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二日目:加納琴葉とお化け屋敷

 二日目の文化祭は、一日目以上の盛り上がりを見せている。


 特に人通りの激しいメインストリート、二階渡り廊下ではその熱狂ぶりが窺える。昨日の文化祭を経て勝手が分かったのだろう。どこのグループもインパクトのある宣伝活動に力を入れているようだった。奇抜な格好で歩いて回ったり、大人数で宣伝をしたり、あるいはストリートライブのように出展企画をしてみたり。どこもかしこも人の波でごった返している。


 さて、俺たちの任務である『伏見の尾行』はもちろん継続中だ。課題があるとすれば、依然として伏見の発見に至っていないということくらいか。大問題なんですけどそれ。


 しかしヒントがないわけではない。先ほど安城先輩に伏見の居場所を聞いたのだ。それによると、




「今日はふしみん見回り当番やから、各教室の点検をしてるはずやよー。……そういえば『二年三組』に用事があるとか言ってたなぁ。少なくとも二年生棟にはいるんやない?」




 との回答が。そういうわけで、俺と加納は二年生の先輩たちが犇く二年生棟に向かっていた。




 ——二年生か……。なんつーかこう、先輩の存在ってちょっと怖いよな……。




 というのも、俺には先輩の知り合いなんてほとんどいないのである。せいぜい交流があるのは最近知り合った生徒会の先輩たちくらいだ。その関わりの薄さと言ったら、先輩という字面を見ただけでビクついちゃうレベル。先輩に限らず、同級生の知り合いもお前にはいないだろとか言わないでくださいごめんなさい泣いちゃいます。


 いやいや、俺にも言い分はある。だってしょうがないではないか。以前にも説明したと思うが、忠節高校は各学年ごとに教室棟が完全に分けられている。玄関も各学年棟にそれぞれあることから、学年の違う生徒と会うこと自体が少ない。せいぜい移動教室時に渡り廊下ですれ違うくらいだ。部活動に入ってる奴なら、交流があることは言うまでもないが。


 しかし恋愛相談部には一年生しかいないわけだし、別の場で俺が先輩と交流を持っているはずもない。だから先輩とかマジ知らん。本当に。……西春先輩、とかいたよな。懐かしいな。元気にしてるかなぁ。


 なんて、遠い昔のことを思っていると、前を歩いている加納が歩みを止めた。




「……ねぇ、陽斗くん」


「ん、どうした」


「安城先輩が言ってた『二年三組』って……ここ、よね?」




 その声はかすかに震えている。何事かと思い加納の指さす方を見ると、そこには確かに二年三組の教室がある。








 ——血みどろと化した、お化け屋敷仕様の二年三組だったが。








「伏見はここにいるのか。待ってても仕方ねえし……じゃあ入るか」


「待って!」


「——ぉえっ!?」






 受付へ向かおうとした俺だったが、加納に後ろ襟を引っ張られて静止した。掴むところおかしいっつーの。




「なんだよ……」


「ちょ……あの……その、お、お化け屋敷って……」


「あぁ。お化け屋敷の企画をやってるみたいだな。なんかめっちゃ怖いって聞いたぞ」


「……えっ」




 瞬間、加納の顔がさーっと青ざめていくのを見た。




「な、なな、なんでそんなこと知ってるのよ」


「なんでも何も……。たしか昨日の開会式のときに宣伝でそう聞いた気が……」


「…………」




「…………まさかお前。怖いの苦手なのか?」


「そっ、そんなわけないでしょ! バカじゃないのっ!?」




 今度は勢いに任せるように、乱暴に言葉を放った加納。しかし強気なセリフとは裏腹に蒼くこわばった表情は隠せていない。その目には僅かに涙が浮かんでいる。よく見れば声だけじゃなく肩もちょっと震えているし、心なしか加納そのものがいつもより小さく見えた。






 ——くくくっ。






 分かった。分かっちゃったよー。みなさん、分かっちゃいましたー。






 加納の弱点分っちゃいましたぁ。






 いやぁ、気分がいいね。はははっ、そうかそうか。加納は怖いのが苦手なのかぁ。うんうん。だってそうだよね。お化けとか超怖いもんね。見た目も怖いし、呻き声とかもおっかないし。夜トイレ行く時とか小走りになっちゃうしね。いやぁ、そうかー。加納はお化け苦手かぁ。はははっ。











 ——はい。じゃあ行こうか。











 加納の背中をグイグイと押してお化け屋敷の受付へ。加納がなんか「えっ? えっ?」とか言って戸惑っているが、俺がこの手を止めることはない。こいつが我に帰って俺のことを殴っちゃう前に、さっさとお化け屋敷に突っ込まないとな。


 そうだ。これは部活動のため、ひいては加納のためでもあるのだ。伏見の尾行を完遂するためにも、このお化け屋敷に入らないという手は考えられない。




「すみません。ここ入りたいんですけど、二人行けますか?」


「はいっ。そこの列に並んでお待ちくださいっ」


「……ね、ねぇ陽斗くん? わたしちょっと急用を思い出したんだけど……」


「ん? 何言ってんだ加納。バカだなぁ。伏見を見つける以上の急用が、お前にあるわけないじゃないか」


「…………うぅ」




 恋愛相談部の長は加納である。ましてやこいつは俺たちが巻き込まれている騒動の直接的な被害者であり、当事者。この問題を解決する以上に優先すべきことなんてありはしない。


 だから俺は加納を逃すわけにはいかないのだ。言っておくが、決して憂さ晴らしとか仕返しとか復讐とかそういうのではない。本当に。加納がお化け屋敷で震え上がっているのを眺めたいとかそういうのじゃないからね。誤解しないように。俺が一番、恋愛相談部のことを考えてるまであるから。




「では、次のお客様どうぞ!」


「よし、行くぞ加納! 早く伏見を見つけるんだ!」


「——ちょっ!? なんで引っ張るのよっ!」




 加納の袖を引き、先陣を切った俺。このとき堪えきれずに半笑いを浮かべていたことは認めよう。


 万が一加納の泣きべそを見てしまったら、そうだな……。そのときは有り難くご尊顔を見させてもらうまでだ。見ちゃったものはしょうがないし、なんならそのあと鳴海と弥富に言いふらしちゃうかもしれないけど、まぁ仕方ないでしょう。うん。面白いコンテンツを共有したいと思うのは人間の性である。JKがTi○Tokでダンス動画を共有すんのと同じ。




 さぁ、そんなわけで。レッツゴーお化け屋敷! どんと来い、超常現象!




 何を怖がることがあろうか。所詮は文化祭の作り物。子供騙しの域を出ない贋作にビビる必要など、どこにもない。






 ……それにだ、加納。いいか。よく覚えておけ。






 ——この世にお化けなんていないのである!


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― 新着の感想 ―
[一言] 初めて見るヒロインですね、彼女の名前を教えてもらっても良いですか? ・・・・・・え、加納? そんなわけ無いでしょ!
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