないな……」


「そ、そっすか……」




 乾いた声が漏れる。どうやら会長は閉会式での演説がお気に召さなかったらしい。


 実際、閉会式のスピーチは開会式のそれと比べてしまうと仕上がりは酷い物だったと思う。はっきりしない口調だったし、言葉も噛み噛みだったし、カリスマ性のカケラも感じない演説だった。他ならぬ会長自身が、自分の行動に驚いているのだろう。だからこうして反省会なんぞやっているというわけだ。……うん。いや。っつーかなんで俺呼ばれたの? 未だに説明がないんですけど?




「私はどうしてしまったんだ……」


「はぁ……」




 落胆した様子の会長を見て、俺は思惟する。せっかく呼ばれたからには愚痴くらい付き合わないこともないが、今回の件については答えが出ていると思うのだ。『どうしてしまった』も何も、考えられることは一つ。






 ——あのときの会長は浮かれていたのだ。ただそれだけの話。






 田神から告白を受けて、突然恋人ができた知立会長は、平静を装いながらもしっかりと浮かれていたのだ。だからスピーチが大失敗に終わったという、マジでそれだけの話。……そうです。これはぶっちゃけクソどうでもいい話なんです。




「柳ヶ瀬くん、私はどうしてしまったと思う……? もしかして病気か? 私は何かの病気にかかっているのか!?」


「あぁそうっすね。病気だと思いますよ。早く治るといいっすね」




 今の会長だってそうだ。落ち込んでいるように見えて、実はただ単に恋人ができたことに落ち着きを取り戻せていないという、いわば「惚気」状態。本人は気づいていないみたいだが、傍から見れば会長の激変ぶりは微笑ましくも憎たらしい、いや単純にムカつくだけの浮かれた行動に過ぎないのだ。


 だからここは一つ、会長のためにも忠告してあげよう。




「調子が狂ってるのは分からんでもないですが、ほどほどにしてくださいね。そういうの非リアには効くんで。俺みたいな喪男には効果バツグンなんで。背中が空いてたらうっかり刺しちゃうかもしれないんで」


「何の話だ?」




 はて。俺にも何の話だか。




 しかし浮かれてばかりでは会長の責務も全うできるわけがなかろう。釈迦に説法かもしれないが、公私混同は良くないという話をしたつもりである。……ああそうだ。決してリア充が妬ましいとかそういう話ではない。マジで。


 キョトンとした様子の会長に、俺はため息混じりで祝福の言葉を贈る。






「まぁ何だっていいです。とにかく田神との交際おめでとうございます、会長」






 ——知立会長と田神桔平は結ばれた。






 それが今回の事件の結末である。文化祭という舞台の上で、二人はハッピーエンドを飾ることができたのだ。諸々の事情を鑑みれば、大団円と名付けるには難しいのかもしれないが……。しかしそれはそれ。これはこれ。


 二人の幸せを喜ぶことは間違っていないと思う。だからこそ嘘偽りなく出た言葉だった。






「——なっ、なぜそれをっ……!? その話、柳ヶ瀬くんに私言ったか!?」


「いや、なぜも何も、体育館で見てたし……」






 なんか会長が狼狽えていた。キャラ変わりすぎだろあんた。あと名前違ぇよ。




「……ていうかそろそろ教えてください。どうして会長は俺を呼んだんですか?」




 会長の与太話が続くもんだから、さすがの俺とて痺れを切らしてしまったらしい。この生徒会室へ俺を呼んだ理由は何か。まさかこんな話をするために招集したわけではあるまい。もし惚気を聞かされるために呼んだって言うんなら……、ええっと……。あ、あれだからな! あれをお見舞いするからな! ……なにって、そのっ、な、泣いちゃうからなっ! 泣いちゃうのかよ。


 尋ねると、会長は不思議そうな顔をして一言。




「……私が呼んだ?」


「ええそうですよ。実際ここに俺を呼んでるじゃないですか」


「? もしかして安城さんから聞いていないのか?」


「……何をです?」




 発言の意図が分からず、恐る恐る聞いてしまった。……うぅん、どういうこと? 安城先輩? 先輩が何を俺に……?




 次の言葉を投げかけようとしたときである。生徒会室の扉がガラリと開かれた。








「おうおう! 会長と柳津くん! お待たせぇ!」








 ——そこに現れたのは、件の人物である、安城あかねだった。


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