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出し物を決めよう 序章

「とりあえず、一人ずつ案を出してもらいましょうか」


 そんなこんなで始まった、文化祭の出し物を考える会。


 取り仕切るのは部長である加納琴葉。黒板の前でふんぞり返っているその姿は、形容しがたい苛立ちを感じさせる。そしてその他三人、俺たちがパネラーのようだ。


 加納の合図で、まずはシンキングタイムに入る。よく分からんが、まずは考えてみようか。


 銘々、黙りこくって思案を巡らす時間が流れる。




「出し物、ねぇ……」




 考え始めて、十数秒。


 静寂の中で俺は一人ため息をこぼしてしまった。


 むべなるかな。理由は明白だ。何も案など思い浮かばないのである。というか、そう簡単に思いつくことではないはずで……。そもそも出来ることがそんなに多くはないのだ。


 例えばクラスの出し物では、およそ四十人という人手を活かして様々な催事を計画できるだろう。予算もクラスで割り当てられた分があり、潤沢だ。それなりのことができるに違いない。


 定番どころでいけばお化け屋敷やメイド喫茶、演劇なんかもできるし、芸術作品を作り上げて展示会をする企画も考えられる。


 だが、恋愛相談部という小さなグループではこれが難しい。


 限られた予算、人手、校則との兼ね合い……必然的にほとんどの選択肢が排除されてしまう。


 せいぜい出来ることと言えば飲食系くらいだろうか。だが忠節高校文化祭は飲食系企画を全面的に禁止しているという。


「となると、ほとんど出来ることは無いな……」


 そもそも恋愛相談というコンテンツ自体、文化祭には向かないのである。部活の出し物というからにはこれに絡めた出し物をしたいところだが、悲しいことに何も思いつかない。何より俺にはやりたいことが無いのだった。考えが纏まるはずもない。


 困っていると、隣の席に座っていた弥富が元気な声を上げた。


「はいっ!」


「どうぞ、梓ちゃん!」


「ずばりっ、リアル脱出ゲームなんてどうでしょう?」


 自信満々である。弥富がふふんと仰け反った。すごいドヤ顔だった。


「はぁ……。リアル脱出ゲームってアレだろ? すげえ大掛かりなやつだよな。そんなの俺たち四人で準備できるか?」


「そうですかねー? 規模を小さくしたら、いけそうな気がするんですけど……」


 きょとんとした顔でこちらを見る弥富。ちょっと上目遣いである。お、おう……。——そんな目で俺を見るんじゃねえ。一瞬だけ可愛いと思っちゃっただろうが。一瞬だけ。


 いやいや、外見に惑わされるな。リアル脱出ゲームなんてめちゃくちゃ準備に時間がかかりそうだ。ダメだダメ。面倒臭いに決まっている。こんな意見が可決されてしまえば、俺の夏休みが完全に消え失せてしまうだろう。残りの夏休み、文化祭の準備で埋め尽くされるなんてマジ勘弁。


 なにか否定する言い訳が無いものかと頭を巡らせていると。


「梓ちゃん……、残念だけどそれは無理ね……」


 申し訳なさそうな表情で加納がそう言った。あからさまに肩を落として残念そうにため息をこぼしている。


 おお……。加納が一蹴したぞ。良かった。俺と同意見じゃないか。


「えぇー、なんでですか?」


「だって……、陽斗くんが問題を作れるとは思えなくて……。バカだし……。だから準備に時間が、ね?」


「なるほどっ」


「——なるほどじゃねえよ」


 おい納得すんな納得。おかしいだろ。なるほど要素一個もねぇよ。ていうか『バカだし』って普通に悪口じゃねえかぶっ飛ばすぞ加納。


 それになぞなぞくらい作れるっつーの。……い、いやホントだよ? 嘘じゃないよ? マジマジ。ええっとそうだな……、じゃあ問題です! ——れいぞうこの中にいる動物はなーんだっ? 正解は、そんなのイルカ! …………とかな。——はい、ごめんなさい、やっぱり脱出ゲームはナシの方向で。


「はい」


「今度は莉緒ちゃん、どうぞっ」


 次に手を挙げたのは鳴海だ。


「映画みたいなのを撮影するのはどうかな……?」


「なるほど、映画ねぇ……」


 加納がうんうんと頷く。……映画か。まぁ演劇とかに比べれば人手もいらないし、場所も取らない。クオリティにもよるがそこそこの時間があれば完成も現実的だ。


 案を聞いて真っ先に気になったのは編集だが、俺くらいのPCマスターになるとそれくらい余裕で出来てしまう。まあ自分で作った動画をネットにアップロードすることが珍しくない時代だ。ソフトによっては簡単に編集できるものもあるし、その辺は問題無いと思う。


 演者も自分たちでやれば良いしな。演技力に関しては期待できないけれど。でもそれはそれで文化祭らしい映画と言える。こういうのは完璧さが求められているわけではなく、詰まるところ楽しんだもん勝ちなのである。だからこの点についてもOK。


 となると、一番の問題は……。


「映画にするなら、脚本をどうするかだな」


 映画の評価を決めると言っても過言ではない脚本。正直どうやって書くかなんて知らないし、書くにしてもかなりの時間を要するに違いない。


 それに誰が書くかも大事だ。今ここにいる四人のうち、まともな脚本を書けそうなやつは誰か……? うーん、そうだな。鳴海が適任だろうか。だって弥富は文才無さそうだし、加納は怖いし、俺はバカらしいし……。


 そんなことを思っていると、加納が口を開いた。


「脚本なら、私が書くわよ?」


「……お前、脚本とか書けるの?」


「書いたことは無いけどアレでしょ? 有名なドラマや映画をパロディに、面白おかしく書けばいいんでしょ」


「まあ、文化祭で上映する映画は大抵そんなもんか」


 確かにそうだ。加納の言う通り、完全オリジナルの脚本を用意する必要はない。どこの学校でも、ほとんどの自主製作映画はパロディみたいなもんだろう。むしろ設定等を解説する必要が無い分、観客の見やすさはぐっと上がるはずだ。脚本としても書きやすいし、方向性は悪くない。


 それに加納って頭良いらしいしな。文才も期待できるかもしれない。前に読書感想文で優秀賞取ったことあるって死ぬほど自慢してきたくらいだし。うん。一抹の不安があるとすれば、そのとき加納が課題図書に選んだのがドグラ・マグラだったことくらいか……。


 だが可能性は十分。むしろ面白くなる気配すらある。自主制作映画——もしかしたら、結構良い案なのかもしれないぞ……。




「——となるとそうね……。アレね。ナッドサット語を勉強する必要があるわね」


「結局キューブリックかよ……」




 はい。前言撤回。そうでした。こいつは重度のキューブリックファンでした。ていうかあの作品をパロるのはちょっと無理があると思うんだが。だいたい今どきの高校生に通じねえよそのネタ。


「お前に脚本を書かせたら、とんでもないディストピア映画が生まれそうだから却下」


「はぁ? なによそれ? 意味わかんない」


 不服そうにこちらを睨みつけてくる加納。まぁそれ以外にも映画って道具の用意とかでいろいろ金かかりそうだしな。あと俺に演技なんて出来るわけがないので、どちにしろ不採用だと気付いた。ごめんね、鳴海。全然良い案じゃなかった。


 さて、いよいよ何をしたもんかなと考えあぐねていると、今度は加納が手を挙げた。


「わたしからもいい?」


「あぁ、はいはい。どうぞ」


 適当に発言を促す。なんか笑みを浮かべている時点でもう嫌な予感しかしない。




 加納はわざとらしく咳払いをした後、口を開いた。




「——ずばり、『恋愛感謝祭』よ」



今週から、投稿ペースを週2回に上げたいと思います。

毎週、月曜と木曜に投稿する予定です。時間帯は朝早くか夕方になるかと思います。


読者の皆さま。

いつも読んでくださって、本当にありがとうございます。

これからもよろしくお願い致します。

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