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始まりはいつも脅迫から

今回の恋愛相談の裏には、いったい何があったのでしょうか。

 二日後。




 朝起きてスマホを見ると、通知があるのに気付いた。連絡の差出人は加納である。


 内容を見てみると、今日から文化祭の出し物準備を始めるので十三時に学校へ来いというものだった。……マジか。


 朝からイヤなものを見て気分が落ち込む。俺からしたらこの連絡は赤紙と変わりない。イヤでも「ありがとうございます!」って自分を奮い立たせて行かなければならないのだから。


 文化祭……もうすぐ夏休みも終わり、始業式が執り行われて、それから一週間ほどで始まる陽キャ共の祭典。


 担任曰く、毎年大盛り上がり。笑いあり涙あり、友情も恋愛もありありで、青春詰め合わせハッピーセットとのこと。きっと最高の思い出になるので期待していてほしいそうだ。——行きたくねぇ。


 俺は自分の意思を大切にする男だ。もちろん仮病を使って休む予定は立てていた。


 しかし現状、クソみたいな部活がクソみたいな出し物をするというから参加を余儀なくされている。……何すんだっけ、そういえば。恋愛感謝祭、だっけ……? くっそ、何なんだよそれ。未だに意味わかんねえよ。


 バカじゃねえのと思って布団に潜り込んだときだった。電話が鳴った。




「——アンタ今日は来なさいよ? 来なかったら八つ裂きだからねっ。じゃっ!」


 ブチッ。




 俺は一言も喋っていない。いつの間にか電話は切られていた。


 今日も今日とて加納は絶好調のご様子だ。虚しくビジートーンが流れるばかり。八つ裂きかぁ……。五体満足に殺してくれないあたり、さすが加納だなぁとか思った。S○S団ですらサボっても罰金なのにねぇ……。


 せめて自分の名誉を守るためにも、ここはジャパニーズハラキリをする他ないのか。カーテンを開けると、刺さるような日差しが降ってくる。


 どこまでも続いているかのような青空。鳥たちがチュンチュンと鳴いていた。




 ——はぁ。




 行くしかないようである。




 まぁアレだ。今日俺に予定がなかっただけマシだと思えばいい。うんうん。不幸中の幸い。いやぁ、マジ耐えました。ちなみに予定なんていつも無いんですけどね。はははっ、ははっ、おい、笑うな。


 セミが思い出したかのように、弱々しく鳴いている。窓の向こうでは草木が風に任せて呑気に揺れていた。




 ——今日も暑くなりそうだ。








***








「……ちーっす」


 炎天下の中、汗水垂らしながら自転車を漕いでしばらく。


 ようやく俺は部室へと辿り着いていた。扉を開けるのと同時に、やる気のない挨拶がどうしようもなく漏れ出てしまう。その姿はまるで脱力系ラノベ主人公である。


 夏休みに美少女たちと部活動……というシチュエーションだけ見れば、確かにラノベみたいな状況ではあるのだが。


「遅いっ!」


 扉を開けた俺を待っていたのは、加納の般若みたいな顔と耳をつん裂く罵声だった。


「いま何時だと思ってるの?」


「……えっと、十三時半ですが」


「集合は十三時って言ったわよね? 三十分も遅刻よ。まったく、これだからアンタは……。いい? 時間っていうのは有限なの。この三十分で何ができたと思う?」


「俺が気持ちよく眠れたと思います」


 テキトーに返事をしたら加納は呆れたかのようにため息をこぼしていた。言うだけ無駄だと諦めたのだろう。とりあえず八つ裂きにされる心配はなさそうだ。よかった。


 相変わらず、我らが恋愛相談部は平常運転だった。ラブコメの波動は今日も感じない。


「こんにちは、柳津くん」


「やっほー、ハルたそ!」


「……あぁ、お前らもいるのね。どうも」


 部屋の奥には鳴海と弥富もいた。案の定、部活メンバー勢揃いということらしい。


 こんな頭のおかしな企画に全面協力とは。黒歴史にならなければ良いが。


 と、机の上に大量の段ボールが積まれているのに気付く。かなりの量だ。ざっと二、三十枚といったところか。この前来た時にはなかったと思う。


 他にもペンやらハサミやらテープやら、文房具がそこらじゅうに散らばっている。


 視線を鳴海と弥富の方に戻すと、二人は何やらダンボールにペンであれこれを書いているようだった。


「……何してんの?」


「決まってるじゃない。今日から本格的に文化祭の準備よ」


「へぇ。そりゃ楽しそうなことで。羨ましいなぁ」


「アンタもやるのよ……」


「ですよね……」


 今度は二人して大きなため息が同時に漏れた。


 なるほど、これらの材料は文化祭のための道具というわけか。俺は何すんのか全く知らないけど、ある程度加納の中では方向性が見えているらしい。てっきり見切り発車かと思っていた。


 そんなことを考えつつ、鞄を机の上に置いた。さて、何をやればいいんですかね。




 指示を仰ごうかと思っていた、そんなときだった。




 がらり、と扉の開く音がした。




「——精が出るわね」




 その声にピクリと体が反応する。


 振り返り、声の主は誰かを確認した。




 ——そこにいたのは、可児綾乃先生だった。


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