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三日目:弥富梓と真実への扉

時間は刻々と迫っています




「——それで、ハルたそは犯人に心当たりがあるんですか?」


「いいやまったく」




 伏見と別れて二時間。時刻はもう正午に迫ろうとしている頃。




 弥富と俺はこれまでの事件の流れを整理していた。——場所は恋愛相談部の部室。他には誰もいない。


 俺たちが犯人を見つけなければ恋愛感謝祭の命運は犯人の手中に落ちることとなる。いい加減決着をつけたいところだが、相変わらず推理は難航していた。




「……やっぱりふしみんに聞いておくべきだったんじゃ……。どうして無理にでも聞かなかったんですか?」


「それはそうだろ。あんなこと言われたら、こっちも身を引く他ない」


「でも押せばいける雰囲気でしたよ」


「それじゃ芸がないだろ。あんまり問い詰めたら伏見にも悪い」


「——つまり、ただの『カッコつけ』じゃないですかぁ」




 弥富が含み笑いで俺のことを見る。……おいバカ。違ぇよ。これは『譲歩』って言うんだよ。お前には難しい言葉かもしれねえけどよ。


 しかし弥富の言う通り、あの場において伏見は迷っていた。色々と圧をかければ犯人の名前を聞き出せたかもしれない。さすればこの事件も解決したのだが……。




「伏見にはこれ以上迷惑をかけるべきじゃなかった。それだけだ」


「そういうのを『カッコつけ』って言うんですよー」


「うるせ。うるせえよ」




 まぁカッコつけでも何でもいい。それより犯人の推察だ。もう本当に時間がない。


 俺と弥富は机を挟んで向かい合うように座っている。机の上には弥富から借りたノートとペン。そこにこれまでの経緯を簡単にメモしていた。弥富には「意味あるんですかぁこれ」とか言われてしまったが、状況の整理には結局のところ一番これが適している。




 さて。まずは気になる点だが……。




「まず、犯人の動機が不明だ」


「そうですね。……ハルたその推理では『会長と副会長がくっつくことを阻止するため』って案がありましたけど、ふしみんが犯人でないとすると、正直分からなくなりました」


「そうだな……」




 頷く。当初の予測では弥富の言った通りだった。伏見が会長のことを好いていること、田神が恋愛感謝祭において会長に告白をしようとしていること、これらは安城先輩から確認した。そして、一方の安城先輩が田神のことを何とも思っていないことも確認済だ。




「次に分からないことは、どうして犯人が俺たちへの脅迫をストップしたのか……。俺たちは犯人の指示を無視して、大々的に恋愛感謝祭の準備を進めてきた。犯人から見れば、それは大きな焦りになる行動のはずだ」


「……でも、犯人からメッセージが来たのは、文化祭がまだ始まる前に二通だけ」


「あぁ。……まぁこの辺りは犯人の性格にもよるだろうが」




 とはいえ、犯人が本気で恋愛感謝祭を止めたいと思っているのであれば、今の俺たちにもう一押ししたくなると考えるのが自然だ。文化祭当日になってから俺たちの動きはさらに活発になったからだ。鳴海との宣伝もそうだし、今も体育館裏で俺たちの企画の準備が淡々と進められている。


 これを犯人が面白いと思うはずがない。文化祭中にダメ押しで脅迫文を送れば、犯人が理想を叶える確率はさらに高まるはずなのだ。




 でもそうしていない。犯人からの連絡は極めて少ない。




 まるで、恋愛相談部が企画をやるかやらないか、俺たちに決めさせているかのようだ。もっと言えば、俺たちが企画をやるのかどちらでも良いという意図さえ見えるみたいで。




「そして、この脅迫文と写真だ」




 俺は例の便箋を取り出して、それを机の上に広げた。






 弥富が一呼吸おいて読み上げる。






「——恋愛相談部へ 今すぐ恋愛感謝祭を中止せよ さもなくば、君たちにとって不都合な問題が起こるだろう」




「あぁ……。最初俺は、この脅迫文は加納に向けられたものだと思っていた。あいつが勝手に私怨を買って、誰かに脅迫されたんじゃないかってな……。でもそうじゃない。不都合な問題は『君たちに』起こるって、はっきりここに書いてある」




 つまり、この脅迫文は俺たち恋愛相談部へのものということだ。ここでいう関係者は加納や俺だけではない。鳴海や弥富も巻き込んだものである可能性が高いのだ。




「これらを結びつけるものは何だ……。どうやって犯人はこの写真を撮った? そしてなんでこの手紙は手書きなんだ? 分からないことが本当に多すぎる」


「手書きかどうかなんて、いま関係あります?」


「……関係ある。犯人の心理を考えてみろ。もし犯行がバレたくないと思ってるのなら、わざわざこんな脅迫文を手書きしたりしないはずだ。筆跡から身元がバレる可能性があるからな。これくらいの文章なら、パソコンで書いて印刷すればいい」


「あぁ……。確かに」




 でも犯人はわざわざ手書きでこの文章を送りつけた。まるでそうすることに意味を持たせているかのように。




 ……なんだ。何かが引っかかる。




 俺の推理はそこまで遠くないはずだった。実際、恋愛感謝祭のことを文化祭前から知っているのは生徒会関係者のはずだ。最有力容疑者である伏見の線が消えるとなると……残りの容疑者は恐らく……。




 いや分からない。やはり動機で行き詰まってしまう。




「この写真も分からん……。どうやって撮ったんだ……」




 手紙と同封されていた脅迫材料たる写真についても、ほとんど分からずじまいだ。




「写真ですか? これって遠隔操作で撮ってるんじゃないですか?」


「……遠隔操作?」


「はい。あらかじめ部室にスマホを置いておいて、部室の外から遠隔でカメラを起動する。そうすればこの写真も撮れるみたいなことを、ことはっちから……」


「……あぁ。そういえばそんなことを言ってたな。あいつ」




 文化祭前日だったか。俺も加納から同じことを聞いた。


 確かに遠隔操作でカメラを操作すれば出来ない話ではない。むしろ簡単なことだろう。


 犯人は俺たちが部室に入る前にカメラを仕込み、部活動が終わった後にブツを回収すれば良いのだ。この部室は教室としても使われる都合上、部活動の前後で鍵が施錠されていることは無い。侵入も容易のはずだ。




 だから、この写真が遠隔操作によって撮影されたことについては、別に異議など無いのだが……。






 無いのだが……。









 では、なぜ加納は……。








「……どうかしましたか?」








 ——それは、今までの中で一番に覚えた、強烈な違和感だった。


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