表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

110/291

最初の課題

「――おはよう、柳津くん」


「おう。久しぶりだな」


 いつもの控えめな笑いを浮かべる鳴海。自信のなさそうな細い声は今日も健在だ。


「なんだかすごいことになってるね? 弥富さん……っていう人の恋愛相談をするんだっけ? 私も電話でことちゃんから話は聞いてるんだけど……」


「そうか。なら話は早いな」


 そう言い『ことちゃん』こと加納の方へと目をやる。だが加納の方はというと、俺たちではなく完全に別方向を向いていた。こいつ……。近くの男子に笑顔を振りまいてやがる……。手なんか振っちゃって何してんだお前――って、ああそうか。一応こいつ学校の人気者だったな。完全に忘れてた。


 アイドル活動に忙しそうだから鳴海と話をすることにした。


「相談の内容とかも一通り聞いてるか?」


「うん。大体は聞いてるよ」


「そっか。まぁ部活動だし、ここは割り切って協力するしかないわな」


「ははっ、そうだね。頑張ろう、柳津くん」


 微笑を浮かべる鳴海。彼女の繊細な笑みには思わず見惚れてしまう魅力のようなものを感じる。


 加納が常に隣にいるからあまり感じていなかっただけかもしれないが、鳴海は笑顔がすごくかわいい女の子である。もし俺がラブコメの主人公だったら、性格とかも踏まえて絶対に鳴海ルートを選択するだろう。加納は絶対に選ばない。言うまでもないが。……ちなみにどっちにもフラれちゃうんですけどね。ラブコメの主人公とはいったい……。


 ――まぁいいや。ところで鳴海って、まだ弥富と面識はないんだよな。


 今思ったんだが、どう考えてもこの二人、マッチングしなさそうな組み合わせだ。


 一抹の不安、いや……。十抹くらいの不安がよぎった。


 一応、これも聞いておくか。


「弥富のキャラについても聞いてるか?」


「まぁ、だいたいは……?」


「そうか。強烈な奴だから気を付けろよ。劇薬と思えばいい」


「毒扱いなんだ……!?」


 猛毒もヤバいやつも扱いは慎重に。おじいちゃんがそう言ってたから間違いない。


 鳴海が初手、あいつのキャラを知れば驚くこと請け合いだ。ドン引きとかしなければいいが……。


 そんなことを思っていたときである。向こうの方から、聞き覚えのあるアニメ声が聞こえた。……来たな。




「――遅れましたっ! おはようございますっハルたそ! 頼りにしてるんでよろしくお願いしますねっ!」




 弥富だ。大きなリュックを背負ってこちらの方へやってきた。噂をすれば何とか、というやつか。


 にしても、おい。声でけぇよ。うるせえよ。みんなこっちに注目しちゃっただろうが。 


「ああはいはい。よろしく」


「よろしくね、梓ちゃん」


 対して俺と加納のトーンは低い。あんまりこいつにツッコミとかリアクションとかエネルギー使っちゃダメなんだよね。じわじわ体力持ってかれちゃうから。やっぱり毒かよこいつ。


 関わりたくねえなぁとか思っていると、鳴海が俺の肩をトンと叩く。


「あっ……この人が弥富、さん?」


 困ったような笑みを浮かべて鳴海が俺に尋ねる。なぜか俺と視線が合って……ってあれ。あのあの鳴海さん? それは本人に直接聞けばいいのでは……? 早くも俺頼みになってませんか? 大丈夫ですか?


「えぇっと……。おはようございますっ……。弥富さん、ですか?」


 俺の胸中を察したのか、鳴海が弥富に声をかけた。まるで宇宙人でも相手にしているかのように、恐る恐る感がすごい。未知との遭遇かよ。……てか鳴海さん、やっぱりちょっと引いてる感じだ。テンションの差に驚いているのか、口を開けたまんま。もうマッチング不成立見えてるじゃんこれ。


「はいっ! 私が弥富梓です! よろしくお願いしますね! リオ〇イアさん!」


「り……、リオ〇イア……?」


 鳴海が一歩後ずさる。そうです。この子が弥富梓ちゃんです。


 予想以上のキャラだったのだろうか、リオ〇イアこと雌火竜は「あはは……」と苦笑いを浮かべていた。すげぇサマーソルトしそうな名前を付けられたな、鳴海。もう気まずそうに遠くの方を見てるじゃねえか……。


 ため息をこぼす。まぁなんだっていいんだけどよ……。ひとまず、これで役者は揃ったな。


「んでこれからの予定はどうする? 俺はもう家に帰るんだが」


「――え、え……? なんで帰っちゃうの……柳津くん」


 俺のボケに反応してくれたのは今日も今日とて鳴海だけ。他二人は俺のことを見てすらいない。鳴海だけが幸せな未来を送ってくれたらいいなぁって、ホントに心の底から思う。


「じゃあ最初のお願いなんですが……」


 やはり俺のボケはスルーされ、何事もなかったかのように弥富がそう切り出した。


「林間学校までバス移動じゃないですか? その席は選べると聞きました」


「そうね。クラスが違ってもバスの席は自由みたい」


 加納が頷く。へぇ、そうなのか。普通に知らんかった。


「はいっ。だから智也くんも含めた皆さんのグループに、私も混ぜてくださいっ!」


 高らかに宣言するように、弥富はニコニコ笑顔でそう言った。


 なるほど、ねぇ……。


 最初の相談としては適切な難易度だろうか。


 要は智也と弥富の接触をサポートしろ、と。


 まあやろうと思えばそんなに難しくは無いだろう。


 幸いにも、最大の関門である春日井は弥富との面識がないみたいだし。


 そもそも春日井が弥富の顔を知っていたら、サポートなんてできるわけが無いが。


 だから問題を挙げるとすればむしろ――


「智也がなんて言うかだよなぁ……」


 一度振った女を忘れてしまうほど、あいつはクソ野郎というわけではない。バカだがそういうことはしっかり覚えているタイプだと思う。


 故に最初にして大きな問題と言えば、智也と弥富の再会がぎくしゃくしないかということだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ