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出し物を決めよう 最終章

 ——恋愛感謝祭。加納はそう言った。




 聞いたことのない祭りである。少なくとも神社とかで催される祭りの類ではないだろう。


 もはや意味不明だった。脳が理解を拒んでいた。……おいなんだそれ。半年に一回オールスターで感謝するやつ?


 ちょっと加納が何を言っているのか分からないので反応に困ってしまった。そもそも字面だけでその内容を想像することすらできない。たまらず質問した。


「…………なにそれ?」


「何って……恋愛相談部の活動を、文化祭仕様に拡大したものよ?」


 拡大したものよ? とか言われても……。いや、知らねえし……。ていうか説明になってねえし。何するイベントか、全く分かんねえから。


 横を見れば、弥富も鳴海も首を傾げている。


「どういうこと、ことちゃん?」


「私も説明が欲しいです!」


 無論、俺もだ。……いや。だが説明されたところで俺が恋愛感謝祭とやらに一票を投じることだけは無いだろう。何するイベントかまでは分からんが、俺にとって絶対めんどいイベントであることだけは確定しているからだ。だいたいなんだよその企画名。


 加納は言った。


「恋愛相談部の活動の公開版、あるいは出張版と思ってくれればいいわ。体育館もしくはグラウンドを借りて、希望者に壇上に上がってもらうの。そして観客の前で登壇者には、自分の恋愛に関する『主張』を述べてもらう」


「……主張? それって」


 鳴海が声を上げる。それを見た加納が小さく笑った。


「そう、林間学校でやったレクリエーション。あれの恋愛バージョンを文化祭でやろうってわけ。ただ私たち恋愛相談部のアドバイスがあるわ。そこが林間学校と違うところ」


「……なるほど。だから普段の活動の拡大版、ってことですね!」


 弥富が納得の声を上げる。……ははぁ、なるほど。そういうことですか。俺も今の説明でようやく納得がいった。


 説明の通り、要は林間学校のレクリエーションと恋愛相談を混ぜたような催しといったところだろう。


 つまるところ、『公開恋愛相談』。


 確かに恋愛相談部ならではの催し物であろう。こちらで事前に準備することも少なそうだし、現実的に考えて実行できない企画という訳でもない。当日の流れと雰囲気次第だ。恋愛相談部という部活の催しとしてリンクもしてるし、企画の内容を聞いてみれば、正直悪くは無いと思うのだが……。


「成功するか失敗するか、結構シビアじゃねえかそれ」


 そう。逆に言えば、それは当日になるまで予想がつかないということ。なんてたって公開型の恋愛相談である。普段の恋愛相談ですらギリギリなのに、次から次へとやってくる恋愛相談をテキパキと処理するだなんて俺達にはかなり骨が折れるだろう。しかも下手なことは言えない。いやまあ、普段の活動だって下手なことは言えないのだが、観客の前となるとそのプレッシャーは計り知れない。


「それに、恋愛相談っていうのは基本的に恥ずかしいもんで、大抵は内輪で行われるはずだ。大勢の前で告白するって言うのならともかく、そんな場所で恋愛相談をしたい奴がいるとは思えないけど」


 俺だったら絶対にしない。確実に黒歴史入りだ。よく知らない人たちに恋愛相談を聞かれる時点でアウトだと思う。そりゃ中には奇特な奴もいるだろうが……。


 そう反論するも、加納の表情は変わらなかった。


「その辺りは大丈夫よ。きっと盛り上がるイベントになるわ」


「何を根拠に」


「だって文化祭よ? 私たち生徒が最も楽しみにしているイベントといっても過言じゃない。盛り上がるなら何だってする、そういう人たちがきっとこのイベントに食らいつくわ」


「そうですねー。林間学校のときも、みんな恐ろしいくらい盛り上がってましたからね。私も含めてですけどっ」


 自嘲気味に弥富が笑った。


 ああ、確かに。林間学校のときは加納の出番以降、登壇者は後を絶たなかった。


 皆恥を忍んでいたと言うより、恥じることすら忘れていたように思える。普段なら絶対に傍観を決め込む場面でも、林間学校という非日常の雰囲気に当てられて盛り上がっていた。言う通り、文化祭でも同じようになる可能性は高い。


「うーん……、まぁそうかもしれんが」


 とはいえ、成功率が高いかと言えば微妙なところだ。実際、林間学校のときは加納の出だしが無ければ皆を扇動することはできなかった。つまり雰囲気づくりが重要だということ。


 この企画をするならば、同じように文化祭当日も俺達で雰囲気づくりをし、成功に導く必要がある。すべてはそこにかかっている企画というわけだ。


 それって結構大変だと思うんですが……どうなんですかね。


「その企画、不安しかないんだが……」


「じゃあそういう陽斗くんは何か案があるのかしら? まだ一個も聞いてないけど?」


 すげぇ挑戦的な目でそう言われた。くっ……ナメやがって。


 何か言い返そうと口を開いてみたが、肝心の案が出てこない。そういえば俺はまだ何もそれらしい案を考え付いていなかった。


 一部不確定要素はあるものの、確かに加納の案は文化祭の出し物として良案だ。このまま考えても何か妙案が思いつくはずもないし、否定するのは筋違いだろうか……。


 いやでもなぁ。このまま言われっぱなしっていうのも気分が悪い。


 というわけで、俺の優秀な脳ミソの出番だ。バキバキ音を立ててフル回転させてみた。――バキバキバキバキ! ピカーン! その甲斐あって一つの答えが導かれる! ……おい、なんだ今のダサいオノマトペ。


 堂々と俺は答えた。




「文化祭に来た人のために、俺たちは部屋を休憩スペースとして提供して——」


「それ出し物って言わないわよ」




 加納にそう言われ、鳴海と弥富には苦笑いされてしまった。……なんでだよ! 休憩スペースあったら便利だろ! いい加減にしろ! ……まぁ出し物ではないですよね、はい。




 俺はしゅんとなって、以後口を開くことは無かった。


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