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彼女の素顔

本性表しました。

「……ハハハ、いやぁ、さすがだねー。見破られちゃった、あはははっ」


 大声で笑う加納さん。その声音はさっきの笑い声と一緒だ。……何を言っているんだと俺は言葉を出すことも忘れて呆気にとられていた。


「な、なにを……」


「アンタ、やっぱり噂通りだね。素直に感心したわ」


「感心……? ていうか、どういう。……え、噂ってなんだよ」


 なんだよ俺の噂って。俺が聞いたことねぇよ。陰キャの俺が学校に噂なんて生むはずないだろ。どこの闇ルートで売られてんだその噂。


「まぁいいや。本来の目的とは関係ないし。バレたところで問題じゃないか」


「…………?」


 さっきまでの加納さんはどこに……。あの明るく透き通る声はいつの間にかドスの利いた泣く子も黙る低音ヴォイスになっていた。もしかしてこいつ二重人格?


「加納さん、ですよね?」


「はぁ? 何言ってんの。キモいんだけど。ていうかそのさん付け止めて。キモいから」


「お、おう……そうだよな」 


 なぜか二回キモイと言われていた。


 加納さん―もとい、加納の豹変ぶりは、太陽が西から昇るくらいの衝撃だった。それは二重人格と言われても納得できちゃうレベル。急に人格変わり過ぎだろこいつ。おいおいどうなってんのこれ。


 いや、落ち着け。落ち着くんだ俺。


 ……つまりこういうことだ。俺の予感は正しかった。加納は猫をかぶっていた。こっちが本当の加納琴葉。違和感の正体にして、恐らく何か企んでいる張本人。そういうことだろ?


「さすが『恋愛マスター』だね。女心がよく分かってる」


「女心ってそういう意味じゃないだろ……。おい、なんで俺の中学時代のあだ名知ってんだよ」


 危険な匂いがプンプンする。本能が逃げろと叫んでいる。この女はヤバい。


「なんで私の正体が分かったの? こう見えて、私は自分を演じるのがうまいと自負してたんだけど」


「なんで、って言われてもな……」


 明確な根拠などない。ただ、違和感があっただけだ。ていうかこいつ、自分で『正体』とか言っちゃってるよ……。なんかもう怖いって。


 俺は数々のラブコメアニメを見てきたし、ギャルゲー、エロゲ―をもこなしてきた。だから見抜けたのかもしれない。彼女の違和感に。……んなわけないよね。


 いや、ただの直感だ。あまりにも彼女は理想的過ぎていた。浮世離れとまではいかないが、まるでギャルゲーのヒロインのように、彼女はどこか都合がつきすぎていたように思えた。


「まっ、だからこそ私はアンタと接触したんだけどね」


 そう言って笑みを浮かべる加納。……だから怖いって。ついさっきまでの加納さんと同じ笑顔なはずなのに目が笑っていないのがよく分かる。もはや恐怖通り越して尊敬。こいつ前世詐欺師だろ絶対。


「それで、俺に何の用だ……?」


「今までの話聞いてたら分かるでしょ普通。恋愛相談部に入ってほしいの」


「いや、今までの話って……。ちょっと待て。部活が無くなるっていうのは嘘なんだろ?」


「嘘じゃないわよ。別に嘘つく理由もないし。明日この部活が廃部になるのは本当だし、私が廃部にしたくないのも本当のこと」


「……どういうことだ?」


 意味が分からん。


 俺が首を傾げていると、加納は俺のことをバカにしたような声で答えを示す。


「まあ分からないよね……。私がこの部活に居たい理由。それは決して、みんなの恋愛相談に乗ってあげたいなんていう慈善からくるものじゃないってこと」


 加納はそう言って俺の反応を確かめるように一瞥した。なんかよく分からんことを言っているが……。とりあえず睨み返すと加納は鼻で笑って話を続けた。


「私、この二カ月で二十人近くに告白されたの」


「何の話だよ」


 突然話題変わり過ぎだろ。どういう脈略だよ。


「正直、ほとんど毎日のように告白される日々にうんざりしてるのよね。みんな私の外見だけを見てる。初対面の人に告白されたことも何度かあるの」


 なんか聞いててイラっと来たので横槍を入れる。


「急に自慢ですか」


「そうよ? 私可愛いでしょ」


「そりゃまあ……。外見『は』なかなかのものだと思うぞ俺も」


「悪意を感じるアクセントね? まるで外見だけとでも?」


「そう言ってんだよ……!」


 俺が加納を睨むと、加納は俺の視線をぶった切って窓の外に視線をやった。


「つまり私って、可愛いしみんなから慕われている立場なの。その立場自体は嫌いじゃない。だから男子に告白されるのも、ある程度無理はないと思っているわけ」


「……はぁ」


「私が恋愛相談部を存続させたいのはそういうことよ」


「話が全く見えんのだが……。男除けが欲しいってことか?」


「それは理由の一つね。もう一つは私のイメージを守りたいから」


「……? イメージ?」


 何言ってんだこいつ気持ち悪ぃなと思っていると、加納は大きなため息をついた。


「そう。恋愛相談部に入って、みんなの恋愛を応援してくれる『可愛い可愛い加納琴葉』のイメージよ。言っておくけど私がそのイメージを作ったんじゃないからね。周りの勝手なイメージだから」


 まるで疲れ切ったOLのような表情だ。俺より十年は長く生きてんじゃねえかって思えてくる。


 ていうかさっきからこいつは何を言ってんだよ……。


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