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主人公補正

「どうなの、実績は? あるいは部活動で得た成果でもいいわ。あなたたちがアピールできることを何でもいいから話してみてちょうだい」


 先生が再び加納に問う。ものすごいプレッシャーだ。こっちのPPが2くらい減りそうな威圧感。


 先生のそれはまるで、「怒らないから言ってみ?」とか言うお母さんそのものだった。それ絶対怒るじゃん、怖いじゃんなんて思っていると加納が負けじと口を開いていた。


「実績、というものは無いかもしれません。……ですが、これまで私たちはたくさんの恋愛相談を聞いてきました。その度に議論して、アドバイスをして、一緒に悩んで、考えて……。答えが出なかったこともあります。納得してくれなかったこともあります。でもそうやっていろんな人の支えになるべく、私たちは活動してきたんです」


 言葉の一言一句から、彼女の真剣さが伝わってくる。


 部活に所属している俺でさえ、「そうなんだー」と首を縦に振っちゃうレベルの雄弁だ。


 加納の釈明、それは先生をしばらく箝口させるだけの効果はあったみたいだが。




 やがて……。




「それはあなたたちの主観でしかないわね」


「……っ」




 悔しそうに口を噤む加納。そんなことを言われたら元も子もない。ていうかさっきから先生が怖いんだよなぁ。なに今の。アレじゃん。『それってあなたの感想ですよね?』ってやつじゃん。もうどうしようもねえよ。何て返すのが正解なんだろう……。はい、私の感想です。(レスバ敗北)


「そもそも部活動としてやる意味が全く分からないわ」


「うぅ……。でも……私たちは、頑張って——」


「頑張っているのはどこも一緒よ。今問われているのは、あなたたちが部活動として活動しているその意味よ」


 先生が露骨な溜息を漏らした。まあなんだ。向こうの言い分も分からなくはなかった。実際、恋愛相談の活動をわざわざ部活動として行う意味を、俺たちは用意できずにいる。


 そういうのは仲の良い友達同士でやれば良い話だし、ほとんどの人はそうしているだろう。内容が内容だけに、基本的には内輪で解決されるべき悩み事であって、おおっぴろに相談会をやるようなものでもない。




 だが、結局のところそれは一般論にすぎない。




 だってそうではないか。恋愛相談部にやって来た相談者はこれまで数知れない。普通はそもそも来ないだろう。ふざけた部活だとバカにして、たまに話題のネタになるくらいが関の山だ。


 だが現実は違う。加納の知名度が相まっている分もあるが、恋愛相談部には確かな需要があるのだ。それだけは判然たる事実のはずで、誇ってもいい実績であるべきだ。




 しかし、先生は黙っている俺たち二人を見て言った。




「こう言ってはなんだけど、つまらない部活に時間を浪費するのは賢くないわね」




 思わず息を詰まらせる。


 先生のその表情は、まるで俺たちを嘲笑うかのようなものだった。




「——はっきり言って無価値よ。考えを改めなさい」




 先生がそう口にした瞬間、胸の奥で何かドス黒い感情がざわついたのに気付いた。






 ——無価値。






 そう、先生は口にした。彼女はそれを無価値だと結論付けたのだ。




 ……そうだろうか? 本当にそうだったのだろうか?




 これまでの恋愛相談、そのすべては本当に無価値だったのだろうか?




 相談者たちの苦悩、怒りも、戸惑い、笑顔。




 そして俺たちが必死に悩んで彼らに提案したアドバイスでさえも。






 ——そのすべてが、無価値だというのだろうか。






 ——いや、そんなはずは。






「先生」






 気付けば一歩前に出て、俺は先生の方を見据えていた。




 さすがに口出しせざるを得ない。今のは取り消してもらおう。普段は温厚で冷静沈着な俺とて、今の言葉は聞き逃せない。あぁ言っておくが、キレた俺はやべぇぞ……? なんて言ったってラブコメ主人公だ。その補正は半端ではない。


 言うなれば覚醒状態。もう誰にも止められない。その頑固さと危険度の高さから昔はよく『石包丁』と言われたものだ……。まあ嘘なんだけど。ていうか石包丁ってなんだよ。あんまり切れ味分かんねえよ。


「何かしら?」


 対して、こちらも高圧的な態度の可児先生。上等である。向こうが自信家でプライドが高くて威圧的であればあるほど『ざまぁ』のしがいがあるってもんだ。最近ネット小説でも流行ってるしね、ざまぁ。てことは待てよ……。今の俺、超ラブコメ主人公っぽくね? 先生に『もう遅い』とか決め台詞を吐けば完璧でしょ、これ。ハーレムラブコメ展開待ったなし。そのまま車に轢かれて『異世界転生』して俺は『悪役令嬢』に生まれ変わる流れだ。どんな話だ。


「言いたいことがあればどうぞ?」


 さぁみなさん。お待たせしました。みんな大好き、ざまぁタイムです。


 先生がやけに余裕ぶっこいているので、容赦はしない。ずったずったの、けちょんけちょんにしてやろう。




 俺は息を整え、そして口撃の体勢に入っ——!




「早くしなさい」


「……あっ、いやっ、別に大したことじゃ、ないんですけど……」


「陽斗くん、キョドりすぎよ……」




 愛想笑いを浮かべていたら、隣の加納にため息をつかれていた。普通に怖気付いてしまった。うーん、ざまぁ失敗☆


 大体この先生にざまぁしても意味無いからね。ヒロインレースに入ってこないから。まあ今のところ誰もレースにいないんですけど。


 俺ってば優しすぎるから、多少イヤな目にあっても多めに見ちゃうんだよな。その証拠にまだ加納を生かしてやってるし。優しさが罪すぎる。




 ……下らないことはさておき、再び先生を見据える俺。


 いい加減、この話に決着を付けよう。


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― 新着の感想 ―
[一言] いや、かっこわる! 予想はしてたけどマジでキョドるとは思わなかったよ!?
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