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一日目:恋愛相談部と容疑者の動機

「そうだな。伏見は会長に好意を持っている。そんな伏見の立場になって考えてみてほしい」




 分かりやすく例え話をあげて、俺は弥富に尋ねる。




「……たとえば、まったく別の男が会長に近づいてきたとしたらどうだ? 自分は思いを伝えられず苦しい気持ちでいるのに、その男が会長とよろしくやっているとしたら……。弥富ならどう思う?」


「どう思う……って」




 唐突な質問に、弥富は少し考える時間を要求した。


 しばらくして返答が来る。




「……そりゃ嫉妬しますよね? 自分が好きな人を取られたくないですから」


「あぁ。そう思うのが普通だろう」


「えっと……? 会長って誰かと付き合ってるんですか?」




 首を傾げて弥富が問う。


 俺は返答に窮して唸り声を上げた。




「さぁな……。そこまでは分からん」


「分からないって……。じゃあ今の話は何だったんですか?」


「いや、正確に付き合っているかどうかまでは分からないっていう意味だ。さすがに会長に恋愛事情を聞いたわけじゃないからな。……でも会長の近くには別の男がいる。それも今日に至っては一日中一緒だった……。そうだよな、加納?」


「……えっ?」




 さて、突然話を振られた加納。俺を一瞬睨みつけるように見るが、すぐに思い出したかのように声を上げる。




「そういえば……田神くん。今日のコンカフェで会長と一緒だったわね」


「あぁ。カフェに入る前でも、二人が一緒にいるところを俺と鳴海は見ているんだ」




 鳴海に視線を送ると、ちょっと遠慮気味に頷いてくれた。そう。今日という一日において、俺が特に気がかりだったのは『知立会長と田神副会長の関係性』についてだ。


 安城先輩の発言との食い違い。明らかな二人の動揺。そして二人でカフェを訪れているという事実。総合的に勘案して、二人の関係に何かあるのではないかと思う方が自然だ。


 そして伏見が会長を好いているという事情も絡んでいる。それら全てが生徒会メンバーの内輪だけで起こっているということも考えれば、伏見に疑いの目を向けるのは決して的外れなことではないだろう。




「……つまり、アンタは会長と田神くんが付き合っていて、それを伏見くんが良く思っていないって言いたい訳ね?」


「実際に付き合っているかどうかは分からんが、まぁ、それに近いと俺は思っている」




 俺は続けて言う。




「そして会長と副会長。これは俺の推測だが、二人は恋愛感謝祭に出席する予定なんじゃないか? この企画を利用して二人の恋路を発展させようとしているのだとすれば……。伏見が恋愛感謝祭を中止に追い込む理由にも説明がつく」




 恋愛感謝祭を中止に追い込む理由……。そもそも犯人の動機が俺にはよく分からなかった。こんな辺鄙な部活の企画を潰したところで、犯人が得られるメリットが何なのか、それをいまいち掴めなかったからだ。俺たち部活メンバーの誰かに対する私怨、あるいは嫌がらせという説も考えたが、それにしたって手がかかりすぎている。


 だが、恋愛感謝祭という企画の特殊性を考えれば、答えは自ずと浮かびあがる。


 犯人の動機の矛先は俺たち部活メンバーではなく、企画の参加者なのではないか……? この企画を中止にさせることで、俺たち以外にも被害を被る存在がいて、犯人がその人をターゲットにしているのだとしたら……。そう思い付いた瞬間、活路が見えたのだ。




 今回の犯人の動機。


 それは、恋愛感謝祭で愛を告げようとしている参加者の妨害。




 あぁそうだ。


 つまり、それが意味することは——




「…………はぁ」




 ——傍で加納がため息をついているのが見えた。




 あまりに大袈裟で露骨な吐息。なんだと思って加納の方に向き直る。俺の方を見て、そして呆れたような表情を滲ませる加納。その態度の意味を聞こうとしたが、ちょうど加納も何か口にするところだった。




「まぁ確かにその可能性はあるかもしれないけど……。残念。それじゃ伏見くんを疑うには弱すぎるわ」


「……あ?」




 なぜか分からんが否定されていた。それもすげえムカつく顔で。




「……なんでだよ」


「だってそうでしょ? アンタ、会長と副会長が一日中いたんじゃないかって言ってたけど、そんなの分からないじゃない? 私たちが見たのはカフェにいた二人と、その直前の二人だけでしょ。たまたまっていう可能性もあるじゃない?」


「…………」


「それに、会長のこと。……こういうのも何だけど、会長って男子から結構人気あるのよね。なんせあの顔立ちと佇まいだし。伏見くん以外にも、会長のことを好いている人は幾らでもいるわ。生徒会っていうつながりが伏見くんにはあるかもしれないけど、それだけじゃ伏見くんを犯人に絞る理由にはならないと思うわ」




 加納の主張はそういうものだった。つまり、会長と副会長がいい感じになっているという仮説も、あるいは伏見が犯人だという仮説も、それらは根拠が弱いのではないかと。


 確かに俺たちが出会った二人の存在は、今日一日という期間から見れば、ほんのワンシーンを切り取ったときの二人に過ぎない。たまたま俺たちの前で一緒に居ただけで、俺たちが見ていないところでは全然仲良くなんてなかった……という可能性は幾分捨てきれない。


 会長の人気についても、加納の言うことが正解だと思う。彼女の存在を最近まで知らなかったから俺はアレだが、しかし至る所で『会長って美人だよなぁ』みたいな閑話を聞くのだ。その会長というのが知立会長のことを指しているのであれば、生徒からの人気は確かなものなのだろう。




「申し訳ないけど、アンタの考えに賛同はできないわ」


「なんだー。ハルたその言ったこと間違ってるじゃないですかー。『ふしみん』が犯人だなんて怖いこと言わないでくださいよー」




 弥富がほっとしたような表情で柔らかい笑顔を見せる。加納の言う通り、俺の推理には欠落しているところがある。だから、伏見が犯人とは言い切れない——




「——いいや。それはどうかなぁ?」




 とか思った読者諸君。ふふふっ。安心してほしい。


 大丈夫だ。心配はいらない。


 俺は心の中で窃笑しながら、三人のそれぞれの顔を見た。




 ——ここからは俺の反撃。バトルフェーズ2に突入である!




 そうだ。見くびってもらっては困る。俺がその程度の反論を予期していないはずがないではないか! むしろその反論を待望していたまであるんだからなっ! ふはははっ!


 嗚呼。こんなにも気持ちよく話が進んでいくと、勝手に笑いが込み上げてしまう……。俺としたことが、心の中で必死に笑いを抑え込んでいたのに……。ひひっ、わ、笑うな、笑うな……。




「な、何よ……。突然笑い始めて……。怖いんだけど……」


「ハルたそが一人で笑ってるの、マジでキモいです……」


「——う、うるせえよ。……今のはアレだよ! ちょっと思い出し笑いしちゃったんだよ!」


「なんでこのタイミングで思い出し笑いできるのよ……」




 解せないと言った様子で、加納と弥富が一歩後ずさっていた。





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