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恋と微熱のサーカス

恋愛感謝祭編、スタートします






 ——恋をした。






 そう気付いたのは、とても最近のことだ。


 たぶん、心のどこかでは気付いていたはずなのに。


 照れ臭くて、恥ずかしくて、気持ちに整理がつかなくて。


 悩んで、もがいて、抱え込んで、ついには全てを認めてしまって……。


 たぶん、周りに合わせることが楽だったから。


 流れるままに静観して、事の成り行きを見ていた方が安心できたから。


 だからこれまで、この気持ちに名前をつけようだなんて、


 そんな考えにさえならなかった。




 ——でも、ようやく分かったんだ。




 自分の気持ちに名前をつけるのだとしたら、それしかないんだと。


 そう結論を出したときには、一人で笑うしかなくて。


 納得して、答えを出して、そしてまた笑って。


 認めたくなかったわけじゃない。けれど、とても大切なことだから。


 ゆっくり、じっくり考えて。


 ようやくここまで来た。





 

 なんだか熱があるみたいで。


 頭はボワっとしていて、うまく思考がまとまらない。


 これが正しいことなのか、正しいやり方なのか。


 そんなことさえ、まともに考えられないほどに。


 どこか、自分はおかしくなってしまったのかもしれない。






 でも、後悔なんてしていられない。


 自分がやったことを今更悔いていても仕方がない。


 もう始めてしまったんだから。


 誰にも止められないのだから。


 この作戦を成功させなきゃ、それこそ後悔するのは自分なんだから。





 

 だから——




 だから今から——




 大事にしていたものを、壊さなきゃいけないんだ。






***






 ——夏休みが終わった。




 ……この一文の破壊力ですよ、みなさん。


 俺の心を木っ端微塵にするには十分だ。今でも信じられない。


 そう。大事なことなのでもう一度言おう。




 ——夏休みが、終わったのだ。




 …………。




 ……さすがに嘘だろと思って今日がエイプリルフールかどうか、カレンダーで調べてしまった。もう本当にね。嘘つくのとかマジで勘弁してほしい。……みんな正直になろうよ? ねっ? ちなみにエイプリルフールに嘘ついてるやつは普段からも嘘ついてるとかそんなことはどうでも良く、しっかり今日は始業日だとカレンダーに書いてあった。


 あの長かった夏休みも、今になって思えばあっという間だった。気がついた時には終わっていたのだ。それはもう、俺でなきゃ見逃してしまうほどの速さで。


 時間とは無慈悲なものである。楽しい時間は速攻で過ぎ去るくせに、辛い時間ほど長く感じられる。まるで時間に意志があるみたいに、その差ははっきりと感じ取ることができる。みんなもそういう経験くらいあるだろう。一刻千金、しかし退屈な時間は途方もなく長いという経験が。……そうそう。だから俺の人生ってば、めちゃくちゃ長く感じるんだよね。特に恋愛相談部に入ってからは数段と。


 そうは言うものの、なんだかんだこの夏休みは楽しかったと思っている。俺は自称アンチ鈍感系主人公なので、はっきりと言うことができるのだ。——最高の夏休みだった。本当に。


 一人でクーラーの効いた部屋に居座ってゴロゴロしたり、一人でアニメ見たり、一人でゲームしたり……。


 学校から解放され、自由な時間を持て余し、しがらみを逃れたあの日々を幸せと形容せずして何と言うのか。


 だから本当にあっという間の一ヶ月間だった。こうも自分の時間が大切だと気付かされた一ヶ月はない。やはりソロプレイこそ至高なのである。積みゲーもだいぶ消化できたし、これで部活動がなければ今頃俺は幸せのあまりバックトゥザ○ューチャーしていたことだろう。ははぁ、何言ってんだ俺は。


 頭が参っちゃうくらいには夏休みを楽しんだということでしょうか。まぁ夏休みの間は基本的にグータラしていたからね。頭なんてほとんど使わなかったし、仕方がない仕方がない。




 ……にしてもアレだな。本当に終わっちゃったのか。夏休み。




 何度も口にして申し訳ないが、本当にあっという間だったのだ。「ちゃんと一ヶ月あったよね?」って心配になるレベル。おかげさまでさっきからデカいため息が止まらない。魂吐き出してるんじゃないかってくらい、深いため息が漏れてしまう。……はぁぁ。マジで早い。早すぎるよ。あと二ヶ月はあってもよかったよ……。


 いや、でも……。歳月人を待たずと言う。ことわざにあるくらいだ。俺なんかのために時間が待ってくれるはずもない。……当然か。




 ——ついでに言うと『うちの家族』も、俺なんかのために待ってくれないみたいだった。




 どういうことか。




 つまるところ、今朝のことだ。俺は朝食をとりに、寝起きの体をなんとか動かしリビングへと入った。


 しかしそこには、誰の姿もなかったのだ。




 まるで自分以外が忽然と姿を消したかのように。




 ——一瞬、ラノベみたく本当に俺だけの世界になったのかとワクワクしたが、そんなことはなかった。家族みんな、俺を置いて家を出ただけのことだった。




 そんな俺を代わりに迎えてくれたのは、ダイニングテーブルの上に広がる朝食。ラップに包まれたおにぎりと味噌汁、漬物に納豆、そしてコーヒーゼリー。


 他の献立が和で統一されているのに、デザートだけ洋食なのがとても気になった。……あぁ。こういうのなんて言うんだっけ、和洋折衷? 


 あんまり聞かない言葉だけど、要はアレだろ。料理そんなに得意じゃない彼女が、和食なのか洋食なのかよく分かんねえご飯を彼氏に振る舞って、そのことを指摘したら『こ、これは、違うのよっ! 和洋折衷なのよっ!』って苦し紛れの言い訳をするときに使う、アレだろ? どれだよ。


 我ながら意味が分からん……。腐った脳みそをさらに腐らせながら、席につき朝食を取る。やはり家族みんなはそれぞれ仕事と学校へ行ったみたいだった。登校時間ギリギリを攻める俺と違い、他のみんなは余裕をもって外出するタイプだ。この場に居ないのも頷ける。つーか始業式の日からギリギリを攻めてる俺がヤバすぎる。


 しかし学校へ早く行く理由も無いのだ。登校時間は決まっているのだから、間に合えば良いだけのこと。むしろ早く行ってる奴らは朝早くから何をしているんだろうか。始業よりも随分前に来てギャーギャー騒いでいる連中をよく見かけるが、こればっかりはテンで分からない。


 そんなに早く行ったところで、早帰りできるわけでも、残業代が出るわけでもないし。むしろ必要最低限の出勤時間で最大効率を確保するほうが良いに決まっている。特別やることがあるわけでもあるまいに。……って、時計を見たら、あんまり時間無ぇな。


 思ったより目が覚めるのが遅かったみたいだ。昨日まで夏休みだったから、起床リズムがまだ整っていないのだろう。


 このままだと学校に間に合わないまである。必要最低限どころか不測の事態。不足だけに。いや。うるせえよ。いいから早く用意しろよ自分。ともかく悠長にご飯を食べている余裕はなさそうだ。


 どうしたもんかな。おにぎりは昼休み用に持っていけるから、鞄にしまえばいい。納豆のパックは冷蔵庫に戻すとして……あとは食べなきゃだよな。


 とりあえず味噌汁を急いで掻き込んだ。そして漬物とコーヒーゼリーを同時に口の中へ放り込む。瞬間、とんでもない味がして一人で嗚咽した。




 ——ごほっ。おぇっ。まっず……。なんか涙出てきたんだけど……。




 そんな朝です。どうも、柳津陽斗です。




 再来の学校生活。


 早くもクソみたいなスタートダッシュを切りました。





お久しぶりです。にっとです。


第5章の連載を本日より始めます。よろしくお願いします。


投稿頻度としてはしばらく週1ペースになるかと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 待ってました! 内容あやふやな部分があるので一話から見直して来ます!
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