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EX 男女の友情は成立するだろうか? 前編

本編とは関係ない、おまけ話です。

時系列では第1章と第2章の間になります。


※現在、第4章連載の準備中です。今しばらくお待ちください。


 ――男女の間に友情はあり得ない。


 ――情熱、敵意、崇拝、愛情はあるが、友情は無い。




 かの有名なオスカー・ワイルドの言葉である。








 恋愛相談部に入ってしばらくが経った。思えば早いもので、こんな何するか分からないアホみたいな部活に来てもう一か月以上だ。退部届はとうの昔に書き終わっているのに、未だに提出できていない自分が情けないと感じる、今日この頃。


 スマホをだらっと見ながら、俺はその言葉の意味について考えていた。




 ――男と女。そして友情。




 俺は部活を通してこれまでに何件かの恋愛相談を聞いてきたわけだが、その中で『男女の友情』に関する話題があったことをふと思い出す。


 いつだったか、その日相談者は言った。――最近仲のいい男子から告白されてしまったのだと。曰く彼女はその男子のことを、仲の良い友達くらいにしか見ていなかった。だが男子の方はというと、最初から告白する気満々だったという。


 良くある話だ。恋愛相談部に持ち込まれるくらいなので、全国では頻発している事案に違いない。ネットで調べようものならこの手の話はわんさか出てくる。『男女の友情は本当にあり得るのか、衝撃の事実! アンケートを数百人に取ってみました! その結果、なんと! あり得る派とあり得ない派とで半々くらいでした! つまり人によりますね!』……っておい。それ結論になってねぇよ。衝撃の事実どこに行ったんだよ。


 ドラマや漫画、俺が良く見ているアニメにだって、男女の友情を試されるような機会は多く見られる。もはや永遠のテーマと化しているらしい。男女の友情はあり得るのか。そういう議論が世に蔓延っているのだ。




 ――まったく。どうでもいい話だ。




 実に下らない。あり得るだのあり得ないだの……。そんな議論は不毛としか思えないんだが……。考えるだけ無駄ではなかろうか。そりゃそうだ。俺なんて見て見ろよ。まずまともに喋れる女子がいない。本当に考えるだけ無駄だった。……俺の場合は、ね。


 しかし、どれだけ無意味な議論のように見えても、今なおこうした論争が続いていることは事実だ。それはこのテーマに関心がある人が多いからであって、未だその議論に決着がついていないからなのだろう。




「……馬鹿らしい」




 ある日の放課後。恋愛相談部、部室。


 来客の無い恋愛相談部はまるで図書室のように静謐である。


 とても静かだ。恋愛相談部の活動内容は、部の名前にもある通り恋愛相談。相談者がいなくては務まらない。つまり来客が無ければやることも無いので、こうして下らないことを考えてはボーっとしている。


 話し相手がいれば暇つぶしになるのだろうが、生憎そういう役回りがいないので始末に負えない。……いや、誰もいないわけではない。近くに人はいるのだ。うん、いる。ホモサピエンスはいる。……いるんだが、『話し相手』がいないというだけの話。


 視界の端、もうほとんど俺の視野に映りこんでいないその場所に、女の子二人が隣り合って楽しそうに話していた。




 恋愛相談部部長、加納琴葉。


 恋愛相談部部員、鳴海莉緒。




 二人が談笑に耽る様は、傍から見れば微笑ましい光景そのものだった。楽しそうで何よりである。何話してるか知らんが、ガールズトークしているのだろう。……いいよなぁ女子って。女子ってだけでガールズトークできるんだから。俺はどう頑張ってもガールズトークできない。ちくしょう。悔しい。


 あと何といっても二人とも抜群に可愛いのだ。さながら二人が話している背景に色々花とか咲いてそうだ。……少女漫画かよ。でも咲いてても違和感ないと思うよ。うん。目の保養にもってこい。もはや目薬いらないレベル。彼女らのその姿を見れば、こちらもほっこりすること間違いなし。


 このように、俺のすぐ近くには美少女二人がいるわけだが……。




 ――問題は、俺が二人とあんまり仲良くない、ということである。




 うん。本当にね。びっくりするほど仲良くない。




 まず加納。加納琴葉。またの名を爆乳ゴリラ。なぜ仲良くないか……ってこれ説明する必要ある? ないよね? 説明いらないと思うけど一応しておこうか。――加納は性格がクソなのである! はい以上!


 そして鳴海だ。鳴海は最近この部活に入ってきた新入部員。こんな部活に自ら志願するとか相当血迷っているに違いない。あと、ぶっちゃけあんまり話したことが無い。


 そういうわけで、俺はあの二人と仲良くガールズトークできる立場にないのだった。混ざりたいけど混ざれない……。でも声をかけに行くのはちょっと違う。……嗚呼、陰キャのSAGA。故に俺は少し離れたところで椅子を構え、こうしてスマホをいじっている。


 暇である。実に暇だ。


 下らないことを思考して、時間が過ぎ去っていくのをただ待っている。




 ……あれ。さっきまで何考えてたんだっけ。ど忘れした。中身のない考え事はすぐに忘れてしまう。――男女の友情、だっけか。




 そうだそうだ。それでさっきの話に戻るが……。例えば俺と加納、俺たち二人の関係に友情の類は一切存在しない。もう知ってると思いますけどね、ええ。あるとすれば、憎悪、辟易、失望、憤懣、殺意……。一緒に部活してしばらく経つというのにポジティブな感情が全く出てこない。むしろ一か月でこれだけ負の感情が湧いてるのがすごい。


 いや、でも……。男女の友情を語る上で、加納はサンプルとして不適切か。だってあの加納だもんな。そもそもあいつとは恋愛関係になることも無いだろうし。異性云々の前に、俺あいつのこと人として嫌いだから。うん。……で、いつになったらメインヒロイン出てくんの?


 じゃあ鳴海はどうだろうか。……そうですね。ちょっとまだ分からないが、鳴海についても友人関係になることはないと思う。二人で話せって言われたら多分何も話せないだろうし。俺たちが友達みたく楽しく過ごしている場面をあまり想像できなかった。


 春日井なんかも絶対無理だろうな。友人なんてあり得ない。いや、ほんと。絶対無理だわ。あんなギャルと話したくないから……。――ちょっと思ったんだけど、サンプルが不適切なのって俺の方じゃね? 俺がヤバいだけなんじゃね?


 まあいずれにしても、オスカー・ワイルドの言葉は正しいのかもしれない。男女の友情なんて俺には想像すらできなかった。異性の友情ほど不安定で脆いものは無いのかもしれないしな……。ところでオスカー・ワイルドって誰だ。




「――何見てんの?」


「うぉっ!? びびった……」




 バカみたいなことを考えていたら、加納が俺の背後から暗殺者の如く忍び寄っていた。いつの間に……。いきなり声をかけてきたもんだから変な声が漏れてしまった。こいつに隙をさらすとは不覚だ。


「何キョドってんの、だっさ……」


 挨拶代わりの暴言。もちろんこれが俺と加納の今日初会話である。


「うるせえよ。俺は耳が性感帯なんだっつーの」


「柳津くん、そんな堂々と言うことじゃないよ……」


 後ろの方で、鳴海が苦笑いを浮かべながら俺にツッコミを入れてくれた。……いい人なんだな、鳴海。自分で言うのもなんだが、今の台詞は相当キモかったぞ。大半の女子が今ので俺と絶交することを決意するレベル。


 いつもなら加納にドン引かれて終わりだが、鳴海の前ではそうもいかない。ちゃんと謝っておこう。


「ああ、悪い……。気を付けるよ」


 下ネタなんてモテない奴が言うことだからね。マジで気を付けないと……。いやでも待てよ。この前クラスのイケメンが周りの女子に『もうっ、○○君のえっち!』って言われてたんだけど。あれなに? すげえ下ネタウケてたんだけど。どういうこと? ……結局あれか。結局イケメンがいいってか。――かぁっ、卑しか女ばい! やってられねぇな! えっちがお好みなら俺の方がえっちだっつーの! はいっ、エッチなこと言いまぁす! ち〇こち〇こ! ぞうさん! ……何を言っているんだ俺は。


「また何かキモいこと考えてる……」


 と、加納がいつものゴミを見るような目で俺を見ていることに気付く。


 今回ばかりは考えてることがアホ過ぎたので何も言い返せなかった。ぞうさんてお前……。ていうかこいつはなんで俺の心読めるんだよ。マジでエスパーかよ。


「それで、結局何見てたのよ?」


 呆れた様子の加納が、再び俺のスマホを覗き込んできた。


 反射的にスマホの電源を切るところだったが、それはそれで意味がついてしまうと思い寸前で止めた。言わずもがなスマホは個人情報の塊だ。加納の行為はプライバシーの侵害である。


 いや、マジで。覗き込むのは止めてくれ。なんか良い匂いするし……。




 ――てか顔が近い。近すぎる。




 くそっ。こいつは俺のことが好きなのか嫌いなのかたまに分からなくなる行動をしてくるからマジで困る。パーソナルスペース無いのかよ。おい、見るな見るな。どうすんだよこれで俺がエロ動画とか見てたら。こんなところで見るなって話になりますね、はい。


 ていうか、俺が今見てるサイトって――


「……偉人? 名言集? なにそれ、面白いの?」


「あぁ……いや。暇すぎて、つい、な」


 思わず取り繕ったような言い方になってしまった。咄嗟に気色悪い笑みまで零れてしまう。


 俺が開いていたのは、偉人達の名言集というサイト。みんなが知っているあの偉人から、誰も知らないあの偉人まで、深イイ言葉が選り取り見取りである。


 暇なとき、なんか良い言葉無いかなぁって思って最近調べてしまうのだが……。


「へぇ。そういうの見るんだ」


「…………お、おう」


 再び愛想笑い。はははっ……。名言とか調べちゃってる俺超恥ずかしいんだけど……。胸が痛い。何だこの感情。初めて恋心を知ったサイボーグばりに胸が痛い。


 でもなんで『偉人 名言』とか調べちゃうんだろうね? ――てか、みんなもググっちゃうよね? そうだよね? 俺だけじゃありませんように……。


「名言かー。何かいいのあった? 暇だから聞かせてよ」


「……はぁ。そうだな」


 バカにされるかと思っていたが、思いのほか加納は食いついてきた。


 何か良い名言か……。そうだな……。脳死で見てたからあんまり覚えていないんだが。


 キェルケゴールの『結婚したまえ、君は後悔するだろう。結婚しないでいたまえ、君は後悔するだろう』とかちょっと面白かったけどな。あと『トイレでタバコ吸うな、喫煙所でうんこするぞ』とかも。……名言じゃねえ。


 他にも調べたらたくさん出てくる。興味がある人は調べて見ると良いだろう。元気が出る名言だったり、心に刺さる名言だったり、前向きで行動的になれる名言だったり……。そういう名言を見てる奴に限って、結局何も行動しないんだよね。……あぁ、今のは自己紹介です。どうも、柳津陽斗です。


「あっ、そういえば」


 と、さっきまで見ていたあの言葉を思い出した。


 あまりにも暇すぎたせいか、考えるよりも先に口が開いていた。






「――お前らって男女の友情とか信じる?」

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