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恋愛相談?

いろんな相談があります。

 驚嘆の言葉が漏れる。春日井は俺をふてぶてしい笑顔で見ていた。


 春日井が俺にも話を聞いてほしいとか、そんな展開あり得ないしワロエナイ。


「いや、俺ガールズトークはちょっと……。男だし」


「何を言ってるの……。陽斗くん」


 今日も相変わらずの可愛いボイスで加納が俺にツッコミを入れた。つい一分前まで互いに冷戦時代の二大国のような沈黙を続けていたとは思えない仲の良さである。


「今日はアタシ、恋愛相談に来たんだよねー」


「え……。美咲が、恋愛相談?」


 加納が明らかに戸惑ったのが分かった。


「そうそう、アタシも色々あるんよねー。恋愛の悩み」


「そ、そう、なんだ」


 ぎこちない笑いを浮かべる加納。何事かと加納に視線を送ったが早いか、加納が瞬きで何やら俺に合図を出してくる。トトトツーツーツートトト。トトトツーツーツートトト。これアレか、SOSか。モールス信号かよ。分かるかよ、んなの。分かったけど。


 加納のもとに駆け寄る。いつものドキドキ耳打ちタイムである。


「今回はヤバいわ」


「……なんだよ」


「私、美咲には、その、経験あるとか言っちゃってるし……」


「経験って何の?」


「――言わせんなっ……!」


 例によって罰としてボディーブローが入る。いや何の罰だよこれ。地味に腹の底に響く痛み。女子から暴力を振るわれているという展開だけ見れば、読んでいるラノベと同じ展開だった。嬉しくねぇ。


「美咲は私の親友よ。少しでも怪しまれたらアウトかも」


「だったら最初からそんな嘘つくなよ……」


「仕方ないでしょ。私のイメージのためだもの」


「はいはい……。イメージ、ねぇ」


 そこまでして守る彼女のイメージとは何なのだろうか。別にこいつが恋愛経験皆無だと分かっても今の立場は崩れないだろうに。


 でもまあ加納が言うのだから仕方がない。音声データがある限り俺は彼女の下僕。ここは合わせてやろう。うーんそれでいいのか、柳津陽斗よ……。


「分かったよ、まったく……」


 俺が承諾すると、加納はニコニコお天気スマイルで春日井の方へ向き直った。


「じゃあ美咲の相談、聞こうかなっ?」


「おうおう! よろしく頼むよ二人とも!」


 陽キャが二人いると会話のボルテージが行方不明になるな。ほんと……。


 定位置に再び腰かけて、俺は大きく息を吐いた。


 加納も春日井も席に着き、いつもの相談の構図が完成したところで加納が「では、どうぞ」と口火を切る。


 恋愛相談において、最も緊張する場面はここだ。


 今までの相談でもすべてそうだったが、相談者が内容を話し始めるまでには幾許かの沈黙がある。この短いとも長いとも言えない妙な時間が俺は苦手なのだ。




 ――だが、今回はいつもと違った。




 神妙な面持ちの春日井は、早速口を開いたのだ。


「浮気調査をしてほしいの」


「「浮気調査?」」


 予想外の単語に、俺と加納の言葉が重なった。


「そう、実はアタシの彼が浮気してるかもしんなくてさー。ちょっと探りたいっていうか、ガサ入れっていうかー?」


「家宅捜索かよ」


 間髪入れずキマった俺の的確なツッコミはスルーされ、加納が春日井に問う。


「浮気って、具体的にどんな?」


「浮気は浮気だって! あいつ、私の知らない女と二人で夜遊びしてたのよ!」


「マジかよ……」


 おいおいどうなってんだ日本の教育。そんなんダメだろ。


 夜遊びって、つまり、夜遊びってことですよね……? 夜遅くまで映画見たりゲームしたりプラモデル作ったり……。そういう夜遊びですよね? うん違うよね知ってました。


 俺がカルチャーショックをひしひしと感じていると、加納が問うた。


「美咲、それは本当なの?」


 それを聞いた春日井。


 さっきまで余りある活力を放出していたかのような彼女が、しょぼんと俯いた。


「本当も何も、アタシ……。実際に見ちゃったし」


「そう、なんだ……」


「…………」


 沈黙。


 気まずい空気が部室に充満し始めていた。

 彼氏の夜遊びを見た、なんて言われたらこちらは返す言葉もない。


 春日井は先程までとは一転、なんだか泣きそうな顔で俺たちを見ていた。


「そっか、うん、なるほどね。それで浮気調査ってこと?」


「そうなの。琴葉、お願いできる?」


「……浮気調査っていうか、もうそれ確定なんじゃねーのか?」


 俺がそう言うと、春日井はギロリと俺を睨み付けた。


「そんなのまだ分かんないじゃない! 勝手に変なこと言わないで!」


「お、おう……。悪い」


 突然のお叱りにビビる俺。春日井は機嫌を悪くしたのか俺をずっと睨んでいる。まるで死ねと言わんばかりの睥睨だ。……いや、だって、ねえ? 夜遊びしているところ見たっていうなら、そんなの確定だろ、なんで微妙に情けをかけてんだよ。


「浮気調査って、具体的にどうしたらいいの?」


「口裏を引いてほしいというか、それとなく聞いてほしいのよね」


「浮気してるかどうか本人に聞くってことか。いや……、そんなの無理だろ」


「やっぱそうかな」


 春日井はそう言うと「うーん」と唸って考え込んでいた。


 最初は何かの悪ふざけかと思ったが彼女の表情はいたって真面目だ。どうやら本気で浮気調査を依頼したいらしい。


 とはいえ、そんなこと言われても引き受けられるわけがない。ていうか恋愛相談じゃねえ。


「仮に浮気調査をしたとして、その後はどうするんだ」


 俺が問うと、春日井はむっとした表情で答えた。


「そんなの決まってるわよ。シロなら半殺し、クロなら殺す」


「いや怖ぇよ」


 春日井の目が据わっているのが益々怖い。なんか本当にやりかねないような雰囲気が出ていた。ちなみにシロでも半殺しらしい。彼氏にどうやら未来はないようだ。南無。


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