一流の断り方
智也に事情を聞くと、なんでもさっきの女子は面識の少ない他クラスの女子だという。
彼女は智也に一目惚れし、玉砕覚悟で告白をしたらしい。
しかし智也には春日井美咲という彼女がいるわけだ。当然、智也はその告白を断った。
事の成り行きは、そんな感じだと言うのだが……。
「にしてもあの女子、なんか嬉しそうだったな。告白断られてんのに」
「そんなことろまで見てたのかよ、趣味悪いぜ陽斗」
「いやまぁ……。見えちまったもんはしょうがないだろ」
見えてしまったというか、まあ、しっかり観察してたわけですが。
「なんて言って断ったんだ?」
「そんなこと聞いてどうすんだよ」
「いや普通に気になってさ……」
ぜひとも参考にしたいところだ。気がない女子を傷つけない紳士的な振り方というやつを……。うーん、使う機会あるかなぁ。
「まぁ、そうだな……。なんて言ったっけ。たしか――俺には彼女がいるから付き合うのは無理だ、って断ったよ。でも友達になるのは全然アリだし、どこか遊びにいくとかなら誘ってほしい、みたいな?」
「えぇ……。そんなこと言うか普通」
「俺なりのフォローだよ。断っただけじゃ、なんか申し訳ないだろ」
これがイケメンリア充の一流の断り方という訳か。傍から聞いていればなんだか腹立たしいが、告白した女の子からしたらそれは救いの言葉になったのかもしれない。そういうものなのか……。よく分からんけど。
「すげぇな智也は。俺には理解できねぇ」
「そんなことねぇよ……。はい、やめやめ。この話はやめよう」
照れ笑いを浮かべた智也が、大げさに手を振っている。
まぁ、この話で智也を弄るのはこれくらいにしてやるか。こんな話が春日井にバレたらまた誤解されるかもしれないしな。
それに今は、もっとヤバい事態になってるし……。うわぁ、思い出しちゃった。あんまり考えたくないんだけど弥富の件。
「そろそろ向こうに戻ろうぜ? みんな集合してるだろ」
智也がそう言う。確かに出発の時間が近づいていた。
バスが並んでいる正門の方へと戻る。
道中、智也は咳ばらいを挟んでから意気揚々と林間学校の話を始めた。
「いよいよ林間学校だな、楽しみだ」
「そうかよ」
「……ん? 陽斗は楽しみじゃないのか?」
俺の返事に納得していない様子の智也が、こちらを窺う。
「どうだろうな。まあ楽しみなことはあるぞ。林間学校近くにあると噂の混浴温泉とか、な……。あとは無い」
それ以外に価値なし。エロだけが信じられた。世界の中心はエロ。もはや世界はそれをエロと呼ぶんだぜ!
……ははぁ、どうやら夏の暑さで頭がおかしくなっているようだ。普段から頭がおかしいという説もある。
そんなことを思っていると、智也が首をかしげていた。
「混浴温泉……? あぁ、林間学校の近くにあるっている、あの温泉か」
「そうだな」
「確かに昔は混浴だったらしいだけどなぁ。今は男女別々みたいだぞ?」
「――帰るわ」
「え、あ、ちょ……?」
「いや今の情報で俺の楽しみゼロになったわ。解散だ解散。キャンプファイヤーとかハイキングとかやってられるかっつーの」
そんなリア充だけが楽しめるイベントなど、断じて許さない。
どうせあれだろ? キャンプファイヤーを囲んでなんか踊ったりするんだろ。しかも最後まで踊ってた男女が結ばれるとかなんとか。あーきしょいきしょい。
なーにが結ばれる、だっつーの。ふざけんなよマジで。そもそも俺と手をつないでくれる女の子がいねえんだっつーの。そんな場面で踊ってくれる女の子なら、そりゃ脈ありに決まってんだろいい加減にしろ。
とか思いながら目を腐らせていたときだ。こちらを同じく腐った目で見てくる視線に気付いた。
「あ……」
視界前方。そこに美少女二人を発見。
近くを歩く男子たちが揃いも揃って、二人を見ては「どっちも可愛い……」とか「同じバスに乗りたいなぁ」とか言っていた。まあ確かにその二人は抜きん出て可愛い女の子たちだ。
ここから眺めている分には目の保養として十分機能するのだが、問題は内一人からすげえ目で見られているのと、面子が二人とも部活の関係者だったのとで全くワクワクしないことだった。
どうやらこっちに来いということらしい。ワクワクじゃなくて胸騒ぎがした。
「行って来いよ? また部活があるんだろ?」
「……みたいだな。ちょっと行ってくるわ」
「おう。また後でな!」
智也と一旦分かれて、俺は重い足取りで彼女たちの方へ。
加納、鳴海の姿がそこにはあった。
集まっている理由は大方予想できる。弥富の相談について、これからの三日間の事前打ち合わせでもやるんだろう。




