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恋バナ

「え、なに?」


「ハルたそのことですよー。最近こっちの方はどうなんですかぁ?」


 そう言う弥富の口調は完全にエロ親父だった。すげぇニヤニヤしてるし。こっちの方ってなんだよ。どっちだよ。


「……お前はおっさんか」


「何かないんですか? 恋バナとかっ!」


「ねぇよ。そんなの」


「またまたー。中学校のときに付き合った人とかいるでしょ? 初恋とか、そういうのっ!」


「はぁ……。初恋ねぇ……」


 そんなワードを俺に聞かせないでほしい。そもそも俺なんぞに恋バナの語り手など務まったことがあっただろうか。


 うーん、どうだろう。記憶の範疇では無かったはずなので、仕方ない……。ここは前世の記憶を引き出すしかないようだ。


「でもそうだな……。じゃあ一つ聞いてもらおうか……」


「お願いします!」


「ごほん。…………魔王を倒すべく勇者だった俺は——」


「いやそういう作り話はいいんで」


「姫君といちゃいちゃ——おいまだ話の途中だっての」


 打って変わって弥富の冷たい声。一瞬で話をぶった切られてしまった。……あれっ、なんで作り話ってバレたの? おかしいな。昨今流行りのラノベをベースに練り上げた感動必至のエピソードだったんだが……。


「まぁハルたそにそんな恋愛経験あるわけないですもんね……」


「だったら最初から聞くなよ……」


「にししっ、いやぁ、でもほら、例えば好きな女の子のタイプはどうです?」


「……はぁ? タイプ?」


「そうですそうです。『付き合うなら絶対こういう人がいい!』っていうのはないんですか?」


 弥富がぐいぐいと俺に迫ってくる。なんだよこの質問攻め……。俺Mじゃないから嬉しくないぞ……。


 だいたい、なんでこんな話になったのか。俺の好きな女の子のタイプなど、こいつにとってはどうでもいいというのに。


 まぁ今はやることもないし、暇つぶしくらいにはなるか……。


 いやぁでもなぁ。女の子のタイプとか言われてもね……。


「二次元っていうのはナシか?」


「……ハルたそ?」


 視線が合った。弥富が満面の笑みをしていた。でも目が全然笑っていなかった。


「ああ、はい、ですよね。知ってました」


 二次元がダメとなると、じゃあどんな子が良いんだろうな……。


 あまり考えたこともない。好きな女の子のタイプ。自分がそういう浮ついた話と縁遠いと思っていたからだろうか。


 少しの間、黙考してみる。タイプ……。好みか……。うーん。……ピンとくる答えは見つかりそうにない。ここで弥富に『巨乳金髪ロリ美少女』と言うのは簡単だが、お茶を濁す雰囲気でもなかった。そうだな……。俺は——




「無いな。あんまりタイプとか」


「へぇっ?」




 しばらくして。ようやく出した答えがそれだった。弥富は驚いたような声をあげている。つまらない答えかもしれないが、率直に思ったことを口にしたまでだ。


「無いんですか……? 女の子に求める条件とか……?」


「ん? まぁ、特にはねぇな」


「………………男の子が好きなんですか?」


「いや、違ぇよ。そういうことじゃねえよ」


 そうではなくて、なんと言えば良いのだろうか。うまく言葉にできるかは分からんが。


「そりゃ確かに、胸が大きいとかスタイルがいいとか、ダイナマイトボディがいいとかはあるけどさ?」


「…………。ただの巨乳好きじゃないですか。ちょっと気持ち悪いですよ……。あとダイナマイトボディなんて死語です」


「待て弥富。確かに俺は巨乳が好きだ。……あっ、いや、何言ってんだ俺。違うんだ。確かにそういう好みはあるけどな? ——でも、最後に付き合いたいって思う人は、それだけじゃ決められないと思うんだよ」


 慌てて弁解するも、弥富から向けられる視線は冷たい。……いいだろ俺が巨乳好きでもなんでも。おっぱい最高だろうが。




 だがしかし、事はそういう話ではなく。




 自分でも何を言っているのかよく分からないが、要するに俺が言いたいことは。




「先生もいつか言ってただろ。外見や内面を最初から勝手に評価して、付き合うかどうかを決めたいわけじゃないって。俺もそう思うよ。少しの時間でもいいから一緒に時間を共有して、そこで初めて自分で決めていきたいと思うんだ」




 もちろん色々と評価してしまうことはあるだろう。外見にせよ内面にせよ、無意識にこの人はこういうところが……なんて自分で勝手に納得してしまうことは避けられない。


 しかし、それでも全部をひっくるめて最後に決めなければならないのは、自分なのだ。


 遥香もそう言っていた。すべては自分で決めることだから。


 誰かに言われて恋愛をするわけじゃなくて、自分の意志で恋をするべきだから。




 ——他でも無い自分が恋をするのだから。




 だから、きっとそういう考え方で間違っていないのだと思える。


 恋愛経験なんて何一つ持っていないけれど、それでも一番大切にすべきことは分かっているつもりだ。




「……ハルたそ」




 弥富が声を漏らしている。


 夕焼けの色が、その大きな瞳に反射して煌めいていた。




 いつもは五月蠅いツッコミで俺をけしかけるその口元も、その時ばかりは静かに噤まれていて…………。ははぁ。さてはこいつ、俺に感心してるな……? 普段アホなことしか言っていないハルたそが、今日はカッコいいこと言ってる! ステキ! とか思ってるんだろうなぁ。そうだろそうだろ。その通りだ。これでも俺は、やるときはやる男で——




「——でもおっぱいが大きい人がいいんですよね?」


「何言ってんだ当たり前だろ! できれば加納くらいデカい方が…………って、っぶねぇ、誘導尋問やめろよ。マジビビるわ。危うく喋っちゃうところだったわ」


「……いや全部喋ってましたよ。最低ですカスたそ。マイナス50点」


「何のポイントだそれは……」




 なんか知らんけど減点されてしまった……。カスたそになってしまった……。


 弥富はぷいっとそっぽを向いてしまう。そんな怒るような話でも無いと思うんですけどね。話しかけようにも「今は話したくありませんっ!」とか言われてしまう。だから別にいいじゃんかよ。俺が巨乳好きでも。


 よく分からんのでこっちも無言を貫くしか無い。視界の隅の方。先生たちは二人並んで座っている。動きはない。もうしばらく、ここにいるしかなさそうだ。


 手持ち無沙汰ですることがないなぁとか思っていた、






 そのときである。






「——例えば、部活に好きな人はいないんですか?」


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