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一日目:恋愛相談部と帰りの会

そんなこんなで、あっという間に一日目は過ぎていき。




 放課である。時刻は午後四時、いつも通りの時間にチャイムが鳴った。




 放課といっても、今日は課業というほどのことは為されていない。そもそも文化祭期間中に放課後という概念があるのかは謎だが、いずれにしてもこのチャイムを以て、忠節高校文化祭の一日目は終了となる。


 全ての宣伝活動、および出展活動は停止され、この後は各々のグループで反省会が開かれるのだ。改善点を洗い出し、二日目以降の活動に繋げるためである。いやでもまぁ。定時を過ぎてるのにまだ労働とかたまったもんじゃねえよ。帰りてぇ……。


 しかし我らが恋愛相談部も例に漏れない。部員全員が集合するよう事前に言いつけられていた。俺たちの場合は反省会という流れにはならないだろうが、確実に話し合うべきことがあるからだ。三日目の本番に向けた準備云々、それから何といっても件の脅迫事件に関する情報交換がメインとなるだろう。




 さて、部室に入るとすでに加納、鳴海、弥富が談笑しているところだった。そして俺の姿を見るや否や、三人の会話がピタリと止んだ。……うん。いや、俺が来たからってそんな急に黙らなくていいからね? 俺校長先生とかじゃないから。静かになるのに何秒かかりましたとか言わないから。




「やっと来たわね。アンタどこで油売ってたの? 遅すぎ」


「いや、まぁちょっと野暮用でな」




 まぁコイツは相変わらず口が減らないようだが……。ちなみに言うまでもなく、俺が遅れてきたのは遊んでいたからではない。ましてや部活に行きたくないだとか加納に会いたくないだとか、もういっそ加納の写真なんかばら撒かれてもいいんじゃね? だとか、そんなことを思って渋っていたわけではない。本当に。いや、まあ。そりゃちょっとは思ってるけどね?


 だが、俺も脅迫の対象に含まれていることを考えれば、そう悠長なことも考えていられないわけで。




「じゃあ全員揃ったし、少し話し合いましょうか」




 加納がそう言って、俺たちはいつになく真面目な表情を作った。




「まず私から。明後日の本番だけど、時間は十五時からに決まったわ。みんな忘れないでね」


「十五時……。十五時って、もしかして最後のイベント?」


「正解、莉緒ちゃん。私たちの恋愛感謝祭は、体育館ステージで最後の企画よ」


「本当ですかっ! すこいですっ! まさか大トリだなんて!」


「……世も末だなぁ」




 各々が違った反応を見せていた。俺は、こんなイベントが最後だなんて文化祭を楽しんでる人たちに申し訳ないなぁとか思うばかりだが、弥富なんかはすげぇ目を輝かせている。鳴海も目を大きくして驚いているようだった。確かに、大トリ枠を勝ち取れたのは驚きでしかない。


 となると集客の方は一層期待されるものがある。文化祭の最後、それも体育館で行われる大規模イベントとなれば多くの生徒が集まるに違いない。……いやだなぁ。普通にテンション下がるわぁ。それってつまり、より大勢の前で醜態を晒すっていうことじゃん。ただでさえ人前に出るのが苦手なのに、公開恋愛相談って……。なんだよそれ。やっぱり公開処刑と何が違うんだ。




「観客の中から立候補した人の恋愛相談を聞いて、パネラーのみんなが相談に応えていくっていう流れね。ちなみに司会が私で、みんながパネラーだから」


「なるほどー。……あれっ、ことはっちは参加しないんですか? パネラーに」


「あぁ……。わ、私はほら、どっちかっていうと場を回す方が適任っていうか、そもそもこの企画には司会がいるだろうから、泣く泣くその役回りを——」


「嘘つけ。恋愛経験がないから相談に応えられる自信がないだけだろ」


「ちっ、違うわよ! 変な憶測はやめてくれない!?」




 まぁ恋愛経験も自信も無いという点では俺と同じである。そんな理由でパネラーを降りられるのなら、俺もこの企画不参加でいいはずなんですけどね……。


 しかし逆を返せば、鳴海には彼氏がいた経験があるし、弥富も誰かに恋をしていたという実績がある。パネラーの布陣は決して見劣りするものでは無いはずだ。……本来ならそういう人たちだけで部活をやれよ、というツッコミはご遠慮願いたい。


 と、加納がわざとらしい咳払いを挟んで、話を続ける。




「……ごほん。じゃ、じゃあ、私からはこれくらいにして……。莉緒ちゃんと陽斗くん、例の件について何か分かったことはある?」




 追求から逃げるようにして話題を変えた加納。さて、俺らが話す番が来たようだ。


 犯人についての情報収集。今日の俺と鳴海のミッションは、少しでも犯人に近づくためのヒントを得ることだった。そのために俺たちは今日を共にして行動してきた。




 うーん。




 ……いや。といってもね。特に話せるような成果は無いんだよなぁ……。




「莉緒ちゃん、どう?」


「う、うーん……。そうだね……。私は無かったんだけど……」




 そう言って鳴海が俺のことをすげぇ凝視してきた。……ん? あれ、なんですかその目は? や、やめてもらえません? なんかセリフも相まって『柳津くんの方は気付いている』みたいな意味合いになっちゃってるからやめてくれません?




「何か気付いたのね!?」


「さすがハルたそです!」




 案の定、二人が見逃すはずもなかった。目の色を変えて、前のめりに俺の方へと詰め寄ってくる。くっ……おのれ鳴海……。今回ばかりは恨むぞ……。




「早く教えなさいよっ」


「ちょっ……待て! 俺はまだ何も気付いたとは言ってねぇ!」


「いや、その目を見ればわかります! その目は犯人を知っている目です! ——いや、ちょっと待ってください……。さ、さてはハルたそ……。犯人と繋がっていますね!?」


「バカやめろ……! これ以上ややこしくなることを言うんじゃねえよ!」




 突拍子も根拠もない弥富の意見を俺は一蹴する。こいつら……。否が応でも俺の考えを聞きたいらしい。


 実際のところ、考えがないわけではなかった。しかし確証がない分、簡単に話すのもどうかと憚られたのだ。……たぶん一日中行動を共にしていた鳴海にはそれを見抜かれていたのだろう。だからあんな視線を送ってきたのだ。




 ということで、ウザったい二人がいるせいで、話すしか選択肢はないらしい。




 俺は近場の椅子にゆっくりと腰掛けてから、取り留めのない推理を披露することにした。



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